75話 東のリーオ
大股でもって歩いている。一歩一歩の歩幅が体躯のおかげでデカいのが、後ろからついているだけでよくわかる。そんなことは別にないんだけれど、こうなんか……一歩踏み出すたびにズシンという足音が聞こえてくるんじゃないかという気がしてくる。そんなことないけど。
冒険者が街からここまで狩りに来た……ということを考えるとそこまで街から離れていないのではないかと思っていたのだけれど、彼の歩幅を考えると結構な距離だったりするのかな。子供のころと大人になるのとで距離感が変わるというしここまで体格が違うとそういう乖離も出てきそう。
「そういえば、なんであんな森にいたんだ? 冒険者だというのは見て取れるが……」
「リーオの街に行きたいから」
「リーオの? 位置からするとエストからの冒険者のようだが……」
そんなに驚くものなのかな、と思ったがオージャやレンが言うにはエストという町があまりにも広大過ぎてそこから出る必要がないほどなんだとか。よっぽど特定の目的でもない限りは、と。
「ふぅむ……リーオの西側であれば観光として栄えているからまだ理由はわかるがな……東側ではどうにも」
「西と東で違うの?」
レンが言う。エストとリーオ、位置取り的には隣の街っぽいしさっきのエストから人は出てこない……みたいな話は知っていたけれどリーオが東西で分かれているらしい話は詳しくないのか?
「なんだ知らんのか?」
オージャ曰くひとまとめにリーオの街として扱われてこそいるが東側と西側で大分街の雰囲気が違うらしい。東側には食文化が、西側には観光の文化が強いとか何とか。
「広さだけならエストにもそこまで負けんからな、それでいうと反対側のリーオの街に行ったことがない人間も別段珍しくないぞ」
マジか……と思うけれども、同時に自分にしたってアモールの街の端から端まで探索しているわけじゃないし、エストの街だって同様だ。……まぁエストに関してはレンに出会って割とすぐに再出発したからという経緯もあるけれど。
「それで結局、どうしてまたリーオなんかに?」
「あ、えーっと……異世界人に会いに」
「異世界人……? フム、いや言葉としては知ってるがな、リーオの街でそんな話があったろうか、とな。東西どちらも訪れた事はあるが、どうだったかな……」
頻繁に行き来しているわけではないらしいが、それでも彼自身はその異世界人の噂というものを聞いたことがないという。噂は所詮噂というか、眉唾に過ぎないものではあるが……。
「ま、探してみて無駄足ならそれはそれで、転移で戻れるし」
後ろからささやくようにレンが言ってきた。一度行ったことのある場所にのみ、という制約こそあるが逆に言えばそれだけだとしたら相当チートだな……。確かに無駄足にはなるがその労力も必要最低限に抑えられるわけで。
「収穫がなかったとしてもリーオの街自体はいいところだからな! 是非とも満喫していってくれ!」
ばしばし、と背中をたたかれた。すっごい、とんでもない痛みが背中に走る……がそれを口にするのはさすがによくないだろうとして堪える。
■
雑談しながら森の中を進んでいく。道中で時たまモンスターと遭遇したこともあったけれど、レンにフィリアにそして今はオージャまでいる……となるともう怖いものなしだな。ほとんど自分が出る間もなく一瞬で片付いてしまう。ならばせめて気配察知を生かしたレーダー役になれたら……と思ってもその特殊技能はレンだって持っているものであるし、そもそも活用できるほど頻繁にモンスターに会うわけでもない。何ならアラートなくとも特に恐れる要素がないときた。
……俺存在価値ないのでは?
いや深く考えるのはやめておこう。
少しばかり今の自分の立ち位置に自分勝手な不安を覚えながらも彼らの後ろをついていき、やがてリーオの街と思われるソレが見えてくる。関所を通って、街に入るソレが。時刻としてはモンスターとの遭遇率の所為だろうか、それともやはりオージャの一歩というものが大きく、今回は逆に俺たちの歩幅にあわせてもらったからだろうか、結局夕方ごろになっていた。
エストの街を出たのが大体体感で正午過ぎくらいではあったから……なんだかんだで4時間、5時間か……そもそも気にしたこともなかったが、実はこの世界の一日って短かったりしないのだろうか。それこそ一日十八時間とか。それならすぐ夕方になるのも納得がいくけど……いやそうだとしたら多分俺の体内時計がとんでもないことになっているか……。
兎にも角にも関所でもって簡単な検査というか手続きみたいなものを終えて、リーオの街に入ることができた。そういえば……転移の魔法で当たり前のようにエストから出てきてしまったけど、これ大丈夫なのか?戻るときにしたって。あとで覚えてたらレンに確認してみるか。
「さて、関所も通れたことだし、もうオレの案内はいらんな?」
「はい、おかげ様で……」
結局時間帯としては夕方になってしまっているけれども、しかし本当に彼がたまたまあの付近で狩りをしていなかったら夕方どころの騒ぎではなかっただろうな。それこそずーっと森をさまよって、どっちが正しい道かも不明なままだった可能性がある。
もうオージャには頭が上がらないな……。
そんなわけでオージャと別れる……その間際、こちらをみて。
「応、そうだそうだ。ウチは家が料理屋でな、良ければ足を運んでくれ!」
と、最後に宣伝を挟んできた。その図体で料理屋なのか実家……。いや彼自身はそれこそ食材調達とかに従事しているのかな。
「あ、はい! 機会あれば……」
まぁフィリアもいるからあまり訪れる機会があるかどうかはわからないけれど、覚えておこう。最後に手を振ってオージャの巨体といえども小さくなって、そして見えなくなっていく。
「さて……とりあえずはもういい時間ですし宿、探しましょうか」
「そうだね」
「うん」
そんな訳で東のリーオの街に来た。
「あっ」
「どうしました、ミヤトさん?」
「……店の場所、聞いてない……」
「そういえば、そうだね」




