終わりの法事
午前中で法事も終わり、畳の広間に並べられた座布団を静子は押し入れに仕舞い込んでいた。
伸ばした腕の七分袖が短く見えるほどに腕をのばし、足はつま先立ちでなんとか綺麗に重ねて奥まで入れようとしている。
「後ろからの景色は、従兄弟ながらまずまずですねぇ」
静子の後方で和昭が、これもまた踵のつかないつま先立ちで、しゃがんで眺めていた。
「そんなところにいるなら手伝ってくださいな」
ぎゅうぎゅうと押し込んだ座布団は、なんとかバランスを保ち、襖を閉めることができた。
「頑張ってる静子さんのお邪魔にならない様に見張ってました」
ふざける和昭に呆れた静子は、何も言わず皆のいる居間に向かった。
居間では5人の兄弟が何やら、まとまりのつかない話をしていた。
そのまとまらない話とは、この祖母の家を取り壊すと言う話だった。
実際今、この家の管理をしているのは相続した二男の鷲ニ(しゅうじ)だ。
思い出の詰まったこの家に愛着のあった鷲ニは、この家を相続すると分かった時、嬉しさからか心からホッとした。
兄に渡していたら、この家は既に更地で売りに出されていただろう。
この家を残しておける。そう思い、安心した。
だがここに住むわけにはいかない。
既に鷲ニには家がある。
だが彼には管理できる収入があった。
それなのに、また余計な話が湧き出していたのだ。
口火を切ったのは、末の妹の朝子だ。
子供達は青梅の叔母と呼んでいる。
普段は大して存在が見えない朝子だが、兄弟が集まる場所になると、てんでその存在を強く押し出して来る。
家庭も決して苦しい経済状況ではないくせに、知識持っていますのアピールなのか、末っ子の粋がりなのか、何かと声を上げる。
周りはまた始まったと、彼女声を聞くに頭が痛い。
だが、そー思わないのが1人だけいる。
決まって朝子の意見に乗っかるのが、長男の鷹一だ。
1番上と1番下。なんだこの1番同志は、と理解に苦しむ間組の姉弟をよそに、その議論は途中から口を挟んできた和昭によって、打ち砕かれることとなった。
その後は重い空気になるかと思えばそうにはならず、安心した鷲ニが和昭に声をかけたところから、男達は賑わいはじめた。
その輪に入れそうにない朝子も一緒に、なぜか輪に入れて楽しそうに会話している。
そんな状況だからか、静子は半ば呆れてその場にいる気になれず、1人席を立ち縁側のある部屋まで移動することにしようとした。
その様子を見ていた母の頼子も席を立った。
部屋から出たところで、静子に声をかけた。
「ねぇねぇ、この家の奥に納戸があるんだけど、向こう盛り上がってるし、行ってみない?なんかいいものあるかもよ」
そうやって笑う母の顔に、まあいいかと縁側を諦め、頷いた。
昔の家の納戸というものはなぜが怖い印象がある。
台所を抜け、家の奥へと進むとちょうど暗いようなところに納戸がある。
「ここ、ここ」
頼子は冒険でもするかのように楽しそうに、納戸の前で止まり、その扉をゆっくり右に流すように開けた。
するとその瞬間中から冷たい空気がふわっと流れてきた。
(なんか、気味が悪い。)
静子はそうおもった。
鳥肌まではいかないが、その冷たい空気に少しゾッとした。
そして、その冷たい空気にのって心なしか、納戸から香ばしい匂いが漂ってきた。
そんな気がした。
「なんか色々古そうな物が…」
首を上げ下げしながら、母頼子は棚に積まれた物を見ていた。
静子もまた、母の後ろで入り口の戸に手を掛けながら、キョロキョロしていた。
少し進んだその奥で
「えっ!!なんで?」
突然、母が声をあげた。
「どうしたの!?母さん」
母の右肩に近寄り、母の目線の先にあったものを静子もみた。
するとそれは、子供用の洋服だった。
少し埃がついたのか、薄汚れている。
小さくて可愛らしい2人分の洋服が、脱ぎ捨てられる様に置いてあった。
ここ何年も開けられてない納戸の中に、薄汚れているとはいえまだ新しそうな服が2着。
母はしばらくだまっていた。
そして、なにか思い出したかのようにハッとし、一息飲み込むと
「きっと鷲ニの家の人でも来たんでしょ。そのままにしておこう。うーんやっぱりここはもう出ましょう」と納戸を出ると、その扉を閉めた。
このような場所は、薄暗く気味が悪いせいか、何か普段と違うものだったり、考え込むようなことがあると、どうも怖くて逃げたくなる。
自分が育った家とはいえ、嫁にでてしまえばそこはもう他人の家だ。
怖いとなるとその不気味さは、大人になっても怖い。
2人は納戸の探索を諦め、廊下を右手にすすんだ。
コの字型に進むと縁側に直結した部屋に出る。
廊下からニ間続きの部屋の中を歩き、縁側に出る手前で、2人の足元にひんやりした風が抜けた。
そうして縁側で横たわる和昭を見つけた。
目の前に広がる庭の植物たちは、生い茂る草もなくきちんと手入れされている。
鷲ニがとても大切にしているのがわかる。
日光が当たり暖かいのだろう、気持ちよさそうに和昭は寝ている。
母と娘は和昭の頭がある方にそっと腰をおろし、寝ている和昭の横で庭を眺めた。
しばらく庭を眺めていると、右から左に風が抜けた。
静子の顔の高さに流れた風によって、髪が顔を覆うように邪魔をした。
邪魔髪を手で押さえると、押さえた矢先にまた、
同じ風が吹いた。
「もうっ!」
と静子がその風に声をあげると。
(きゃはははー)
と、子供の笑い声が聞こえた。
それは母頼子も、いつの間にか目を覚ましていた和昭もだった。
近所の子供の声かもしれないその声に、なぜか懐かしさを感じる3人だった。




