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叔父の家と大男


「なぁ静子。こんなことになって、お前んちで聞くはずの話、今聞いてもいいか?」

ハンドルを軽く握りしめ、後ろに乗っている静子に向けて和昭は聞いた。

前日から気になっていた話なわけで、内心聞き出したくてウズウズしていた。

助手席にはガンダルンダが座っている。

ジュニア用のシートに包まれて、袋のチップスに短い腕を突っ込んでは口に、を繰り返していた。

バリバリと音を立て、美味しそうに食べている。

後ろのシートには、ノルンダルンが静子と一緒に座っていた。

ノルンダルンもまた、ジュニア用のシートに身体を包まれて座っていた。

そして、塩バター味のポップコーンを同じように、短い手を袋の奥に入れ、一つ取っては、のペースを乱すことなく食べていた。

「いいけど、別にいつも通りの話よ。この子達は気づくと小さくなって、どっかに入り込んでいたりするでしょう?そうして、普段から鬼ごっこみたいにしているじゃない?そんな感じでいつもと変わらず目の前にいたわ。それよりも和昭さんこそ教えて欲しいわ。拓馬さんのこと母の知ってる限りのことは聞いたけど。和昭さんの方こそ教えて欲しいわ」

逆に質問された。

昨日話を聞きたくて、頭を悩ましていた時間が無駄に終わったように感じた。

静子からはいつもと変わらない内容しか出て来なかった。

和昭はがっかりしていた。

「俺はこいつらがこっちの世界に残ってるなんて微塵も思ってなかったから、無我夢中であいつに齧り付いたよ。だが、こいつらの…いや、結局俺がしたことは無駄だったんじゃないか?」

和昭は言葉を飲みこみ、それ以上は何も言わなかった。

それをきいた静子は、満足いかない思いだった。

2人が不完全燃焼なか、車はどんどん先に進み、あっという間に叔父の家に着いた。

和昭の実家も大きく立派な家だが、この長男の家はさらに広く大きい。

門をくぐりしばらく進むと、奥には大きな家が見える。

モダンな雰囲気の中にも、和風要素もある美しい建築物だ。

和昭は客人用と書かれた場所に、車を停めた。

客人用と書いてある駐車場があること自体一般的な家ではないが、和昭達には叔父の家でもあり、慣れた空間的な感じでもあり、驚くような事ではなかった。

「着いたぞ。みんな降りろ」

降りようとした時、ガンダルンダの服に落ちたチップスのカスに和昭の目が厳しくひかった。

和昭は自ら助手席に向かい、ガンダルンダの世話に走った。

「ダー!!お前そのまま動くな」

その声に驚いたガンダルンダは、理解し硬直した。

シートベルトをゆっくり外し、服についたもの達が散らばらないようにガンダルンダをそっと車から下ろした。

そして、胸元から順に服を叩いた。

まだ、チップスは袋の中に残っている。

ガンダルンダは腕を袋の中にいれようとした。

「一旦やめて。食べるのだめ」

ふくろを取り上げたとき、静子がノルンダルンを運転席側から降ろしているのが見えた。

ガンダルンダの手を引き、そちらの方向に歩いた。

「行こう」

静子の手にはノルンダルンのお菓子の袋が握られていた。

叔父さんの家に行く心構えは、静子にもあったことを理解した和昭はほっとして、大きな家の玄関にむけて足をすすめた。

大人が5人は横並びにこんにちはできるほどの広さのある、両開きの玄関ドアの横にインターフォンらしきものがある。

それを和昭は押した。

「ガランガラゴロン」変わった重低音の鐘にも似た様音が家中に響いたのがわかった。

「どちら様でしょうか?」

インターフォンから落ち着いた女性の声が聞こえて来た。

「和昭と静子です」そう和昭がいうと、

「どちら様でしょうか?」

と、再び聞いて来た。

呼んでおいて、なんの伝達もしていないのかと、イラつきを抑えながらもう一度声を出した。

「お宅と同じ古住です!叔父に呼ばれて来た和昭と従姉妹の静子と伝えてもらえればすぐ分かります。」

そう伝えると、今度は少し焦り気味になり、

「…少々お待ちくださいませ」と、言った。

その声には不信さがまだ消えていない様子だった。

インターフォンは切れた。

「なんだよ叔父さんも。自分から呼びつけといて。家政婦さんに言っておけよ」

そう愚痴を言ってからしばらくして、玄関の扉が自動で開いた。

扉が開くと、目の前に黒いスーツを着た男性が1人、2人を迎えるかの様に笑顔で立っていた。

「お忙しいなか起こしいただき、主人に変わりましてお礼申し上げます。主人は応接の間にてお待ちでございます。お2人どうぞこちらへ」

相変わらずすごい家だと思いながら靴を脱ぎ、用意されたスリッパに履き替えると、スーツの男性の後について歩いた。

静子は更にその後ろから、ガンダルンダとノルンダルンを引き連れあるいた。

右に曲がり、左に曲がり、庭園を抜ける廊下を渡り…ホテルか旅館に来た様な感じだった。


「旦那様。和昭様静子様お見えになり、お連れいたしました。」

大きく立派な引き扉の前でその男性は止まり、扉の向こうにいる主人に向けて言った。


「2人のみ入りなさい」

そう、扉の向こうから声がした。

するとそのスーツの男性は後ろに下がり、開ける方の扉を、美しく伸びた手のひらで和昭を見ながら指し示した。

それに応え、

「和昭です。入ります」

と、扉を開けた。

和昭が入ると続いて静子も中に入った。

その応接室はやはりとても広く、天井も高い。

一体何人が収容できるのかと思うほど広い応接室だった。

が、和昭はそれ以上に、突然目に飛び込んできたある者に驚き、絶句していた。

そんなとき静子は、静子の両足をつかむ2人の冷たい手を感じていた。

足元を見ると2人の姿が消えている。

だがしっかりと掴んでいるのがわかった。

(やばいぞ、大きい。ものすごくデカい。やばいぞこれは)

