ポジティブ変換は勉強になる
あの後、たくさんの人に同じように父様って呼んでと言われたけど、全部ごめんなさいした。小さくため息をついたらお父様が休憩がてら庭に出るように勧められる。もちろん、婚約者になったクレバー様と一緒に。
庭を歩きながら考える。クレバー様に決定権がないなら、もしかしたら嫌だったのかもしれない。それなら私が伝えると婚約の話は無しにできるかも。それにいくら私の見た目が8歳ぐらいでも実際は6歳、クレバー様は13歳ぐらいだからもっと年上がいいんじゃないかな。
「あの、クレバー様はこんな年下の私よりもっと自分の年齢にあった方がいいんじゃないでしょうか?」
「――え?」
驚きに目を見開いたあと、少し悲しそうな顔をして立ち止まった。
「急に決まりましたので、もし嫌でし「――違う!!」」
クレバー様はそう言うと私の両手を取って少し焦ったような、真剣な顔をして見つめてくる。
「いえ……違います。僕は決して貴女のことが嫌なわけじゃないです。それに僕と年齢は2つしか違わない。たとえ、かなりの年齢差があっても僕は君がいい。」
「……なっ!…あ……あ…りが…とう…ございます……。」
美形の直球な言葉に顔を真っ赤にして俯いてしまう。どうしていいかよくわからなくなる。
「突然触れてしまい、申し訳ございません。」
そう言うと両手をそっと外した。
「……いえ、大丈夫です……。」
胸の前で触れた部分をゆっくりと確かめるように両手で手を触りもじもじする。
「あの、僕もアイリスと呼んでもいいでしょうか?」
そう言われ、顔を上げると顔を背けたまま耳を真っ赤にしているクレバー様がいた。クレバー様も恥ずかしいんだ。よかった、私だけじゃなくて。少し安心して笑みが浮かぶ。
「はい、構いません。」
「……ア…アイリ…ス。僕の事も…こ、婚約者なのでクレバーと呼んでほしいです。」
顔を背けたまま話しかけてくるクレバー様が面白くて笑いがこみあげてくる。
「ふふ。はい、クレバー。」
「――ぐっ!頑張れ僕……。」
クレバーが両手で顔を覆ったまま動かなくなってしまった。緑髪が揺れて綺麗。それにしても美形だなぁ。13歳ぐらいだと思ったけど、8歳だった事実に衝撃。もしかして会場にいた年齢が離れていそうな子供はクレバーと同じぐらいだったのだろうか。この世界の男性は実年齢にプラス5歳と考えるべきだと結論付けた。
「アイリス。そろそろ会場に戻りましょうか。」
クレバーがエスコートの為に出した手に触れようとした瞬間、奥からなにやら騒がしい音がした。そしてその音は段々近付いてくる。もう音は間近だ。不安になりクレバーの背後に隠れて服の袖をギュッと掴む。
「やっと見付けたわ。クレバー・ジーニアス様、この私が自らわざわざ探してあげたんですのよ。私の婚約者にして差し上げてもよろしくてよ?さぁ、愛の言葉を請いなさい。」
なんっだこのデb…ゴホン、ぽっちゃりさんは!! アイリスが背後から覗いた相手の姿に絶句する。クレバーより背が高く、金髪の長い髪は汗で顔に引っ付き、顔は不摂生のせいか化粧で誤魔化しているがニキビだらけだ。それにブヒブヒ言いそうなそのぽっちゃり具合のせいで目が埋まってて瞳の色が遠目からじゃわからない。
「アグリー・テリブル伯爵令嬢、申し訳ないですが私には既に素敵な婚約者がいてますのでお気持ちを受け取ることが出来ません。」
「――なっ!!なんですって!!」
「お嬢様落ち着いてください。」
「アグリー嬢!婚約者は私たちがいるじゃないですか、ジーニアス公爵令息は諦めましょう!」
後ろから従者と思われる人と、婚約者と思われるイケメンが数人きてぽっちゃりさんをなだめる。 えぇ、婚約者って一人じゃないの?! ビックリしているとぽっちゃりさんと目が合ってしまった。
「あら?私の婚約者になる方の後ろに隠れているのはどなた?出てきなさい。」
げっ!!仕方ない。腹を括るか。それにクレバーは私の婚約者だし! 一歩前に出ていき、ワンピースドレスの裾を掴み、ゆっくりとカーテシーをする。
「アイリス・ソードでございます。ご希望通りご挨拶致しました。」
すると、周りの男性たちの視線が一気にアイリスに注ぎ、顔を赤らめボーっと見惚れている。そんな男性たちを見たクレバーは内心舌打ちをしながらアイリスを見えないように背中に隠し前に立つ。
それを見て面白くないのはアグリー・テリブル伯爵令嬢だ。
「なによ!!鶏ガラじゃないの?!私みたいな豊満な方がクレバー・ジーニアス様もお求めになるわ!!」
豊満って……ぽっちゃりさんもポジティブな言い方をすれば豊満になるのか……。ふむふむ勉強になる。 でも確かにこの世界では私より彼女の方が人気があるのかもしれない。クレバーも婚約したばっかりだから彼女のところにいけないのかもしれない。
「クレバー?あの……彼女の「嫌です!」」
言葉を遮るほど即答すぎてびっくりする。
「アグリー・テリブル伯爵令嬢、私は彼女じゃないと駄目なのです。ご希望に添えず申し訳ございません。では、失礼します。」
クレバーは一礼したかと思うとサッと私をエスコートし、その場を離れる。
豊満さんは手に持っていた扇子を床に叩きつけこちらに歩きながら私を凄い形相で睨んできた。周りの男性たちが必死に引き留めている。
「なによ!!色無しのくせに!!覚えてなさい!!」
ブックマーク、いいね。ありがとうございます(。-`ω-)
暑い日が続きますね、皆さんも熱中症にはお気をつけください(*´ω`*)




