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行動開始

地球換算2034年7月6日0900 ソオコル・ラリエリ第3泊地 

 総帥及びその補佐、陸海空3組織の長である元帥とその副官、合計8名が護衛艦くらまに乗り込んだ。

目的は俺が一時期行動を共にしていた友軍との接触を図る為である。

今回はくらま単艦ではなく、2隻のもがみ型フリゲート艦(しか、いび)を随伴艦とした3艦で接触する予定だ。

出港ラッパの音の後、出港用意の号令がびりびりと響いた。

 タグボートに曳航されて護岸を離れるくらま。

俺は艦橋席に座って、各所に指示を出した。

「現在、随伴のフリゲート2艦は沖合で待機しています。」

「了解した。5分後に抜錨するように言ってくれ。」

「艦長、こちら甲板。固縛用ロープ収納完了しました。」

「了解した。機関室へ、両舷黒微速。」

出力指示器を操作する操舵員の動きや、両舷ウィングから周辺状況の報告が次々と入ってくる。

「田中中佐、なかなか訓練が行き届いているじゃないか。」

そう話しかけてきたのは、海軍元帥の伊藤威美(いとうたけみ)だった。

「有難う御座います。」

俺は緊張のあまり、不愛想に返事をした。

「くくッ、そう緊張するな。」

「はッ。」

その様な受け答えをしているうちに、どうやら沖に出たらしい。

昨日の内に、泊地への経路は共有済みだった。

「両舷黒原速。」

「両舷黒原速。」

9千tの船体が時速22キロメートルほどまでじりじりと加速していく。

それに合わせる様に、もがみ型が前後を挟んだ。

所謂単縦陣を組む。

後は対空、対潜への警戒を行いながら進むだけである。

 1200。俺は昼食をとる為に食堂に向かった。艦の指揮権は副長に渡している。

しかし、そこで驚くべき光景を俺は目にする事に成った。

「お、来た来た。こっちだ、田中艦長。」

そう手招きしているのは有馬総帥で、周りには陸海空三元帥が座っている。

「田中艦長。」

「航海長、すまないがこの状況は。」

すぐ近くに座っていた航海長に話を聞くと、どうやら質問攻めにあっていたようだ。

質問された内容は、この船に施された改修の内容やこの世界に転移した当初の話など。

 とりあえず俺は食事を配給員から受け取って近くに座る。

「さて、田中海軍中佐。」

総帥からそう声を掛けられた。

俺は咀嚼し始めた唐揚げを飲み込んで、箸をおいて総帥と目を合わせる。

「はい。」

「そうかしこまらないでもいい。いくつか質問が有る。」

そう言うと、総帥は俺の眼を見て言った。

「君が行動を共にしていた艦隊の中に、人ならざる存在はいたか。」

俺はその問いかけに疑問を持った。

「お…自分が見た限りでは、そのような存在は確認できませんでした。」

無意識的に俺、と言おうとしたその口を素早くまごつかせて自分と言い換えて考えを述べる。

しかし総帥は、そうか、とだけ言って食事を再開した。

「変な事を聞いて悪かったな。」

「いえ、…ですが、おかしな点はありました。」

「なに。」

総帥はずいとこちらに顔を寄せた。

 俺はおかしな点を思い出しながら言った。

「妙に人の気配がなかったんです。少なくとも、”しらね””わかば””はるかぜ”の3艦には艦長含め2人しか乗艦していませんでした。それ以外の”蕨””飛龍””霧島”は戦没者と共にこの世界に来たらしく、人の気配は多くありましたが。」

