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帰還


「おばさんと静子がいない。」

あの小鬼2人の存在がなかったことになっているのかもしれないと和昭はおもった。

静けさのなか、軽い空気が舞い、小鬼2人の声を運んできたように感じた。

もちろんそれは幻であり、聞こえるはずはなかった。

あの世界から帰るしかなかった和昭は、2人のいなくなったこの静けさに、正直耐えることはできなかった。

それでも、記憶が残っていたことはたった一つの救いだった。

小鬼2人がいなくなった悲しみに、しばらく浸っていたが、あの和昭がそんなにも長く悲しむはずもなく、すぐ彼は現実に立ち返った。

そして突然脳裏にあの時の情景が浮かんできた。

それは、元々の姿だというあの2人の姿だった。

正直度肝を抜かれていた。

和昭の見た2人は、本当にこの世のものではなかったのだ。

天の使いと言ってもおかしくない程に、今迄の鬼の概念を覆すほど美しい鬼だった。

あの2人が目覚めた時どうなるのかも、正直気になっていたが、どちらにせよ死ぬことになってしまうなら仕方がないとあきらめた。

その事に、和昭はとても後悔があった。

「出会った時から無邪気で、あいつらは確かに可愛かった。だが、しょうもない悪ガキだったし、小さいけど鬼だし、それ故にだいぶ雑に扱った…時もあったな。そこは謝る先がもういないが、とにかく気持ちだけでも謝ろう。はぁ、でも…あれはないなぁ。いやまいった。」

そう言うと、立ち上がり部屋の明かりをつけた。もうすっかり夜だった。

「静子に電話すっかなぁ。でも記憶がなければ話す話もないしなぁ」

そんなことを思いながら、台所に向かいお湯を沸かした。

徐に食べようと思っていたカップ麺ではなく、冷蔵庫を開けた。

以前冷凍庫には、小鬼達の大好きなアイスがたっぷり入っていた。

今は、「えっ、ある」

冷蔵庫も開けてみると、おもちゃの人形が所々に入っている。

「俺だけ?俺のとこだけ?だよなぁ。えっ」

和昭は電話をかけた。

呼び出し音が長く、指先のダンスが高速になる。

「はぁーい。どうしたの?」

ようやく出た静子の声に苛立ちながら、和昭は小鬼2人のこと確認した。

「お前、もっと早く気づけよ。」

「あっごめんなさい。今お風呂に入ろうとしてたのよ」

「あっわるい。お前に変なこと聞くけど、小鬼達の事は覚えてるか?こーちっさくて、うるさい奴らで…」

和昭は息を呑んだ。

きっと記憶を消されてしまっているんだろう。そう、思って静子の返事をまった。

「…何言ってるの?小鬼ちゃん達ならいるわよ、ここに。今2人でお風呂入ってるわ」

「えっいるの?なんで?」

「なんでって…そうか、そうね。明日午前中にうちにいらっしゃいよ。明日話しましょ。じゃ、まってるからね」そういうと、電話は切れた。

この現状が腑に落ちない和昭にとって、明日を思うと気になって仕方がなかった。

だがどう足掻いても、とりあえず今はどうにもならない。

「いいや、いろいろありすぎた。俺も風呂入って寝よ」

和昭は、暗い家に1人静かに就寝した。

就寝した時間はなんじだったか?久しぶりにしっかりと寝た、そう思えた朝だった。

起きて用を済ませて時間を見れば、7時半。

しっかり寝たとはいえ、何気に会社に行く普段のリズムとそう違わないことに腹立たしさを覚えた。

身体が、会社に向かうための正確に起きるリズムを記憶している。

それが怖い。

若い時のように踊るリズムは衰えているが、生活のリズムは恐ろしいくらい歳をとるごとに発達している。

昼まで寝てるなんて、出来ることならまたしてみたいものだとおもう。

近頃は、未来を夢見るよりも、逆に過去に夢見るなんてことも多くなってきた和昭だった。


午前に来い。


という静子の曖昧な言葉に、和昭は何時に行くか少し悩んでいた。

悩みも少しなので10時までに行けば良いだろうと解釈して、解決も早かった。

それまで適当に何かしていようと思っていた矢先に、電話の音がなった。

「おっ、和昭か。私だ」

でれば珍しい人からの電話だった。

「鷹一叔父さん?!俺にかけてくるなんて珍しいですね。どうしたんですか?」

「急で申し訳ないんだが、今すぐうちにきてくれ!そうだ、頼子んとこの静子も連れて急いで来てくれ!」

「えっ静子もですか?それも珍しいですね。まぁわかりました静子連れて向かいます。」

冠婚葬祭でも連絡が来ることもない鷹一からの電話に正直驚いた和昭だったが、そこに静子の名前もついてきた。なんだろうと思いながらも、確証はないが、なんとなく原因としてよぎっているものはあった。

和昭は静子に電話した。

そして、ことの詳細を話したあと、車に乗り込み静子の家に向かった。

静子の家に着き、入り口のチャイムを鳴らした。

はーいと言う返事の後に開けられたドアの先には、お出かけモードの3人がそこにたっていた。

その雰囲気で、和昭の中にあった隠れていた緊張が一気に和らいだ。

「そーだよな。お前たちも行くんだよな。」

車に乗り込み、鷹一の元へ向かった。


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