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勇者VS姫騎士

 城内の床一面には、鮮血が飛び散る。兵士の何人かはアダムスの身を案じて近寄る。しかし、彼は肩で息をしながらも立ち上がった。


「くっ、あやつは危険だ。早く殺せ!」


 アダムスの怒号が飛び、兵士らは再びキノコヘッドを囲い込む。彼は退路を塞がれると、額の汗を拭いた。


「またかよ。ったく、相手してられねぇぜ!」


 彼は特大の屁をかまし、黄色い煙幕を周囲に撒き散らした。煙を浴びた兵士らは鼻と目を塞ぎ、苦悶の声を漏らす。


「くっさ! おい、奴はどこだ!」

「わからん。探せ! 絶対に逃がすな!」

「へへ、あばよ!」


 アダムスは薄っすらと目を開き、「逃げられたか」と呟く。黄色いスモッグが晴れると、キノコヘッドはペンギンのようにトコトコと数センチの距離を歩いていた。


「「おっそ!!!」」


 兵士とアダムスは目玉を飛び出して驚くと同時、鮮血を散らす。


「な、何が起きておる。貴様、一体何をしたのだ!」


 アダムスは倒れ込みながらも、キノコヘッドにガンを飛ばした。


「あれ、なんか形成逆転? いひひひひ。おい、さっきはよくもボコってくれたなぁ」


 キノコヘッドは踵を返し、拳をポキポキと鳴らし始める。


「くらえや! ロケットパーンチ!」


 素人丸出しの大きく振りかぶったキノコヘッドの拳が放たれる。しかし、彼の突き出した腕は、肘から先をスパッと斬り落とされる。腕の切断面からは溢れんばかりの血が噴き出した。


「なんじゃこりゃあ!」


 キノコヘッドは松田優作ばりのリアクションと共に、顔が青ざめていく。満身創痍の彼の前には、ドレスに鎧を着込んだような恰好の女性が立っている。彼女は刀剣に付着した血を一振りで払い、構えをとった。ブロンドヘアを靡かせ、背後に倒れ込むアダムスの様子を伺っている。


