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むかしむかし

「鬼は人里に現れては悪事を働き、人を投げ飛ばし、村をめちゃめちゃにする。今こそ悪い鬼を退治する!いくぞ!犬!猿!キジ!」

桃太郎の鉢巻と旗を掲げ、勇ましく鬼退治に向かう。

「まぁ、2人とも可愛い。」

静子は楽しんでいた。

桃太郎の着せ替えを、ガンダルンダとノルンダルンにして遊んでいたのだ。

2人もすっかり乗り気で楽しんでいる。

「しずこ。悪い鬼は俺たちが倒してやるからな!行くぞ!ノルン」

「僕も戦うよ!!ガンちゃんこのお団子美味しいよ」

静子が腰にぶら下げさせたきび団子もどきを、ノルンはすでに食べていた。

「ノルンそれ、犬と猿とキジようだぞ!お供に来てくれないぞ」

「あっ!そうか、たべちゃったよ。静子どうしよう」

静子はあまりの可愛さに笑ってしまっていた。

「大丈夫よ、お団子ならあるわ。これから仲間を見つけなきゃいけないから、桃太郎さん達は大変ねぇ」

と笑った。

鬼の子2人はすっかり桃太郎に夢中だ。

そのきっかけは、静子が本屋に立ち寄った時に、ふと絵本のコーナーに目がいったことから始まった

その時陳列されていた、桃太郎の本が目に入った。鬼退治の話だが、それを鬼の2人に読み聞かせたら、どうなるのだろうと思って買った。

その足で、すぐさま和昭の家に向かい2人を預かりにいった。

なんだか楽しみで半ばワクワクしていた。

2人がどんなふうに受け取るのか見てみたかったからだ。

相変わらず、和昭の家ではじっとして留守番なんてしてるわけもなく、迎えにいった日も元気に走り回っていた。

「ガンちゃん、ノルンちゃんいる?静子です」

裏口をあけ、そこから声をかけた。

シーンとしていた。

「しずこ、ここ」

と小さい声が足元から聞こえた。

足元を見ても何もない。ん?と目線を変える事なくじっと見ていたら、だんだんと形が見えてきた。そのままじっと見ていると、じわりじわりと姿が浮き出てくる。不思議だけれど面白い。

あんなにも動き回っている2人が、きちんと並んで、まるで映画で英雄が現れるように、徐々にその姿が現れてくる。はっきりと見えるまで2人はきちんと並んでいるのが、なんだか可愛くて面白い。

2人がはっきり見え始めた時、ガンダルンダが声を上げた

「忍法!雲隠れの術でしたなり!www」

すっかり姿を現した2人は見上げるように顔をあげると、なにもなかったかのように静子にいった。

「しずこ。なにかようか?」

じーっと見つめる2人の目がとても可愛かった。

その姿をずっと見ていたかったが、そうではない

「可愛い絵本を買ったので2人に読んであげたいのよ。うちに来ない?ケーキも買って一緒に食べましょ」

ケーキというワードに2人が食いつかないわけはなく、ガンダルンダとノルンダルンは奥の部屋に着替えと帽子を取りに走った。

幾度となく出かけているうちに、外に出る服装を2人は覚えた。和昭は与えるものが少ない分、静子はとことん2人に甘い。さっさと2人は服に着替える。もう、1人でも着られるようになっている。静子は裏口でずっと待っていた。

