プロローグ
深夜一時。マンションの一室で、テレビの前に齧りついていた私は歓喜の雄たけびをあげた。
「きゃーっ! ラインフェルド様が動いてる! こっち見た! 素敵ーっ!!」
私の目は、ヒロインを巡って恋の火花を散らす五人の男性キャラが代わる代わる登場するオープニングアニメに釘付けだ。
そんな調子で盛り上がっていた私は、画面に額から頬にかけて走る刀傷が特徴的な黒髪青目の大男がアップで映し出され、台詞を口にした瞬間、胸にクッションを抱きしめて身悶えた。
「あ、あ、ぁぁあああ。ラインフェルド様がしゃべってるっ!! 小説で読んで惚れ込んだわけだけど、こうしてアニメで見るとまた別格!! ラインフェルド様が尊いっ。尊すぎて目が潰れるぅ~っ」
私の興奮はエンディングまでの三十分間、途切れることが無かった。
テレビを消して寝台に潜り込んだ後も、目はらんらんと輝いたまま。
「あぁあ、早く寝なくちゃ明日がヤバイのに。でもでも、ラインフェルド様の尊顔が目に焼き付いてとてもじゃないけど眠れないよー。アニメ化は嬉しいけど、なんで放送が深夜なの!? こんなに面白いんだもん、ゴールデンにやってよぉ!」
明日の仕事を思うなら録画で見るべきだと分かってはいるのだが、推したるものやはり生で観なければ始まらない。
長く寝台の上でゴロゴロしていたけれど、一時間ほどが過ぎた頃にむくりと起き上がって部屋の電気を点けた。
「……もういいや。寝れないし、録画したアニメを観直そう!」
潔く眠るのを諦めた私はもう一度アニメを堪能し、ついでに小説まで読み返して朝を迎え、寝不足の怠い体を引き摺って会社に向かう。
人波の流れにのって、ふらりふらりと横断歩道を渡る。暴走車両が歩行者の列に突っ込んできたのは、まさにそんな時だった。
その日。私は人生に幕を閉じた。推し活に捧げた二十二年の人生だった。