歓喜 【月夜譚No.303】
自転車で風を切って走る。空気が頬を掠め、髪を靡かせる感覚は心地が良い。
心が浮き立っていると、ペダルを漕ぐ足も軽い。徐々に上がっていくスピードに、このまま空に舞い上がってもおかしくないような錯覚さえ起こす。
彼はその身に風を受けながら自転車を漕いでいた。実を結んだ結果にじっとしていられなくて、自転車を持ち出したのが数十分前。それからただ只管にペダルを漕ぎ続けている。
気分が高揚しているせいか、一向に疲れる気配がない。それどころか、もっと身体を動かしたくて仕様がない。
青かった空がやがて茜色に染まり、月や星が瞬き始める。時間も忘れて走り続けて、流石に足が重くなってきた。
彼は川沿いに自転車を停めて、土手の草の上に寝転んだ。
視界に映るのは、夜空だけ。吹いてきた風に目を瞑ると、自然と口元が綻んだ。