テリブル伯爵家のお茶会①
「アイリス、着いたよ。」
目を開けると、伯爵家の使用人が扉を開けているところだった。
「ご、ごめんなさい!寝ちゃって……。」
そう言って下りようとしたけど、全く手を緩める気配がない。 待って!待って! このままだとお姫様抱っこされたまま入室しちゃう!!
「失礼致します。アグリーお嬢様、お客様をお連れ致しました。」
婚約者と思われる男性達に囲まれていた豊満さんは私達を見ると一瞬凄い形相になった気がする。でも、表情がすぐ戻っているので見間違いかもしれない。 相変わらずナイス豊満だ……。
ってか婚約者多すぎじゃない? 多分10人以上いるよ、これ……。
「待っていましたわ。」
男性の膝に座っていた豊満さんは立ち上がり、クレバーを見て微笑む。
「本日はご招待いただきありがとうございます。」
クレバーに横抱きされたまま挨拶をする。 だって全然下ろしてくれないんだもん!!
一瞬だけアイリスに視線向けるとそのまま無視してクレバーに話しかける。
「クレバー・ジーニアス様、私に会いに来てくれたのね。早くそんなもの置いてこちらに。」
そんなものって……。 やっぱり仲良くなりたいんじゃなくて、私を誘ってクレバーに会いたかっただけか……。
「いえ、私は愛する婚約者と共に参加した身でありますので、大切な彼女を差し置いていくなどあり得ません。」
「まぁ!!無理しなくてもいいのに。…………ふふふ。すぐにあなたを解放してあげますから。」
後半がごにょごにょ言ってて聞き取れなかった。 それにしてもあんなにハッキリ断られてるのに、ポジティブすぎじゃない? もしかして照れ隠しとでも思っているのかな。
「私達はこちらに座らせてもらいますね。」
そう言ってクレバーは私を横抱きにしたまま一番遠い場所に着席した。 えぇ!このままは駄目だって!
「ねぇクレバー。恥ずかしいから下ろしてほしいんだけど……。」
クレバーの耳元でこっそりお願いをしてみる。
クレバーは声を出した瞬間、一瞬ビクッとしたかと思うとこちらを見てニッコリ微笑んで何やら耳打ちをしてくる。
「僕にずっと傍に居てって言ったよね?それに婚約者の膝に座るなんて普通だよ。ほら、あっちを見てみなよ。」
言われて見てみると、少し不機嫌そうな豊満さんは1人の男性を呼び膝に座り思いっきり胸にもたれかかっていた。 うわぁ……。 これが普通……。 じゃあ、恥ずかしいけど下りない方がいいのかな……。 クレバーが恥をかいたら嫌だし……。
「そこの鶏ガラ。私の婚約者になる方になに色目使ってんのよ。さっさとそこから下りなさい。あぁ、婚約者が1人だけだから渡したくないのね。しょうがないわね、私の婚約者を数人貸してあげるわ。」
――は?なに言ってんの。人を物みたいに扱って……。
「いえ、結構です。それにクレバーは私の婚約者ですので勘違いしないで下さい。」
こんな奴にクレバーは渡さない!! ちょっと腹立ったので意地悪したくてわざと見せつけるようにクレバーに甘えてみた。
するとクレバーは意図を感じとり、挑発するように豊満さんを見ながら私の額にキスをして愛おしそうに見てきた。 演技、演技だよね? そこまでしなくてもいいのに……。
「なによ!早く離れなさい!!私のものなのよ!!意地張ってないで渡しなさいよ!!捨てられたくないからって彼の色まで全身に纏って媚売って必死なのかしら!!」
え?このドレスの意味なんて物語によくある婚約者の色を纏うことで公認の婚約者ですってアピールじゃなかったの?
「婚約者の色を纏うのは普通にあることだよ。着ることを強制は出来ないけどね。」
喚いている豊満さんをスルーしながらクレバーが教えてくれる。 なんだろ、豊満さんの扱いに慣れている……。
「全身だとなにか違うの?」
「え?……それは……その……。」
クレバーが耳を真っ赤にし、いつもの不機嫌そうな顔になって言い辛そうにしている。
もしかして、そんなに言いにくいぐらいの意味があるの……? 聞きたいような聞きたくないような……。 クレバーをじっと見ていると、意味を教えてくれる覚悟が出来たようだ。
「婚約者の色を全身に纏うのは『あなたのもの、あなたしか見えない』って意味になるんだ。」
「え?間違ってないよね?」
婚約者筆頭だし、クレバー以外興味ないし……。
するとクレバーの顔はみるみると真っ赤になっていき、顔を隠すように片手で顔を覆った。
美形の照れ顔かっわいい!! ご馳走様です!! 可愛すぎてニヤニヤしちゃう。
ニヤニヤしていたら、クレバーの顔を覆っていた手がアイリスの頬に触れる。
「そんなこと言われたら、期待してしまうよ。」
そう言いながらアイリスの頬にキスをした。
クレバーより真っ赤になったアイリスは俯いて、何も言えなくなってしまう。
ニヤニヤしてごめんなさーーい!!!
お茶会前のアグリーの婚約者達
「今日、噂の彼女がくるらしいぞ。」
「この前のパーティー行ったやつに聞いたけど、めちゃくちゃ可愛いらしいな。そのせいであいつ最近ボーっとしててアグリー嬢に叩かれまくってるぞ。」
「そんなにか!……このお茶会で見染められて婚約者に選ばれてぇ。」
「無理無理!!あのジーニアス公爵令息が鉄壁にガードしてるって噂だし。」
お茶会中の婚約者達
「「「これは天使!!」」」