「父上、異変を察して馳せ参じました。助太刀致します」


 アダムスたちは彼女が現れると、疲弊していた身体が嘘のように立ち上がる。


「エリーナ、よく来てくれた」

「おぉ、姫騎士のエリーナ様だ!」

「国内最強の姫様が来たならもう安心だ! 姫様、お願いします!」

「言われなくとも」


 しかし、活気づく彼らの人垣に忍び寄る影があった。


「貴様、よくも殺ってくれたな!」

「その腕でまだやる気ですか。大人しく投降した方がって......誰!?」


 エリーナの後ろには、人と同じ大きさの蚊が立っていた。蚊は白いエプロンを着ていて、さながら昭和のお母さんを思わせる。


「どうも。さっきこいつに息子を殺された蚊の母親です」

「えっあっ、こちらこそ。いやちが、蚊の母親? 息子?」


 困惑するエリーナは、目をハテナにして剣を無意識に下ろした。彼女をよそに、蚊の母親は包丁片手にガンを飛ばす。


「やいキノコ、ただでは殺さんでワレェ!」


 キノコヘッドは切断された腕を手に持ち、蚊の母親に差し出した。


「違うんです! 息子さんを殺したのはこの手です! 僕じゃありません!」

「えっそれあなたじゃ......」

「ホンマや! この野郎よくも、許さん!」


 蚊の母親は目隠しを外し、中指を人差し指と交差させて印を作る。


「なんちゃら展開......早漏調理(3分クッキング)」

「よめねーよ!」


 エリーナの突っ込みをよそに、蚊の母親の周囲から空間が広がる。その空間は瞬きする間に城内の景色を一変させた。部屋は完全に、3分クッキングのスタジオへと変化する。


「はぁ!? ちょっ、何これ!」


 スタジオには長方形の看板が天井から吊るされていて、母(蚊)さんの3分クッキングと刻まれている。


「さぁ始まりました母さんの3分クッキング。今週で何とこの番組、30周年を迎えます」


 キノコヘッドは眼鏡とスーツを着込み、司会のように振る舞った。隣にいる蚊の母親は平野なんちゃらのような恰好をしている。


「なんか始まっているんですけど」

「お母様、今日の料理はなんでしょうか」

「赤の他人なので、金輪際お母様と言わないでください」

「失礼しました。冗談です」

「はい。あなたの汚い唾が台所に巻き散ったので気分が下がりました。2度と、しないでくださいね」

「......」


 番組は気まずい空気が流れ、看板はガタっと僅かに傾いた。


「仲わっる! よく30年続いたな!」


 蚊の母親はまな板の上にキノコヘッドの腕を置く。


「はい。今日の料理は旬の息子の仇を使った炒め物です」


 キノコヘッドは目を輝かせる。


「うわぁ。今の時期にピッタリですね」

「どの時期!?」


 蚊の母親はニッコリと笑顔になり、フライパンを用意した。


「調理はとっても簡単です。こうやって、息子の恨みを込めてぇ!」


 フライパンに腕をぶち込むと、蚊の母親はひたすら殴打した。


「しねしねしねしねしねしね! 罵倒で味付けしろゴラァ!!!」

「おぉ、いい香り」


 一段落終えると、フライパンの上にあった腕はミンチ状態になっている。そして、蚊の母親は台所の引き出しから腕を取り出した。


「はい。そしてこちらが予め用意していたモノです」

「おかしいだろ!!! てか予めってそれ絶対違う奴の腕じゃん!」


 キノコヘッドはフォークで料理の一部を刺し、口へと運んだ。


「どうでしょうか」

「ゲロマズです。マズすぎてほら......」


 キノコヘッドの腕は、ニョキニョキっと切断面から手が再生する。


「腕が元通り!」

「なんでぇ!!!」


 蚊の母親は突如、胡桃を片手で粉砕した。


「おい、俺の料理にケチつけたか今?」

「だまらっしゃーい!」


 しかし数秒後、キノコヘッドの頭突きが蚊の母親に炸裂する。彼女は白目を剥いてノックアウトした。そして空間が消え、元の城内へと戻る。


「ふぅ。なんだかよくわからねぇが、腕が治ってよかったぜ!」

「こっちのセリフです。なんなんですかあなたは!」

「俺? 俺の名前はチンコだけど」


 エリーナは緩み切った力を元に戻し、剣を構えた。


「ふざけるな!」


 キノコヘッドは突然、しおらしく涙を流し始める。


「酷い! お袋がくれた大切な名前なのに!」


 キノコヘッドは脳内で出産した時のことを想起した。彼が産後間もなくの頃で、母親に抱っこされている時だ。母親は慈しむような表情で、ゆっくりと話しかける。


「よちよち。お前はチンコみたいだから今日からチンコだよ」


 そんな彼の回想シーンが挟まり、エリーナは気まずそうに頬を指でかいた。


「ご、ごめんなさい。人の名前をバカにするのは、敵とはいえ騎士として、いや人間としてしてはなりませんでした。この通りです」


 彼女が頭を下げると同時、キノコヘッドはパンツ一丁でカメラを構える。カメラの端にはRECという赤い文字が表示されている。そして彼女は腰を下ろし、ソファに座っていた。


「お待たせしました。お待たせしすぎたかもしれません」

「えっ?」

「いや、わかればいいんだ。仕切り直してくれ」


 エリーナは顔を赤くし、太ももを内側に寄せてもじもじとしている。


「ち、ち、ちん......やっぱり無理です! 下の名はないのですか?」

「ちょっと、まだ俺たちそういう関係じゃ」


 彼女は諦めたようにため息をつく。


「もうわかりましたよ。いいますよ! いえばいいのでしょ?」

「まぁチンコってのは冗談でな、俺の名は......」

「チンコ! チンコチンコチンコチンコ!」 ハァハァ......いいましたよ!」


 エリーナは汗を拭き、何故かドヤ顔をする。


「......えぇ」

「何ですかその反応!」


 エリーナがキノコヘッドの引いた姿に不満を露わにすると、倒れていたアダムスが壁を支えに立ち上がる。


「エリーナ、そいつの名はキノコヘッドじゃ!」

「えぇ!? でもチンコって」

「こやつの罠じゃ」


 彼女は顔をさらに真っ赤にし、居合の構えをとる。


「騙したわねこの卑怯者!」

「待つんじゃ! こやつを殺してはならん!」

「何でですか!」

「こやつの戦いぶりを見てきたが、スキル『ギャグ補正』は、魔王を倒せるやもしれん」

「そんな訳......!?」


 エリーナの身に付けていた鎧は、ビキっと亀裂が入る。その亀裂の広がりは凄まじく、一瞬にして彼女の衣服を破壊した。彼女のしなやかでいて、健康的な裸体が露出する。


「うひょう!」


 キノコヘッドが奇声を発すると、エリーナはすぐに胸や太ももの間を手で隠した。


「ありえない。魔王の魔法を防いだといわれる国宝の鎧なのに」

「これでわかったじゃろ。訳は知らぬが、奴は殺してもすぐ蘇生し、周囲の相手へ未知の攻撃を繰り出しているようなのじゃ」

「なぁもう仲良くやろうぜ。俺もさ、チンコっていわせて悪くなったよ」


 キノコヘッドは2人に近づいていく最中、足元にあった小石に躓いて気絶した。その光景に、アダムスとエリーナは絶句する。

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