回転リバース
「待て待て待て待て!!」
国王陛下が焦ったように引き留める。
「はぁ……なにか?」
「なにか?じゃねぇよ!非公式だからいいけど、国王だぞ!報告とか娘の紹介とか色々あるだろうが。」
「非公式だから国王とか関係ないんじゃ?」
「ぐっ!!嫌なところだけクルーエルに影響されやがって。わかった、わかったよ!あとはやっとくから。今度はちゃんと正式に招待するさ。」
はぁ。と諦めたようにヴァート陛下はお手上げという感じに両手を挙げた。
「都合が合えば行こう。都合が合えば。」
「それ来ない奴が使う社交辞令じゃねぇか!まぁいい。エリクは必ず来ることになると思うよ。」
ニヤリとヴァート陛下が笑う。
◇◇◇◇
馬車が到着する。お父様に抱っこされたまま馬車から降りると、いつもの我が家が見える。ずっとフェクト殿下の部屋でお世話になっていたから久々に家に帰ってきたという気になる。
「お帰りなさいませ。」
シークを筆頭にズラっと並んでお出迎えしてくれる。小さい声で口々に「良かった」という安心を喜ぶ声が聞こえる。
「シーク、ただいま戻りました。皆さんにも心配かけさせてごめんなさい。」
お父様に抱っこされたままだからちゃんと出来ないけど、頭を下げる。
「とんでもございません。この様にご無事の姿が見られただけで充分でございます。」
シークの言葉に、後ろに控えていたみんなも「うんうん」というように頷いている……なぜかオーディだけは号泣しているけど……。
「キャッ!!」
お父様が急に私を高く持ち上げた。
「心配したんだぞ!!」
ニッコニコして私を抱き上げたまま回しだした。
「心配かけてごめんなさい、あと、迎えに来てくれてありがとう。」
確か、フェクト殿下の魔法のおかげっていうのは言っちゃ駄目だったよね?
「あぁ、可愛い!!もっと我儘になってもいいんだぞ!!」
お父様……回しすぎてそろそろ気持ちがわる……うっぷ。無理、目が回る。
「「「お嬢様?!」」」
そう、やってしまった。回転リバースを。
◇◇◇◇
――ガシャン!!
お茶の入ったポットを地面に投げつける。
「なぜ私達がこの様な扱いに。」
「知らないわよ!!お父様がクレバー・ジーニアス様が手に入るって言ったから言う通りにしたのに!!手に入らないじゃない!!」
お茶の入ったカップを父親に投げつける。
投げつけられたのにも関わらず、アグリーを抱き締める。
「あぁ、可愛いアグリーよ。怒らないでおくれ。大丈夫だ、すぐに出れるはずさ。」
「それはどうかな。」
いつの間にか人が居たようで、驚きながら声のする方へ視線を向ける。
「こ…国王陛下?!」
テリブル伯爵は顔を見るなり跪く。
「ふ~ん。この人が国王陛下?なかなか素敵じゃない。こんな場所に閉じ込めてなんのつもり?フェクト殿下が呼んでいるのかしら?それとも貴方が私を欲しているのかしら?」
ヴァートはアグリーの顔を見て笑い出す。
「はっはっは!!面白い冗談を言うお嬢さんだ。ここまでくるともう笑わせにきているとしか思えないね。そうだろ?テリブル伯爵よ。」
テリブル伯爵は蛇に睨まれた蛙のように冷や汗をかきながら動けずにいた。笑っているけど笑っていないことが解るからだ。
「仕方ないから相手をしてあげるわ。こんな強引に連れてくるぐらい待てないなんて、そんなに私のことが欲しいのね。」
「あぁ、そうだね。今から君に相応しい最高の場所へ行こうか。誰もが君を求めるよ。」
ヴァートはアグリーにエスコートの為、手を差し出す。
「仕方ないわね。ちょうどこんな所に閉じ込められて気分が悪かったの。国王陛下ならちゃんとしてくださる?まぁ、今は気分がいいから許してあげるわ。」
「それは光栄だね。じゃあ行こうか。最期に愛娘と二人で過ごせて幸せだっただろう?大丈夫、彼女は皆の役に立つさ。心はどうであれ、ね。」
扉が重く閉じる。国王陛下がアグリーを連れて行ってしまった。なぜだ、なぜアグリーが……一番重い刑罰なのだ。女性の一番重い刑罰は人口の繁殖。自分の意思など通用しない。
「ア……アグリー…すまない。すまない。」
テリブル伯爵は泣きながら蹲った。
「あーあ。せっかくあの子を手に入れるチャンスだったのに。まさか王家に献上するとはねぇ。まぁいっか。今は諦めてあげる。」




