これぞワンパン
「ぶぼぁ!!」
豊満さんが変な声と共に鼻血を出しながら倒れる。 前世で格闘技も習っててよかった。二人とも女性だから絶対に手は出せないと思ったし、それなら女の私が対処する方が最善だよね。
自分の拳を見ると、生まれ変わってから何もしていないのに、意外と私の拳は痛くもなく豊満さんの鼻血しか付いていなかった。
――パリーン
呆然と立ち尽くしているクレバーとフェクト殿下を眺めていると、なにかが割れる音が響いた。
「冷たっ!!」
なにかよくわからないけど、水みたいなものがかかってしまった。
「アイリス!!大丈夫?!」
クレバーが走ってきて、私の顔をハンカチで拭いてくれる。 クレバーの行動で我に返ったフェクト殿下もゆっくり来て私のドレスについた水をハンカチで軽く拭いて、豊満さんの方へ向かった。怪我を治しに行ってくれてるのかな、治してくれると信じて手加減なしで顔のど真ん中殴っちゃったし。
「これはあえて治さずにそのままにしておこう。調査員が後ほど来るはずだ。」
フェクト殿下が気絶している豊満さんの顔を見て戻ってきた。あれ?治さないの? 思いっきり殴っちゃったよ!どうしよう!最悪治せば殴った証拠も残らないし、なんてちょっと悪いこと考えちゃってた罰なの?!
「どうしよう、私なにか罪になっちゃう?」
不安になり、クレバーを縋るように見上げる。
「アイリスは魔力暴走を止めようと行動しただけでしょ?責められることはないから安心して。僕が動けばよかったんだけど、躊躇してしまったから……ごめん。」
そのまま安心させる為か、ギュッと抱き締められる。
「私も腹を立たせる為とはいえ、耳にあんなことしてごめんなさい。クレバーはその…こ……婚約者だし…許してくれると思って……。」
改めて思うとすごいことしてしまった。今になって羞恥心が湧き上がってくる。胸の鼓動がやけに響く。顔が真っ赤になっているかもしれない。
「それは僕だからってこと?嬉しいな。じゃあ、僕も同じことをしてもいいってことかな。」
クレバーがいつもの不機嫌そうな顔をして、私の耳にそっと触れ指で優しく撫でる。
――し…心臓が持たない!!ドキドキが止まらない!! 待って!待って!耳噛まれちゃう!!
「はい、そこまで。」
フェクト殿下から声が掛かり、クレバーの腕の中から解放される。ホッとしたような残念なような気持ちになる。
「嫉妬で邪魔するなんて紳士のすることではありませんね。」
「なんとでも言え。好きな女性が他の男と親しくして喜ぶ奴なんかいない。」
なんか喧嘩してる?どうしたんだろ。あれ?なんかクラクラしてきた。疲れてきたのかな。それよりもフェクト殿下に呼び捨てにしたこと謝らないと。
「フェクト殿下、あ…の…………。」
ヤバイ、なんか意識が……。
「「アイリス(嬢)」」
抱きとめられてしまった。申し訳ないな。なんか変な感じしてきた。婚約者だし、倒れないように少し支えてもらおう。
アイリスは相手の首の後ろに腕を回し、抱き着くような格好になる。
「殿下、早く離れて下さい。」
「これは不可抗力だ!私のせいではない!」
アイリスの肩を優しく押して離そうとする。
調子悪いのに引き離そうとしないで!!無理!離れたら立てない!!
「嫌!!離れたくない!!」
引き離されないように、ギュッと強くしがみつく。
「殿下、顔が赤くなっている場合じゃないです。私の婚約者です、早く離れて下さい。」
「待て待てクレバー!!落ち着け。魔力が漏れている!!見ればわかるだろう。私のせいではない。」
「アイリス、こっちにおいで。」
「イヤ!!クレバーら、ひいの!!」
「なぜか殿下を私と思い込んでいるようですね。呂律も回っていないようです。殿下、照れている場合ではありませんよ。とりあえず、この近くにベッドを置いている部屋があったはず、そこで休ませましょう。不服ですが、一旦そのままアイリスを運んでもらえませんか?部屋はこっちです。」
「わかった。アイリス嬢、すまないが触れさせてもらう。」
「ひとまずあそこに寝かせて下さい。原因がわからない以上、むやみに薬を飲ますことも出来ませんし、私は外に合図を出してきます。」
「あぁ、わかった。頼んだ。」
なんかフワフワする……。目の前に耳がある……。
――カプッ
「――ッ!!あぶなっ!!」
力が抜けたせいで尻もちをついてしまった。守るためとはいえ、彼女を咄嗟に抱き締めたせいで向かい合って抱き合う状態になる。
「はぁ……可愛すぎて辛い……どうするんだこの状態。」
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