悪女ムーブ
「それで?アグリー・テリブル伯爵令嬢、私に何の話があるのですか?」
クレバーは視線だけを向け、豊満さんへ話しかける。そして私はクレバーの膝の上。フェクト殿下は後ろから私を抱き締めたままだ。なんだこの状況。
「なんで鶏ガラがここに居るのよ!!あり得ない、あり得ないわ。……お父様にはこれでクレバー・ジーニアス様が手に入るって聞いたのにおかしい。だから今日は婚約者を誰も来させなかったのに。」
なにやらブツブツ言ったままイライラしている。
「まぁいいわ。フェクト殿下も私の為に来てくれたのよね?やっぱり私が欲しいんじゃない。」
この切り替えの早さと突き抜けたポジティブ思考にはもう尊敬するしかない。よし、確か腹を立たせるんだよね?
――これは悪女ムーブを求められている!!
「フェクトは私のものです。あなたの様な豊満より、私の様な華奢な方が好きらしいですよ?」
後ろから抱き締めてくるフェクト殿下の方にもたれ、片手でフェクト殿下の髪を触りながら自分の顔を寄せていく。
「――なっ!!ぐっ……。」
フェクト殿下が顔を真っ赤にして固まった。 やっぱり王族に対して名前の呼び捨ては駄目だったのかな?あとで謝ろう。
「――この泥棒!!クレバー・ジーニアス様だけでは飽き足らず、フェクト殿下にまで!!わざわざそんなドレスも着て、呼び捨ての許可までもらって!!」
いやいや、豊満さんなんか婚約者何人居てるよ……。今の婚約者さん達を大切にしようよ。
「ふーん、クレバーも欲しがるんですね。でも残念、クレバーはすでに私の虜。あなたに魅力がないからじゃないですか?」
クレバーに顔を近付けるように手招きし、近付いてきた顔を撫でながら耳を甘噛みする。
「――ッ!!」
クレバーがビクッとしたけど、顔を片手で覆ったまま動かなくなってしまった。婚約者だからいいかと思ったんだけど、やっぱりだめだったのかな? クレバーにもあとで謝ろう……。
どうだ!!この本の知識で得た悪女ムーブは!! 完璧のはず!!
「――るさ……な…い、許さない!!お前なんか消えてしまえ!!」
豊満さんの長い金髪が床から風が吹いたようにはためく。
「まずい、魔力暴走しかけている。」
ヤバイヤバイ!!悪女ムーブしすぎたのかな!!確か、過去にそれで命を落とした人もいてるんだよね。 どうしようどうしよう、そういえばシークが「魔力暴走した場合、初期段階でしたら無力化するだけで安定しますが、末期には周囲を巻き込みながら自分の身と共に大きな爆発が起こります」って言っていた。
「あの…お二人は傷や怪我を治す魔法を使えたりしますか?」
こんな状況だけど、確認だけはしとかないと。いくら腹が立っても女性に傷が残るのは可哀想だもんね。
「あぁ、私が使えるが……。」
フェクト殿下が使えるみたい。闇魔法の解除もしてくれたし、もしかしたらそういう魔法特化なのかもしれない。
「わかりました。これで心置きなく出来ますね。」
クレバーの膝から下り、久々だからイメージトレーニングしながら気合いを入れて豊満さんに近付く。
「アイリス!!近付いたら危険だ!!なに…を……。」
そう、クレバーが言い終わる前に決まったのだ。
私の右ストレートが豊満さんの顔面に。
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次回も更新が一週間ほどかかってしまいます、楽しみにしてくれている方、申し訳ないです_(._.)_
ゆっくりですが頑張ります!!