「なら、その3艦は確定だな。間違いない。付喪神だ。」

そう言った総帥は、食事を再開した。

「その、総帥。付喪神とは。」

俺は困惑しながら総帥に質問する。

「田中艦長、君の叔父から何か聞いていなかったのか。」

純情な目線でそう問いかけられた俺は、うぐッ、という声を閉じた口から漏らした。

「すいません。そういう事は。」

…、いや待てなぜこの人は俺の叔父のことを知っているんだ。

「そりゃあ、あれだ。野生の勘というやつだ。

俺の親戚に有馬忠義という男がいてな、そいつのアルバイト先の先輩が田中弘治というらしい。

君の親戚にいると思うぞ。そして、君は有馬忠義と一度会った事が有る。」

 この人何者だ。確かに同姓同名の人間は俺の親戚に存在する。

それに何より、高校時代にその有馬忠義という人物から護衛艦”あきしの”に招待されたこともあった。

その時に一度顔を合わせたきり会っていないのだが、何故それを充てられるのだろうか。

俺の顔は恐怖のあまり引きつっているのだろう。

「そう警戒するな。俺含めた有馬忠義の親族は全員異様に勘が鋭いんだ。

それこそ、一見親戚ではない人間でも一発で親戚であると見抜ける程度にはな。」

俺はその発言に驚いていたが、直に食事を再開することに意識を向けた。

「さて、明日も質問をするから答えてくれよ。」

 俺はその発言に少し落ち込んだ。

 翌日、再び食堂で総帥と出会った。

可笑しな事に、昼食中の乗員の姿はおらず総帥のみが椅子に座っていた。

「総帥。貴方はいったい何者なのですか。」

俺は食事を済ませた後、二人きりになった食堂で問いかけた。

「私は有馬永作だ。君の親戚である田中弘治とは少しばかり縁のある人間だよ。

とはいっても、それは私の一側面でしかない。

 私はサイコロなんだ。君たち人間からは人間として認識されるだろう。

だがそれ以外の存在からは同族と認識される、不安定な存在だよ。」

そう言った後、有馬総帥はその懐から電子端末を取り出した。

「この世界に来ていない”ソオコル・ラリエリ”所属人員は1名。八重島鷹のみだ。

田中艦長にはすまないが、彼がこの世界に来た時のために動いてもらいたい。」

「有馬総帥。」

「すまないが、彼が何時この世界に来る事が出来るのかはわからない。

だが、君なら彼と出会う事ができると思う。」

「判りました。田中修、その役目を全ういたします。」

「頼む。」

 数分後、艦内放送が流れた。

[先遣艦に向け接近中の水上艦を探知。方位283。]

「自分は艦橋に戻ります。」

「そうか。気を付けろよ。」

 艦橋に上がって接近中の艦艇と通信を試みる。

「こちらはソオコル・ラリエリ所属護衛艦”くらま”である。

貴艦が接触しようとしている艦は同じくソオコル・ラリエリ所属の艦である。

わが艦隊に交戦の意思はない。繰り返す、わが艦隊に交戦の意思はない。」

 すぐに返信が接近中の艦から入る。

[こちらは日本海軍第二航空戦隊所属”蕨”である。本艦に帰順し、わが泊地に向かわれたし。]

