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プロローグ 転移

2033年5月3日 0900 新潟県某所

 「何やってるんだか。」

暗い室内で、一人男がそうつぶやいた。その男の名前は田中修。24歳、フリーターだ。

 俺は日課になってしまったゲームの起動画面を見て、ため息を吐いた。

自堕落な生活を送っていると、身の回りのことがどうでもよくなってくる。

部屋を見渡せば、脱ぎ捨てられた肌着があたりに散乱し、ごみも同じく散らばっている。

 俺は、高校在学時から海上自衛隊に入隊したいという願いが有った。

だが大学を二浪し、海上自衛隊にも身体検査で不合格となってしまった。

それゆえに、海上自衛隊への入隊という意思はとうに消え失せた。

 だが、それでも夢を追い切れず、ただ毎日のようにゲームをするだけの人間になってしまった。

 部屋の惨状を無視して、ゲーム内の出撃コマンドを押した。

 艦艇で出撃を終えた後、いくつか設定でもいじろうかと思い、別のコマンドにカーソルを合わせた。

 「現実化コマンド?」

そのコマンドは一度適応すると取り消すことは不可能らしい。

更に、いかなる影響が有っても責任を負わないというものだった。

 俺は陰鬱な日常が変わるかもしれないと思い、そのコマンドを適応した。

途端、彼の意識を強力な睡魔が襲ったのである。

(うわ、このタイミングか。いったん、よ、こ、…)

かび臭いマットレスに横になろうと立ち上がったものの、直に足を縺れさせ床にその身を横たえた。

その時の衝撃は大きかったが、彼はもう二度とこの世界で意識を取り戻すことはなかったのである。

 つめたい。ぜんしんをこおりみずのなかにいれたようなかんかく。

うすらとめをひらいた。きらきらひかるものが、とおくにみえる。

ひっしにてをのばしたが、それはとおのくいっぽうだった。

 しずんでいくのがわかった。ぜんしんをおしつぶされそうになっていく。

 後ろから声が掛けられ続ける。

 振り向けば、視界は白く塗りつぶされた。


 「…ちょう、艦長!」

 「あ、ああ、すまない。副長。」

 俺は混乱した。隣に立つ、声をかけてきた男は誰だ。なぜ俺は濃紺の作業服に身を包んでいる。

 薄暗い室内にもかかわらず、なぜ足元が揺れている。俺は混乱しながらも隣にいた男と話した。

「副長。現在位置を教えてほしい。」

「は、はぁ。それが、航法室からの通信によると。赤道、東経60度を方位300に向け航行中とのことです。」

副長らしき男は混乱しながら聞いてきた。 

 俺の方が困惑していた。この足元の揺れ具合は、沖合を航行する船特有の物だと。随分昔、親戚の知り合いからの誘いで、護衛艦に乗り込んだ事が有る。

 その時、相当沖合に出た時に体験した揺れと同じだった。

「艦長、こちらソナー。本艦に接近する物体有り。方位044。」

「ソナー、深度はどのくらいだ。」

「砲雷長、本海域のデータがほぼ存在していないため、パッシブソナーのみでは完全な探知は不可能です。」

 そして、砲雷長やソナーマンの会話から、ここが外洋を航行している艦艇のCICであることを否応なしに受け入れるべきだった。

「通信室へ、こちらCIC。周辺の友軍部隊は。」

「こちら通信室、現在救援信号を発していますが、応答なし。」

 そして、この艦を取り巻く状況が非常に悪いことも分かった。

「副長、操舵室に向かおう。俺が操舵する。」

「判りました。」

 俺は副長を連れて操舵室に入った。

 操舵室内にいた全員がこちらに敬礼しようとしてきたが、俺はそれを手で制し、「操舵を変わる。」と言って舵輪を掴んでいる男の下に向かった。

「か、艦長。」

「よし、これより操舵は艦長が行う。総員何かにつかまれ!

