顔面強打の恩恵
転んだことで魔法の存在を知ることになるとは思わなかった。今まで誰も魔法使ってるのを見たことがない。前世でドハマリしてこっそり隠れて読んでいた異世界ものの物語も家の中でもバンバン魔法を使っていたから、ここは異世界でも魔法のない世界だと勝手に思い込んでいた。
お父様と軽食をつまみながら詳しく話を聞くと日常生活では魔法を使わないのが一般的らしい。怪我は治せるけど、病気は治せないなど魔法といっても万能ではなさそうだ。
それでも、使いたい。物語で憧れた魔法に。
「わたしもまほうつかいたい!」
「無理だ。」
――ガーン……。即答されすぎて泣きそうになる。
「違う!違うんだアイリス。」
泣きそうに俯いた私にお父様が慰めるように声をかけてくる。
「女性には10歳の魔力鑑定の日まで一切魔法の使用を禁止されているんだ。」
お父様曰く、過去に女性が魔法で命を落としたことがあるらしく禁止になったそうだ。おいおい、過去の女子達よ、なにしてくれてんの。あと7年も待たないといけないじゃないか……。
あれ?でもお父様は確か『女性には』と……。
「おとこのひとは?」
「10歳で魔力鑑定はするが禁止はされていない。」
「……うぅ。なんでおんなのひとだけ……。」
「それは女性の数が少ないからじゃないか。」
「――え?」
けろりと、何を当たり前のことを。というような顔をして衝撃的なことを話す。衝撃に固まっていると、いつの間にか居たシークが一礼したかと思うと。
「旦那様、アイリスお嬢様の淑女教育は6歳からでございます。」
「そうか、知らなかったのか。気が付かなくてすまない。」
申し訳なさそうな顔をしたお父様が頭をなでてくる。 ……くっ。すごいイケメンのなでなでの破壊力ヤバイ……。
少し話を聞くと、なんと女性が100人に1人しか産まれないらしい。ってことは私はかなりめずらしいのだろう。私しか子供がいないみたいだし、お父様は一人目で女の子が産まれてかなりの強運なのだろう。そのうち弟か妹できるのかなぁ。
――――あれ?そういえば母親を知らない!!
いや、イケメンに囲まれて毎日必死で忘れていたわけじゃないよ!本当だよ!……嘘です。存在自体すっかり忘れていました……。だってこの3年間で話題に出たことが一切ないんだよ?
「おとうさま、わたしおかあさまにあいたい。」
その瞬間、ピシッっと空気が固まるようにその場の全員が止まった。
あれ?聞いたらダメなやつだったのかな?不安になって俯いているとお父様が手を握ってきた。
「すまないアイリス。母親のことはもう少し大きくなったらちゃんとお話しするからそれまで待っててくれないかい?」
「おとうさま……。」
小さく頷くと悲しそうなお父様の笑顔が見えた。
◇◇◇◇
アイリスが退室したあと、大きなため息をついて椅子にもたれた。
「……会いたいか……。俺も会いたいよ…。」
「坊ちゃま……。」
「あぁ、わかってる。いつか話さないとな…。」
『母親がこの世にいないことを』
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