「こちら”くらま”了解。本艦隊は貴艦に帰順する。」

単縦陣の陣形は、先頭より順に”蕨””しか””くらま””いび”という陣容である。

海面の波は穏やかで、おおむね1メートル未満だろう。

外洋であればもう少し荒れていても可笑しくはないのだが、この星はどうやら違うようだった。

泊地につくまでの間、魔物の襲撃は一切受けなかった。

その様子を不気味に思いながら、艦隊は単縦陣を維持して前進する。

 泊地に到着したのはおよそ6時間後のことだ。

太陽は山々の中に沈み始めている。

薄暗くなる中、タグボートの支援を受け接岸する。

護衛のもがみ型二隻も無事に接岸作業を終えたらしいことが、艦橋から確認できた。

タラップ接岸の許可を得た後、甲板要員がタラップを引き出して接続。

乗員一同は艦内で待機とのことだったので、俺は艦橋ウィングにでて陸の様子を見ていた。

 しかし、其処に会った光景は鋪野指揮官が有馬総帥と話をしている姿だった。

随分打ち解けた様子だったが、ある一時から鋪野指揮官の表情が一気に曇った。

 その様子を眺めていると、有馬元帥がこちらを見て手を小さく振った。

その様子を訝しんだ鋪野指揮官が、こちらの視線に気が付いたらしい。

鋪野指揮官は溜息を吐いた後、すぐ近くの小屋を指さして、有馬とそこに入っていった。

 総帥と鋪野指揮官が小屋に入ってから5時間が過ぎた。

「艦長、なかなか戻りませんね。」

「そうだな。だが、何か大きなことが起きようとしているのかもしれない。」

艦長席から立ち上がり、左舷ウィングに出る。

出港した時はまだ日が照っていたのだが、太陽は水平線に沈もうとしている。

ウィングに備え付けられている双眼鏡越しに小屋を見ようとしたが、窓のカーテンは閉め切られており、中の様子をうかがい知る事は出来なかった。

 艦内に戻ると、通信員が紙切れを片手に副長と話しているのが見えた。

「どうした通信。」

「艦長、総帥より入電です。」

その紙切れには”シンカイザメテンヨリキタル”とだけ書いてあった。

「すまないが、空軍戦闘機のパーソナルマーク一覧が記載された本とかはあるか。」

「すでにお持ちしています。」

 数分後、サメの紋章をパーソナルマークとした機体及びその搭乗員の名前を確認した。

「なる程、暫くは遠洋練習航海が続きそうだな。」

深海鮫をパーソナルマークとしている人物は一人しかいなかった。

八重島鷹。フェニックス隊の隊長だった。

 5日後、俺は本部泊地にいた。当然くらまに乗艦している状態である。

今から二日前、有馬総帥の交渉により鋪野指揮官率いる友軍艦隊との協力協定を結ぶ事が出来た。

 その結果、海図及び海洋データの提供が行われた。

また海岸線のみではあるものの、陸地のデータも入手できたため、これらデータを基に、陸軍の部隊を送り込む計画も進行中である。

 また海洋データの提供により、潜水艦部隊は全力出動を行えるようになった。

 しかし、未だに我々と合流できていない人員が存在している。

未合流人員の内、白波瀬文空軍少尉については白波瀬忠一陸軍大尉がすでに接触を果たしている。

だが、八重島鷹空軍大尉についてはこの世界に来ていないことが確認されていた。

「艦長。次の航海は。」

「暫くは休憩。2週間の半舷上陸期間後、1週間の準備期間を設け、それから出港する。」

俺は艦長席から立ち上がって、航海長にそういった。

 しかし、八重島大尉は待てども待てども現れない。

 3か月後、艦内の雰囲気は随分沈んだものになっていた。

理由は、ここ最近行っている哨戒任務で新たに友軍の発見に至っていないことが原因だろう。

特に、八重島鷹が出現すると想定されている地点には常に艦艇による監視の目が存在している。だがそれでも現れない。

 艦隊の内、特に1週間の監視任務を終えた艦は1週間の休暇を司令部より与えられている。

だが、休暇と言われても何をすればいいのかが分からない。

適当に泊地の中を歩くにしても、もう既に見飽きた景色ばかりだった。

艦長席に座って、ぼんやりと外の景色を見る。

「艦長、そんな辛気臭い顔せんでくださいよ。」

機関科の曹長がそう声をかけてきたのは、外の景色を眺め始めて1時間が過ぎたころだった。左胸には”八城”の漢字が縫い付けられている。

階級章から、この人物が曹長であることが分かった。

 後に聞いたのだが、俺が艦長席に座って微動だにしない様子を見て、誰かが声をかけることになったらしい。

くじ引きで誰が声をかけるかを決めた結果、八城曹長に決まったようだった。

「どうした、何か問題が発生したのか。」

俺はそういいながら立ち上がって敬礼する。

曹長は答礼したのち、首を横に振った。

「いえ、問題は発生しておりません。それよりも艦長、少しヘリ甲板に出ませんか。」

 その申し出を俺は承諾した。艦長席から立ち上がって、その曹長の後をついて歩く。

艦橋からおおよそ2甲板分降りた後、格納庫内部についた。

ヘリコプター(SH60)が2機、並列に並んでいる。

当然ローターは折りたたまれていた。

艦首側に飛び出た区画には、無人機が棚のようなところに10機ほど押し込まれるように保管されていた。

格納庫のシャッターは開け放たれており、外の様子がよく見える。

艦載機格納庫は大型化している為、ヘリコプター3機に加えて5機程度の無人機も運用可能となっていた。

そのための操作は、艦橋後部に増設された部屋から行われている。

無人機の導入による戦術の多様化に対応する為、艦内部署に新しく戦術科が設置されより多くの人員が乗艦する事に成った。

 そして艦尾では、二人の乗組員が釣竿から糸を垂らして魚がかかるのを待っている様子が見えた。

「井東、大島。どうだ。」

「八城曹長、あまり芳しく…、艦長!」

その二人は俺の姿を認めた途端、スっ転ぶ勢いで敬礼した。

俺はそれにすぐに答礼を返し、緊張の為固まっている二人に楽にするように言った。その二人曰く、晩酌の為に魚を釣っていたらしい。

「艦長も、やりますか。」

そう言ってその曹長から釣竿を渡された。

 数分後、艦尾に四人の人影が有った。そのうちの一つが俺で、他が井東、大島、八城である。

 しかし、俺の気持ちはずんと沈んでいた。

「艦長、そんなに気を落とさんでくださいよ。」

おずおずといった様子で、井東がそう声をかける。

釣りを開始しておよそ1時間、俺だけ未だに魚はかからない。

他の八城は3匹、井東は2匹、そして大島は10匹を釣り上げている。

それに対して俺は0匹だった。

 暗く沈んだ気持ちになった原因は、大島と井東に俺のイメージを聞いたこともあるのだろう。

何をやっているのかよくわからず、出会っても常に陰鬱な雰囲気を漂わせている(大島談)。

純粋に怖い(井東談)。

もう少し艦内各所の見回りなどをして、コミュニケーション能力を高めるしかなさそうだった。

そう考えていると、八城曹長から肩を叩かれた。

 「艦長、かかってますよ。」

見ると、竿の穂先がピリピリと動いている。

大きく竿を煽って合わせ、リールを用い釣り糸を巻き取っていく。

やや激しく抵抗しているが、その姿はあっさりと表れた。

「鯰…だよな?」

「ああ、何所から度見ても鯰だ。」

「海にすむ鯰は、結構いますがね。」

とりあえず甲板まで引き上げて、観察する。

背中は青褐色で、腹側はパールホワイト。

胸鰭と背びれには強いとげが付いている。

尾ひれは二股に分かれた形状で、マグロやカツオの尾ひれに近い。

大きさは40㎝をわずかに超える程度だった。

「ゴンズイみたいに、とげに毒があるかもしれないので、注意が必要ですね。」

八城曹長の渓谷に耳を傾け、俺はペンチを使ってそのとげを取り去った。

「こうすれば安全かな。」

「…艦長、手慣れてますね。」

「そうか?」

「そうですよ。」

 その日の夕食、俺の所には海鯰のソテーが追加された。

そして休暇中の楽しみの一つとして、魚釣りが追加されたのだった。

 なお、後日談がある。

どうやら同じ魚を後に副長が釣ったらしく、うっかりミスで鰭のとげが手の甲に刺さってしまったらしい。

医務室に入って手当てを受けたらしいが、数日は高熱と倦怠感、そして腫れに悩んだそうである。




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