機関室へ、右舷スクリュー黒最大船速、左舷スクリュー赤最大船速。取り舵一杯。」

 窓から見える水平線が、一気に斜めになった。

 違う、船体が傾斜しているのだ。5秒間の永遠にも思える回頭。

「あて舵2、…舵戻した。機関室へ、最大船速いけるか!」

俺は舵輪を握りながら、機関室に通信した。

「こちら機関室。最大船速いけます!」

その返事を聞き、俺はふと表情を緩めた。

「CICへ。こちら艦長。」

「こちらCIC。艦長、どうされましたか。」

「生き残るぞ」

「はい!」

 そんな中、艦橋右舷見張り台から大声が響いた。

「右舷後方より物体が急速接近!」

「面舵一杯!」

一気に舵輪を回し、機関操作を行う。左舷側スクリューを後進一杯に入れると同時に、右舷スクリューを前進一杯にいれた。

 急速な取り舵により、船体が転覆するかもしれない大傾斜を起こしたが、急速接近していた物体の回避には何とか成功した。

 だが数十分後、状況は悪くなっていた。

船体を大きく揺さあぶる衝撃により、艦橋要員の一部が転倒する。

俺は確りと舵輪を握っていたため、転倒はしなかった。

だが明らかにメキッとも何とも言えない音が前方から響いたのである。

俺はマイクに怒鳴りつけるように言った。

「状況報告!」

「艦尾区画に浸水!艦首右舷、一部区画圧壊状態です!」

「こちら右舷見張り台!使用不能!艦内に総員退避しています!」

「まずい、マスト倒壊しました!これでは機関が!」

 この艦はどうやらマストと煙突が一体化しているらしい。

報告を聞く限りでは、もはや自力航行は不可能だった。

「機関停止!ボイラー消火!煙突が塞がった!」

「了解!ボイラー消火急げ!」

スクリューの回る音がだんだんと小さくなっていき、それが完全に消失した。

 もはやここまでか。

俺を含めた総員がそう覚悟した時、左舷見張り員から報告が入った。

「本艦左舷より艦影多数!まっすぐ突っ込んでくる!」

俺はその声に怒鳴り返した。

「敵か!味方か!」

「少なくとも敵ではないと思います!」

 ますます接近する艦影は、舵輪を握っている俺の目にも確認できた。

先頭を行く船はとても小柄で、2番目がそれよりも少し大きく、3番目の艦が最も大きいように見えた。

 そして数秒後、舵輪を握る俺の目にもはっきりとそれが見えた。

「接近中の艦艇より発砲炎!」

「当たるなよ…!」

 しかし、飛来した砲弾は右舷後方の海上に突き刺さったのである。

海中から何か大きな生き物の断末魔が、大きく響き渡った。

次々ときらめく発砲炎、それの後に響く爆発音と断末魔。

 そのコーラスが終わったのは、僅か数秒後のことだった。

「艦長、我々は。」

「どうやら、何者かに助けられたらしいな。」

 我々は救援に駆け付けたと思わる船団の詳細をはっきりと見た時、困惑したのだった。

「なあ副長。先頭のあの艦は…。」

「樅型か、あの艦形は。後ろには”しらね型”、”はるかぜ型”、”わかば”か。

艦長、我々は時空を超えた可能性があるようです。」

樅型駆逐艦は、戦間期の日本海軍において運用された比較的小型の駆逐艦である。その船体形状は、睦月型駆逐艦まで見られた艦橋前方に波落としを設けた形状である。

戦後の黎明期を支えたのは”はるかぜ型”護衛艦であり、

海上自衛隊が大日本帝国海軍の後継組織である事を示す血統書的存在が”わかば”だった。

 そして、”しらね型”護衛艦はヘリコプター運用を主眼に置いて設計された大型護衛艦である。我々が乗るこの船も、しらね型護衛艦である可能性が高い。

しらね型護衛艦は、こんごう型イージス艦が海上自衛隊で運用されるまで最大の護衛艦だった。艦種はヘリコプター護衛艦である。

船体後部の大型格納庫にはヘリコプターを最大3機まで艦載可能、前甲板に127mm単装砲2基、艦橋には右舷左舷に指向したCIWSを装備している。

また、船体マストは煙突と一体化されている。

 そして、その特徴は我々の乗船する護衛艦とも一致していた。

現れた護衛艦の艦番号は143。こちらは144である。

 曳航が開始されたのち、副長を接触した船団に送り込んだ。

結果判明したいくつかの事実に、俺たちは頭を抱える事に成る。

 接触した船団は日本国より転移した人物達によって形成されていること。

船団の内3隻には、乗組員は存在せず、僅か6名のみで運用されていること。

所属艦艇の中には、美保関事件における損失艦”蕨”が存在していること。

そして何より、この世界は日本国が存在せず、文化的水準は中世ヨーロッパと同程度。治安は比較的良好だが、山岳地帯では山賊などの目撃情報が存在するという事だった。

 数日後、接触した船団が泊地として利用している入り江に到着。

周辺は険しい山岳地帯が広がっており、陸路での到達は不可能な場所だった。

 我々と護衛艦はここで修理を行い、暫く停泊する事に成った。

そして修理が完了するまでの間、我々は船団総指揮官と交渉を行う事に成る。

「護衛艦”くらま”艦長を務める、田中修です。」

「船団指揮官兼、”しらね”艦長の鋪野弘作だ。私たちとの交渉に応じてくれてありがとう。」

「いえ、あの時救援がなければ沈没していました。ありがとうございました。

早速ですが本題を。」 

 そのように言葉を交わした。

相手側が我々に要求したことは2点。

・我々と協力すること。

・補給等をする代わりに、船団の指揮下に入る事。(ただし、他組織の所属であった場合はその組織に合流すること。)

 この条件を掲示されたとき、俺はすぐに決断した。

まず1つ目の条件だが、単艦での行動は自殺行為であるとしか考えられない。

これは俺が意識を取り戻し、その直後の戦闘の結果である。

 次に2つ目の条件は、我々は現状兵站を確保できていないためである。

()内の条件が存在していることも大きい。

「判りました。一度相談してみますが、恐らく艦内総員は承諾します。」

「交渉に応じてくれてありがとう。君たちが別組織の所属であることを我々は知っている。IFFに”友軍艦艇”として表示されていたからね。」

 くらま乗員が滞在している泊地内の宿舎に向かい、全乗員に先の交渉について話した。

 前提条件として、我々は地形情報や海水に関する情報が存在しない海域に存在していること。そして、兵站等の確保も不可能であることも。

 各乗員は数舜考えたものの、指揮下に入らざる負えない状況であることを認識した。

 翌朝、船団指揮官である鋪野司令官に了承する旨を伝えた。


こうして我々は所属する”組織”と合流を果たすまで、かの船団と行動を共にする事と成る。

 

くらま乗員350名の命は、田中修の手に握られた。

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