先遣艦
泊地における修理完了3日後。
大陸南東部、3番目の岬より、方位130。
ざあざあという、波を切り裂く音が前からしている。
ここはくらま艦橋、俺が乗る船の心臓部だ。
「艦長、航空隊より入電。現在、陸軍部隊の展開は完了した。とのことです。」
「了解した。艦載機の格納準備にかかってほしい。」
「了解しました。艦長。」
副長が離れた後、俺はぼんやりと艦橋内を見渡した。
航海科の船員は真摯な表情で舵輪を握り、気象科は時折空を見ている。
通信科はヘッドセットを付け、発信と受信に一層気を使っているようだった。
はるか後方に展開する味方船団から通信を受けたのは、丁度艦載機を全て格納し終えた時である。
「艦長、後方に展開する船団より入電。」
「内容は。」
「現在本船団は方位079より魔物の接近を受けて、対空戦闘中とのことです。援護を求とのこと。」
「転舵反転!面舵一杯!」
「面舵一杯よーそろー。」
ぎりぎりと船体がきしむ音がする。
船体は左舷側に大傾斜を起こしながらも面舵に回頭を続けている。
そして、完全に反転する直前。
「舵戻せ!」「了解、もどーせ―!」
ぴたりと回頭はしなくなったものの、僅かに右側に艦首が振れた。
これで進路は完全に反転した。
「機関室、最大船速で飛ばすぞ。」
「こちら機関室了解。おい、ボイラー最大出力で燃やせ!」
「了解。」
マックからは一時的に黒煙をもうもうと吐き出したが、出力が安定してくると、ゆらゆらと揺らめく陽炎状の排気に変わった。
直に俺は艦橋からCICに移動する。
数分もすれば、速力はおおよそ33ノットに達した。
そして、対空捜索レーダーが船団に取り付く航空目標をとらえたのである。
「こちらくらま。ただいま到着した。これより攻撃を開始する。」
「こちらレーダー、対空目標をとらえた。船団上空、数20。」
「総員、対空戦闘用意。距離5海里(約10km)で砲撃開始。味方艦に当てるなよ。」
「任せてください、俺は大砲屋です。」
艦内にアラームが鳴り響き、各員が持ち場につく。
主砲塔では弾薬搬入が開始されている。
今頃、砲弾の先端に近接信管を装備しているところだろう。
「敵の種類は。」
「あれは、ワイバーンタイプですね。鳥のような骨格の空飛ぶトカゲです。」
敵の内、特に離れた個所にいる個体を狙う。
「主砲、撃ち―方―はじめ―!」
「主砲、撃ち―方―はじめ―!」
前甲板に装備された127mm砲から、砲弾が飛び出した。
それは僅かながら落下しつつ目標に接近。
至近距離に迫った時、信管が反応した。
ずたずたに引き裂かれたワイバーンは、もがき苦しみながら海面へと墜落していく。
「目標撃墜!」
「よし!」
こちらに気が付いたワイバーン7体が接近する。
「主砲、交互打ち方!」
1番主砲と2番主砲が、それぞれの隙を埋める様に発砲する。
毎分80発の弾幕は、たった7体の、しかも飛行速度が時速100kmに満たない鈍重な目標に対しては火力過多であった。
たった3秒間の射撃で4発もの砲弾が殺到した。
結果として、ワイバーンは自らの牙を闖入者に突き立てることなく海の藻屑となったのだった。
「こちらレーダー。船団上空のワイバーンが、全てこちらに向かってきます。」
残り13体のワイバーンがこちらに殺到する。
「主砲交互撃ち方。」
「主砲、撃ち―方―はじめ―。」
再び毎分80発の弾幕がワイバーンに襲い掛かる。
砲弾は次々と炸裂し、ワイバーンを纏めて屠っていった。
全対空目標撃墜所要時間は、僅か4秒だった。
「全対空目標を、撃墜。」
「対空戦闘用具収め。対空、対潜警戒は引き続き厳となせ。」
「総員、対空戦闘用具収め。」
用具収めの号令の直後、船団指揮艦より入電がある。
「こちら指揮官の鋪野だ。”くらま”は先遣艦の位置に戻れ。」
「こちらくらま、了解した。先遣艦として先行する。」
再び転舵反転し、先遣艦として警戒に当たる。
その後は特に何もなく、泊地に帰投した。