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試験航海

地球換算2034年6月28日 0900 一番乾ドッグ

 俺は食堂を簡易会議室として、そこで今回の試験航海を説明していた。

「本艦の出港予定時刻は1300。それまではタグボートによる曳航となる。

タグボートとの連絡を密にして、湾外に展開後試験航海を行う。

航路については、以前行った哨戒航海の経路を流用する。

機関科各員は扱う機関がこれまでの蒸気タービンから統合電気推進となる為、負担をかける事に成ると思う。

 本航海の目的は全乗員の習熟航海である。各員、最初は遅くてもいいから安全第一で頼む。以上だ。」

副長以下が一斉に俺に対して敬礼した。俺はすぐさまそれに答礼し、この場はいったん解散となる。

 数分後、俺と副長は艦橋で艦内の指揮を執っていた。

「一号艇、本艦の右舷艦尾につきました。各艇所定の位置についたことを報告します。」

ヘッドセットをした無線員が俺に報告を上げた。

「了解。現在の艦内状態は。」

俺は無線員の報告に反応すると、機関科の野村一尉に声をかける。

「全電源異常ありません。主電動機動かせます。」

「了解した。」

暫くはタグボートに曳航される事に成る。この狭い場所では、小回りの利かない船はタグボートにされるがままなのである。数分後、外洋が見える位置に艦首が向いたことを確認する。

 俺は野村一尉を通して機関室に連絡する。

「主電動機回せ。両舷黒原速。」

「主電動機回せ。両舷黒原速。」

野村一尉が復唱し、機関出力用のレバーを原速位置に合わせた。

僅かな間をおいて、スクリューが排水量8000トンを超える巨体を前へと押し始める。

「機関室から報告です。現状問題なく動いているとのことです。」

「了解した。このまま監視を続けてくれ。約10分後に急旋回試験を行う。

艦内放送で知らせてくれ。」

バインダーを見ながら機関室に連絡を入れた。

バインダーには増設武装に関する情報がズラリと書かれている。

 まず増設武装の内、特に目を引くのは40mm単装機関砲2基2門である。

これは対無人機用兵装として各国海軍の艦艇が増設しているものだ。

今東西冷戦期の西ドイツが運用していたヤグアル級魚雷艇に装備されていたモデルをそのまま装備している。

無人砲塔に改良しているが、乗組員はおよそ8名増えた。

 2番砲塔の57㎜単装レールガンは、ボフォース社製の57㎜機関砲を流用したものを搭載した。速射能力に欠けるが、殆ど時間差無しに目標を破壊することが可能な火器である。

砲塔の乗員数は僅かに減っているが、その分の人員を40㎜の操作員に回している。

 また、ヘリ艦載数も減っている為、空きスペースを40㎜の操作員用の待機及び休憩室とした。

 他の変更点としては、VLSシステムの採用による攻撃、防御手段の増大である。

VLSから発射するタイプのECM装置や発展型シースパローや、対艦ミサイルとして使用可能なトマホーク巡航ミサイル等その装備は多岐に渡る。

 他にも無人機材の運用の為、艦尾にランプドアとドッグを装備する事に成った。

ここには小型の無人潜水艇の格納庫が存在している。

航路上に先行させておき、潜水艦等と連携する戦術も可能になっている。

 21世紀の戦闘艦として、この”くらま”は再誕したと言っても過言ではないだろう。

 「艦長、予定海域です。」

「了解した。取り舵10度。」

「取り舵10、ヨーソロー!」

数秒遅れで、艦首がわずかに左に振れ始めた。試験航海であるため、最初から取り舵一杯などという無茶な事は出来ない。

そのまま面舵と取り舵を交互に行い、機動性を確かめる。

「航海長、やはり効きが悪いか。」

「はい。全長がでかくなったせいかわかりませんが、曲がりにくくなりましたね。

直進安定性はいいもんですがね。」

スラローム航行を行った後、舵輪を握っている航海長と話す。

次の試験は黒4戦速からの急制動試験だった。

 数分後、進路上に陸地を始めとした障害物がない事を確認した後、艦橋より機関室へ命令を出した。

「機関室へ、両舷黒4戦速!」

[機関室了解。両舷黒4戦速!]

巡航時は原速、つまり12ノット前後の速力である。ここから27ノット、つまり4戦速相当迄加速するには相当な時間がかかる。

出力合計90000馬力まで引き上げられた機関出力によって、見る見るうちに27ノットまで加速した。

しかし、想定外の事態が発生する。

「艦長、速度計が!」

見ると、速力は2ノット以上も超過している。

「総員何かにつかまれ!機関室、両舷赤半速!急げ!」

「了解!赤半速!」

電動機の咆哮が艦橋にまで響く、それと同時に体が前の方に投げ出されるような力が加わった。

速力は見る見るうちに落ちていく。

30ノットを指していた速度計は、約3秒ごとに1ノットずつその針を0ノット位置に戻し始めていた。

「航海長。すぐに泊地に戻るぞ。ドッグ入りだ。」

副長以下全員は、これに無言で頷いた。

同日1900 泊地第2区画 

 泊地に帰投後、潜水士らの調査が始まった。

船体に何かしらの異常が見つかれば、ドッグ入りになることは明らかだった。

「しかし、速度計があてにならないとは。」

「そう気を落とすな航海長。新生”くらま”の処女航海だったんだ。この事態を予期できなかった俺が悪い。」

現在は調査結果の報告待ちである。電力確保のため、最低限の発電機を運転している。

だが、強力なFCSなどはその火を落としていた。

 泊地に帰投したのが今から30分ほど前。タグボートによる接岸も完了している。

「ところで航海長。我々は何故この世界に来たと思う。」

「艦長…。」

「明らかにおかしいはずだ。この世界は我々の歴史でいえばせいぜいが1400年代相当のヨーロッパ程度の文明しかない。そこになぜ我々のような存在が送り込まれたのか。」

俺はその意味を暇さえあれば考えていた。

「俺が出した結論は、近い将来この世界に日本が転移する。それにあたっての事前準備の為だろう。」

その発言に、航海長は驚いた顔でこちらを見てきた。

「考えてもみろ、未知の国家がいきなり接触するのと、事前知識があり既知の類似する存在であれば警戒をしにくいだろう。」

「しかし艦長。それであれば我々のような水上艦では。」

「だからこそ、彼等白波瀬分隊がこの世界にやって来た。」

はっ、と息をのんだ航海長。

「さて、もうそろそろ潜水調査の結果が届くころ合いかな。」

 俺がそう言って艦長席から立ち上がると同時に、艦内に通じる扉が開いた。

「艦長、潜水班より報告。以上みられずとのことです。」

「判った。補給が完了次第、試験航海を再び行う。機関の計器盤も補給中に取り換える様に藤本に連絡してくれ。」

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