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いざ冒険へ!

 ドギナデスを撃破した次の日、王の間へ不機嫌なエリーナとキノコヘッドが案内される。2人はアダムスの前に片膝をつき、腰を下ろした。


「それでは改めて勇者キノコヘッドよ、魔王を討伐する冒険に出てくれぬか」

「いいよーん」

「いいよーんて、お主わかっているのか?」

「おうよ! 主役の機会なんて初めてだ。おらワクワクすっぞ!」


 キノコヘッドは突然オレンジの道着を着て、手のひらを重ねてエネルギー波を撃つ。その横でエリーナは立ち上がる。


「父上、私もこいつ、じゃなかった。勇者様のお供をさせてください」

「どういうことじゃ。もしかしてお前......」

「あぁーーーーー聞こえない聞こえない!」


 エリーナは両耳を塞ぎ、その場に蹲る。彼女は昨日、ドギナデスが倒された直後の出来事を思い返す。彼女の無敵モードは、結局30分経過するまで解除されなかったのだ。その間、騒ぎを聞きつけた者たちがエリーナの醜態を目撃してしまう。彼女のそのあられもない姿は瞬く間に国内に広まり、「緊縛のエリーナ」と異名が変わり果てた。そして今日、王の間へ行く途中の通路にて、使用人の女性に「あ、緊縛のwww」と通り際に呟かれたことで彼女は決心した。


「緊縛のエリーナさんでしたっけ?」

「パパ早く私をこの国から出させてください! お願いします! 何でもしますから!」


 彼女は幼児退行し、アダムスにすがりつく。


「わ、わかったから落ち着くんじゃ!」


 数分後、正式な儀を終えた2人は城門へ来ていた。


「勇者様、エリーナ様、昨日は申し訳ございません。身の程を知らず、迷惑ばかりかけてしまいました」


 オリネスは旅立とうとするキノコヘッドたちに駆け寄り、頭を下げる。


「私は一向に構わん!」


 キノコヘッドは辮髪になり、結った髪の先端部分にくっ付けた酢昆布をチュパチュパとしていた。


「いえ、私も眩暈でちゃんと戦えませんでした。オリネス、私が不在の間

も精進してくださいね」

「あ、はい。きんば......エリーナ様もお達者で!」


 オリネスは笑いを噴き出しそうになると、駆け足で去っていった。エリーナは顔を真っ赤にし、キノコヘッドの辮髪を引っ張って歩き出す。


「ちょっと! まだ辮髪を食べているでしょうが!」


 それから更に時間が経過し、昼間に差し掛かる。キノコヘッドたちは草原を歩いていた。


「はぁ。これからどうしたらいいのでしょう」

「魔王倒せばいんじゃね? じゃねじゃね?」


 ギャル男に変身した彼は、落ち込むエリーナを気にせずパシャパシャ撮る。


「これSNS上げていい?」

「もう好きにしてください」

「あ、サンキュー。顔ちっせ、私より大きくしてっと」

「いやぁ!」


 遠くから悲鳴が響く。エリーナはすぐに態度を切り替え、「偵察します」といって声のした丘の方へと走った。彼女が丘へ行くと、その下の道には魔王軍が2人いた。その魔王軍兵士らは、木の下に少女を追い詰めている。


「これは……」


 エリーナはすぐに引き返し、キノコヘッドのいる場所へ向かう。しかし、彼のいた場所にはポツンと扉がある。


「勇者様、大変なことが起きていて」


 姿を消した彼を探し、エリーナは怪しみながらも扉を開ける。扉の向こうは、洋館の部屋に繋がっていた。部屋の真ん中には死体があり、ちょびヒゲのおっさんと刑事らしき渋い男がいた。