2人が服を着終わると、裏口までやってきた。

「静子服着れたよぉ」ノルンがそう言っていると、ガンダルンダは靴を履こうとしていた。

「俺1番に終わった。」

「ガンちゃん待ってヨォ」

ノルンが靴を履く。

静子は2人の手を繋ぎ、和昭の家を出た。

和昭の家から駅まで少しある。

3人は家を出てからずっと、手を繋いで歩いている。

静子は「おーてぇてぇつぅないでぇ…」と歌い始め、そして2人は前後に揺れる腕に喜んでいた。駅に着くと改札を抜け、ホームに向かう。

最初は大変だった電車も、今ではちゃんと落ち着いて乗れるようになった。

静子の家の側に、お値段お手頃だが美味しい昔ながらのケーキ屋さんがある。

「ノルンちゃんはどれがいい?ガンちゃんはこれよね?」

静子は腰をかがめ、ケーキの並ぶショーケースを指さした。その指の先には、くるりと巻かれたロールケーキがあった。

「中にいっぱい果物入ってるやつな!」

ガンダルンダは自慢げに言った。

「ノルンちゃんはどうする?」

静子がそう聞くと、ノルンは左端にある写真を見ていた。

「静子!これがいい」

ノルンが指した指の先には、可愛く作られた

てんとう虫のケーキが写っていた。

「ノルンちゃん。残念だけど、これは今は買えないと思うわ」

静子がそう言うと、ノルンは悲しそうに俯いた。

それを見ていたガンダルンダは、突然大きな声で言った。

「おじちゃん、おばちゃん!てんとう虫のケーキください!!」

レジ台から、中を覗くようにつま先立ちで言った。

「おじちゃーん!おばちゃーん!」

ガンダルンダが呼んでいる中で、実は小さく返事をしている声が混ざっていることに、3人は気づいていなかった。

「あらあら僕たちなのね。」

店主の妻が先に顔を出した。

60代半ばだろうか、とても綺麗な人だ。

その妻の後ろから顔を出した店主もまた、歳は同じくらいだろう、渋くて格好いい。そして2人とも物凄く優しい。

「おじちゃん!このてんとう虫のケーキつくれる?作れる?」

店主は、ガンダルンダがうつむいてるノルンに変わって指さした写真を、店主はレジ横から出てきてその写真を見た。

「これかぁ。これは今は作れないけれど、ちょっと待っていてくれるかい」

そういうと、店主は店の奥の作業場に行った。

店主が作業している間、妻と3人は話し込んでいた。

しばらくして店主がケーキを持ってやってきた。

「これと同じものは今は作って上げられないが、これでもいいかい?」

と、ノルンの前に差し出した。

それを見るとノルンはたちまち元気になった。

「おじちゃんありがとう。ぼくこれがいい。」

スポンジケーキの土台にシュークリームを乗せ、生クリームでコーティングし、てんとう虫っぽく見せたケーキだった。

元気に踊る2人を見て、店主夫婦と静子は、ほんわか幸せな気分になっていた。

2つの大きなケーキの清算をすると、静子の家に再び向かった。

ケーキ屋からは5分くらい。

マンションに着くとエレベーターに乗り5階に行く。エレベーターを降りるとすぐに2人は駆け出し、ドアの前で静子を呼んだ。

「静子ぉーぅはやく!」

両手にケーキを持ち、静子は笑顔で2人の元に向かった。

静子は最近家の鍵を変えた。

静子が家の前に来ると、自然にロックが外れるようにしたのだ。いちいち鍵を差し込まなくとも開くようになった。

2つの箱をうまく持ちドアを開けると、2人はなだれ込むようにまっすぐ走っていった。

強ロックのボタンを押し、リビングにあるキッチンに向かった。

ケーキをおろしながら、2人を見ている。

いつでも仲良く楽しそうに動く2人が、可愛くて仕方がなかった。

ケーキをそれぞれ箱から出し、リビングのテーブルにのせた。

2人はケーキにすぐ気付き、それぞれのケーキの前に座った。

フォークを持ち、

「「いただきます!」」

と言うと、むしゃむしゃと食べ始めた。

それぞれ3人から4人くらいで食べる量のケーキを、それぞれ1人で口のまわりを汚しながら、口いっぱいに頬張る。

それがまたとても可愛くて、美味しそうだ。

静子はとても幸せな気分になっていた。

「ケーキを食べたら絵本を読みますからね」

2人は口いっぱいに頬張りながらも、あまり聞こえはしないがちゃんと返事はしていた。

とにかくケーキに夢中だった。

食べる姿に癒されていた静子は、ガラスの麦茶ポットを持ちながら、2人のコップに継ぎ足すのを忘れていた。

「しずこぉ、ノルンの麦茶なくなっちゃったよ」

ハッと思いコップに継ぎ足すと、横でガンダルンダがケーキを食べ終えた。

「おれ、いちばん!ふわぁ、くったくった」

ガンダルンダはそのまま後ろに倒れて仰向けになった。

ガンダルンダが終わったのを見ていたノルンは、1/3ほど残っていたケーキを一口で飲み込んだ。

「ぼくもくったぁー!」

ノルンも仰向けに倒れた。

静子は、台所のカウンターに置いておいた絵本を取り、寝転んでいるガンダルンダの頭の上を通り、2人の間に入って座ると、絵本を読み始めた。

「むかしむかし…」

懐かしい鬼退治の物語。

最初のうちは聞き流していた2人も、吉備団子を持ち、仲間を集め始める頃になると、絵本に集まり、ワクワクしながら見ていた。

船に乗り込み鬼ヶ島に向かい、そこで鬼と戦うシーンには目が輝いていた。

「静子!鬼退治!鬼退治」

すっかり入り込んでしまった絵本も無事に読み終えることが出来た。

「明日必要なものを全部買いに行って、桃太郎の鬼退治ごっこしましょ」

2人はそれを聞くと

「やったぁー!!」

と飛び上がって喜んだ。

2人はそのまま静子の家に泊まった。

和昭が、久しぶりの静かな時間を満喫していたことは言うまでもない。

翌日、いろいろなものを購入し準備万端になると、ふたりの桃太郎が出来上がった。

静子の家、いわゆる源条(げんじょう)家では、小さな劇団の公演がはじまった。


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