美形はいつ見ても美形
もうほとんど人の状態を維持している。もうすぐ解除なのかな。だからなのか、フェクト殿下は忙しいみたいで魔法をかけてくれたあとはいつもすぐに退室している。いつ寝てるんだろ……。
「少しいいだろうか。」
めずらしくフェクト殿下が昼間に部屋に戻ってきた。声の方へ顔を向けようとすると一瞬黒い影が見える。
「アイリス!!」
顔を見る前に視界が暗くなり、身体が圧迫される。
「んぐっ!」
急に抱き締められて変な声でちゃった!! このバニラの様な良い香りと声は……!!
「クレバー!!良かった、あの後大丈夫だった?」
豊満さん、クレバーを監禁しそうな勢いだったもんね。
「うん、すぐに帰ったよ。アイリスこそ無事で本当に……本当に良かった……。すぐに帰ってきてほしいけど、殿下の協力がないと駄目なんだ。すごーく、ものすごーく嫌だけど、仕方ないよね。」
ぐはぁ!相変わらずの美形。フェクト殿下で慣れたかと思ったけど、やっぱり美形は美形だった!!
「おい、クレバー。目の前でその発言は不敬だろ。」
やれやれ。という感じに言っているのを見ると知り合いなのかな? じっとこの状況を見つめていると、クレバーと目が合った。
「殿下方とは幼少期からの知り合いだよ。一緒に教育を受けた仲なんだ。」
へぇ、幼馴染みたいなものなのかな? 殿下方ってことはフェクト殿下以外の王子様も知ってるんだよね。私はフェクト殿下が第一王子ってことしか知らないけど。
「あぁ、クレバーは宰相の息子だから余計にな。それにしてもいつまで抱き合ってる。そろそろ離れろ。」
「筆頭婚約者なので、このぐらい当たり前ですよ。まぁ、殿下にはその権利もありませんけどね。」
そう言いながらアイリスの頬へキスをする。
「――クッ、クレバー!!人前で恥ずかしい……。」
久々のクレバーのスキンシップが恥ずかしい。フェクト殿下に見られてると思うと余計に羞恥心が……。恥ずかしさのあまり、クレバーの胸に顔をうずめる。
「くっ!!羨ましい……。誰だ、クレバーは女性に興味がないとか言っていた奴は。」
「ある意味正解ですよ。アイリス以外には興味がないので。」
目の前でそんな話されたらどうしたらいいかわかんない。胸に顔をうずめたままどうにもできない!!
「まぁいい。そこに座ってくれ。それよりも、彼女に会いに来ただけではないのだろう?」
クレバーは私を抱き上げてそのまま座った。私を持ったまま……。
「はい、アグリー・テリブル伯爵令嬢から手紙が届いたんです。こちらなのですが。」
急に真剣な空気になった2人についていけない。大事そうな話をしているのに、現在の私はクレバーの膝の上だから!! 恥ずかしいから顔が見えないようにクレバーの首筋に顔を埋めておこう。
「『色無しの女の事で話があるから来てほしい』色無し……アグリー嬢は低魔力者に対して一部の人間しか使わない侮蔑した言葉を使うんだな。アイリス嬢の髪色は、一見すると低魔力者の髪色だが違う気がするな。平民でよく見かけるが、こんな神秘的で綺麗な輝きはない。」
何かパチンという音が聞こえたと思ったら、フェクト殿下が「狭量な奴め」と言っている。どうしたんだろう? 顔を上げると、クレバーがどうしたの?という様にニッコリと微笑んできた。
「それにしても、私にこの手紙がきたということは父上が撒いた餌に食いついたということですよね?」
「あぁ、正直こんなにも簡単に釣れるとは思わなかったさ。あの宰相のことだ、食いつかざる得ない状況に追い込んだのだろう。伯爵家には娘がいる、女性を言い訳に出来ないように確実に追い詰めたい。」
「まだ私だけでは不十分ですね。父親のテリブル伯爵は追い詰めたとしても、娘までは届きませんね。」
「……あと一歩が足りない……。」
黙り込んでしまった。話をまとめると、父親までは懲罰出来るけど、女性優遇のこの世界では、豊満さんまで罪が届かないってことかな。 こうやって無事だったけど、あんなことしといてなんの罪もないのは被害者としては腹が立つ。
「女性だから難しいのですか?それなら私に手伝わせて下さい。同じ女性なので、私に何かしたという証拠があれば罪に問えるんですよね?」
「あぁ、同じ女性だからな。だが危険な目に合うかもしれない。テリブル伯爵家はもう後がないからな。」
「それなら私が守り切ります。同じ失敗は二度としません。」
クレバーは少し身体を強張らせて私を抱き締めた。私のせいでクレバーが責任を感じてしまっているのかもしれない。あのデb…豊満さんめ!!
「では、クレバーの言葉を信じることにしよう。もうすぐアイリス嬢の魔法が解除されるはずだ。完全に解除されたら、始めようか。」
人気のない廊下で2つの足音だけが響く。
フェ「君の父上から聞いたかもしれないが、私はアイリス嬢が欲しい。」
ク「やっぱりそうでしたか、このまま無視して帰りたかったのですが。まぁ、却下ですね。」
フェ「筆頭婚約者の君には伝えておこうと思ってね。見た感じ、君達の関係にはまだ入る隙がありそうだったからな。彼女を守り切れなかった場合、それを口実に君からアイリス嬢を奪わせてもらう。」
ク「――ッ!!……いくら殿下でも許しませんよ……。」
フェ「クレバー、君が守り切ればいい話だ。お互い、彼女の心がもらえるように頑張ろうじゃないか。」
ク「………………」
僕だって焦ってるんだ。筆頭婚約者の立場でも、彼女にとっては他よりマシ程度の存在なんだ。でも、いまさら彼女を離してたまるもんか。いつか絶対、心を手に入れてみせる。