和昭の絶句ぶりに、後ろにいる静子は聞かずともわかっていた。

すると叔父が口を開いていった。

「2人とも突然すまなかった。こちらの方が、どうしてもお前たちに用があると、おみえになった」

とても立派な膨らみのある重厚感のある黒いソファーは、この家にどんな客人が来るのか想像できるものだった。

そして、あの巨体を支えていられている事にも驚いた。だがこのソファーでなければ客人として向かい入れられなかったのではないかと思った。

そして支えようと頑張るソファーに、同情を感じずにはいられなった。

ソファーがミシミシと音を立てている。

その大男が、和昭たちを見ながら立ちあがった。

「初めてお目にかかる。もう、お二人はお分かりであろう。わしはあの2人の親、とでも言いましょうか、あの2人の主人であります。こうして2人を連れ戻しに参った次第。大変2人がお世話になった。」

そう言うと頭を下げ、腰を下ろした。

軋む高級ソファー。

和昭はまだ硬直していた。

それを横目で見た静子が、ゆっくり深々と頭を下げた。

「それはそれは、遠いところからはるばるお越しいただきましたようで、有難うございます。ですが、あの子たちが帰りますかどうか…」

そういいながら、ゆっくり頭をあげたときの静子の長い髪が、前後に大きく揺れた。

そして、目の前にいる巨体の主を睨みつけている。

その仕草から何かを感じたのか、巨体の主は大きくため息をついた。

そのため息で、脇に置いてあった観葉植物が吹き飛んだ。

叔父さんはそれを見て腰を抜かした。

「あの小僧2人には、重要な役割があります。彼らはそれを放棄してこの世に来てしまった。わしらはこの2人をずっと探していた。それでようやく、ある時から存在を確認できるようになり、戻す時を見計らっていた。その時と思ったのか、愚神の従者がはやまり、小僧たちを連れ戻そうとしたのが先日のこと。お分かりのように、事は失敗に終わり、わしが来ることになったわけです。」

ソファーの軋む音がかき消されるように、その大男は来訪の意味を説明した。

ガンダルンダとノルンダルンの主人だと言う大男。

見るからに何かの主であり、住む世界が違う存在なのも、言わずとも分かる。そう思う和昭であった。

こういう時変に強いのが静子であり、その頑張りが空回りの時もままある静子である。

今回はまぁまぁそうでも無い。

正直、和昭も静子も、この小鬼2人と離れたくはなかった。

なので和昭は息をごくんと飲みこむと、

「こ、 この小鬼2人は、ずっと俺らのばあちゃんちにいて、ばあちゃんがずっと守ってきていた。俺たちはそれを引き継いだに過ぎないが、もう家族なんです。こいつらのいない生活なんて考えられないんすよ。」

といい、足下を見たが小鬼2人の姿がなかった。

(静子!あいつらは?)

小声で静子に確認するも、静子は目をギョロギョロさせながら、目を逸らすなと合図をおくった。

そして、それがわからない和昭に小さな声で

(あたしの足に2人ともくっついているから!)

と、伝えた。

(なんだよあいつら。ずるいな)

和昭は向きを戻し、真っ直ぐ相手の方を向き背筋を伸ばした。

「先程も申し上げたが、あなた達が何年か後に必ず訪れる人の工程の中で、この2人がいないと、あなた方の心が浄化された後もずっと、現世までの待機をずっとあの暗闇の中でしなくてはならない。2人は自分の半身を置いていったつもりだろうが、全く何年も何人も滞る始末。いい加減もどって、やるべき役割を遂行させたいのです」

和昭、静子の肩がストンとさがった。

なにもいえない。

自分達のことだけ自己中極まりなくで、罪悪感さへも湧き上がっていた。

これはもう、小鬼2人を引き渡すしかないと和昭は思った。

そして同時に、あの不思議な光景を思い出していた。

あの小鬼2人のなんとも言えない迫力のあるあの姿、そして2人がまとう独特な光と空気。

特別な存在である事が、言わずともわかる姿だった。

この世で生きていては行けないのは、頭ではわかっていた。

いや、そこは考えないようにしていたという方のが正しい。

それは頭の片隅の、本当に隅の方に追いやって、この小鬼、2人といる楽しさにずっと酔いしれていたかった。

それは静子も同じだった。

一人暮らしの、日々大した変化もなく過ぎる毎日に、ポッと現れた楽しい光だった。

今も足にしがみつく2人の愛おしさを感じながら、グッと我慢しようとした静子であったが、自然と涙が溢れてきてしまった。

「静子…」

自分も同じ思いだと、和昭はグッと心の中に、その思いを仕舞い込んだ。


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