「なんかこっちも大変なことなってる!?」

「毛痔くん、眠りの小太郎の推理を聞かせてくれ」


 ちょびヒゲの毛痔と呼ばれる男は、「えっ」と慌てる。


「そ、そうですなぁえーっと」


 キノコヘッドは青いジャケットと鼠色の半ズボンの格好をし、ソファの物陰に隠れていた。彼は毛痔が言葉に詰まるのを見るや、時計型麻酔銃を発射する。


「勇者様!?」


 彼の麻酔針が刺さると、毛痔は千鳥足でソファにもたれるように腰を下ろす。


「おぉ、きたきた!」

「勇者様、殺人事件で大変かと思いますが刑事さんに任せましょうよ」

「バーロー、静かにしな!」


 キノコヘッドは丸メガネをクイっと掛け直し、赤い蝶ネクタイを引っ張って声を変声させて話し始める。


「えぇ、刑事さん今回の殺人事件は窓から……」

「あれ、俺寝てたかな」


 毛痔はキノコヘッドが推理を始めた途端、目を覚ました。キノコヘッドは舌打ちし、ソファから身を出して彼のうなじをトンと叩く。すると、またしても彼はソファに座り込んだ。


「えーっと犯人は」

「あれ、俺寝て」

「寝てろって!」


 キノコヘッドはまたうなじをトンした。しかし、推理を始めようとすると毛痔がまた目を覚ます。トン、目を覚ます。トントン、目を覚ます。


トントントントントントントントン!


「勇者様、餅つきみたいになってますよ!」

「はい!」

「よぉ〜!」

「はい!」

「よぉ〜!」


 次第に毛痔の身体は丸みを帯び、本当に餅になった。キノコヘッドは「ふぅ」といいながら、エリーナに台本を見せてヒソヒソと小声で何かを伝える。


「えぇ、私そんなのできないです!」

「なら行かないぞ?」

「うぅ、わかりましたよ」


 エリーナは恥ずかしそうに、鉢巻を巻いて杵を抱える。キノコヘッドの「3、2、1」の掛け声で何かが始まろうとした。


「窓から侵入したこの事件の犯人がいるんですよぉ〜」

「……」

「はい、いって!」

「な、な〜にぃやっちまったな、なー。男は黙ってそこの凶器、男は黙ってそこの凶器」


 彼女は棒読みで恥ずかしそうに杵を振りながら、テーブルの下にあった凶器を見つける。


「この凶器には彼の指紋が付いているはずです」


 エリーナに指を指された男は、「はい。僕がやりました」とあっさり自白した。


「さぁ、勇者様行きますよ!」

「おう、満足じゃ!」


 2人が扉から出ようとすると、刑事は彼女に声をかける。


「待った。君はもしかして有名な探偵か? よければ名前を聞かせていただきたい」

「えっ、私はただの」

「この方は緊縛のエリーナです。以後よろしく!」

「いうなぁ!!!」


 またしてもエリーナに引っ張られ、キノコヘッドは急足で連れて行かれた。


「ちぇっ、博士にもらった秘密道具試したかったのによー」


 2人が丘の下に着くと、少女は手錠で拘束され襲われそうになっていた。


「いや、誰か助けて」

「ぐへへ、お楽しみといきますか」

「やめなさい!」


 少女に手を伸ばした兵士は、ニヤケ顔のままバタリと倒れ込んだ。彼の背中には、斬撃を受けて深い切り傷がある。


「テメェ、よくもやりやがったな!」


 隣にいた兵士は、殺気だってエリーナへと斬りかかる。キノコヘッドは「らーん!」と叫びながら靴の回転ボタンをカチカチと捻った。彼の足はピカピカと光り、その兵士目掛けて……膝蹴りをした。膝は顎にクリーンヒットし、兵士は為す術もなくやられる。


「その靴、意味ありました?」


 エリーナはジト目をする。キノコヘッドは「うん!」と満面の笑みで返事をした。


「そ、そうですか。まぁいいです。あなた、怪我はありませんでしたか?」


 少女は手錠を外された瞬間、ウルウルとしながらエリーナに抱きついた。


「怖かったんですね。いいです、落ち着くまでこのままでいましょう」

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