73話 転移と迷子とデカい声
「転移」
「えっ」
当たり前のように使われた。
旅支度を終えて、レンと集合した。とりあえず宿に戻った後、フィリアの情報をもとに旅路のルートを選定しつつ、近くの街がどうなっているかをチェックしていた。レンが言うには直接その異世界人とやらがいる街に転移できないということらしいから、ここからは歩きになるということだ。多少は森の中とかショートカットできるかもしれないけど……くらいに思って再集合した。
そして集合してすぐ、俺たち二人に触れたかと思えば速攻で転移の魔法を使ったのだ。
「ええと……?」
転移先はよくわからない森の中。エストの街からどの程度離れたのか、どのあたりに位置するのか、何もわかりそうにない森の中である。
「ここ、どこです?」
「森」
フィリアの問いにレンが当たり前といわんばかりの表情で、しかもたった一言で返される。
森であることは誰の目からみても明らかだろうが……と激しめにツッコミを入れたくなったけれど今はそんなことに時間を割く時ではないな。とりあえずここがどこかをちゃんと理解しないといけない、方角的な地理的な意味で。レンはデキる側の人間だと思っていたのだけれども、もしかしてこの転移も何も考えずに行った可能性が出てくる。
「ええと……フィリア、地図あるよね」
「え、はい、ここに」
地図を広げてもらって3人で確認する。それでもってレンに尋ねて今どのあたりにいるのかの目星を確認しようと試みる。
「……さぁ? とりあえずエストの街からリーオの方向にむかって、行ける範囲というか、行ったことあるところまで転移した感じ」
「それがどの辺りなのかを……」
「……さぁ? でもそこまでリーオから遠くはないと思う」
なんでも一度遠くまで行こうとして歩いた結果、がここらしい。つまり多少雑ではあるが総当たりというかをすれば或いは、ということか。いやしかしそれで一層迷子になったら元も子も無いし……。なんて考えていたところに。
「努ぉぉぉ、りゃっ!!!」
突然、どこか遠くから謎に声が聞こえてきた。叫び声のようなものが。思わず3人でお互いの顔を見合う。響いたその声は男のものだろう。野太くて力強いソレはその叫び声を聞いただけで耳に悪影響を齎しそうな勢いを感じる。ちょっと耳が痛いぞ。
「……な、何今の」
「わ、私にもさっぱり……」
当然フィリアにもわかるはずがない。しかしモンスターの声というのはやけに人の声であるし近くにいる冒険者ということか?
だとしたらなんでこんな森の中で大声を出すことになるんだ……??
もしくは……。
「意外と街まで近いのか?」
「そうかもしれない。声の方向的には……」
出所を探そうとレンが動き出したところで、何かふと感じた。気配のようなものを。
「あの……お二人ともどうされました?」
フィリアがそんなことを言う。どうやらレンも気づいたらしい。そうか気配察知って異世界人ならみんなついているんだっけか。
「二人とも、下がって」
先ほどの気配を感じ取っていたレンが言ってきた。次の瞬間、自分からみて左斜め方向の木々が大きく揺れる。先程聞こえた声もこっちの方からだったような。声の主の登場か?と思って少しだけ身構えていると、出てきたのは……。
「うわっ!?」
茶色い体の巨体。それが襲ってきたというか投げ飛ばされたような感じでこちらに突っ込んでくる。がしかし俺たち二人の前にたっていたのは絶対防御のレンである。なぜか飛んできた巨大な塊も彼女の呪いじみた力によって、不可思議な反射を伴い、目の前の地面へと落とされる。塊はズゥゥゥン、と大きな音を立てたまま動かない。
「ヒュージベアだね……」
「ヒュージ……ベアだから、巨大熊ってことか……」
冷静にそのモンスターが何かを伝えてくれるレンであった。そこには果たして俺の体の何倍あろうかという熊が完全に気を失った様子でいる。
「!」
途端、その体に変化が起こりドロップアイテムになった。つまり倒されたということだ。投げ飛ばされた先ほどの光景を考えればソコまで不思議ではないのだが。
「誰がコレを……」
「サイズは特大でも討伐例はちゃんとあるモンスターですから、冒険者の誰かなのでは?」
そりゃ普通に考えたらそうだけど、あの巨大なモンスターを投げ飛ばすって一体……?
そんな事を考えていると再び草木がガサガサと揺れだす。今度はなんのモンスターかと身構えていたら、人である。
……人だよな?
「おお、そこに落ちたか! すまんな、怪我はないか?」
ずしん、ずしんという音が響いてくるような巨体。先程のくまにも負けず劣らず……というのは流石に誇張がすぎるがそれでも人の規格でみたら巨体というには十二分な背丈に筋肉。ゲームとかでしか見た記憶がないぞこんな巨体。
わかりやすく偏見的に言えばパワータイプキャラのお手本みたいな体躯をしていた。
「トロール……?」




