66話 バグマインド
彼女の言う、心の問題っていうのは何だろう。
俺を羨ましいと宣った。人を大切に思えるのを羨ましいといった。
確かに人間関係だけであれば恵まれている……と言えるのかな。それこそフィリアだけで十二分に恵まれている。性別がバグってることには目をつむるとして、デメリットではないし。
沈黙の中、延々と雨音だけが響いている。男女二人の雨宿りと書けば何かドラマチックなワンシーンと言えるのかも知れないけれど、生憎として場所が土の中である。蝉の幼虫か何かか。
魔法で作った空間ではあるからそこまで不便さとか不快さみたいなものはないけれど。しかしまぁそれでもこの沈黙に雨による湿気みたいなものが混ざってくると話はまた変わるが。
あれから彼女は口を開かない。ずっと遠く空を見つめているかのようである。尤も、狭いほぼ密閉された空間だから空も何も無いけど。
しかし腐っても異世界人というバリューはあるし、ダメージを受けない……だったか、そんなチートじみた能力まで持っているのだから彼女と関わろうとする人間ならもう少ししても良いと思うんだけどな。人とコミュニケーションとるときの距離感だけは少し近すぎておかしいような気はするけれどそれが大きな難点になるとも思えないし、寧ろ彼女のような人であればウェルカムとする人だっているだろうに。
それこそ一緒にパーティくんだりすれば……。
……あれ、そういえばギルドの受付で彼女のことを聞いた時に何か言われたような……ええと、そうだ。パーティを組まないだの、なんだの。
「あの……ふと思い出したんですけど」
彼女の逆鱗に触れてしまうやもしれないけれど。
口を開いた俺の方に彼女は視線をくれる。話位は聞いてくれそうだ……と思ったところ一気にバッとこちらへ振り向いては物理的な距離を詰めてくる。この人なんで毎回こんなに顔近いんだ。
「いや……顔近いス。んで、ええと、ギルドの受付の人が言ってたこと思い出して……」
「?」
「ほら、レンさんパーティ組まないだのなんだのって言うのをギルドの人から言われたんです。アレが関係してるのかな……と」
「……そうなの?」
「えっ」
本人はキョトンとしている。もしかしてギルドの人が言っていた話を本人自身は把握していないのか。であればただ印象でそう思われてるとかある?
情報としてはあまり多くを提供することは出来ないけれど、ギルドでのやりとりを軽く思い出しつつ、窓口で言われたことを彼女に共有する。
「心当たりとか……」
「……無くは……ない、かな」
おや? あまり期待はせずに聞いてみたところ、それらしい反応が返ってくる。
「あるんですね」
「まぁ……ちょっとだけ、色々とね」
そういって彼女は膝を抱えて蹲りだした。肯定こそしたし、含みのあるような言葉を言いはしたけれど、それ以上は語りそうにはない。再び静かになってしまう。しかもそこそこ宜しくない会話内容で途切れて。
……もう少し深堀しても問題ないだろうか……下手にコミュニケーションの取捨選択を間違えるといろんなベクトルで面倒なことになりかねない。いや、そもそも俺自身の目的は達成したわけであるから、詮索とかお節介とか変なことはせずこのまま時間経過を待ってもいいんだろうけど……。
「それ教えてもらえたり……とか」
「……」
無視された。意図的にこちらを向いていないというか、なんだか話は済んだからと興味を持たれていないような感じがする。まるで俺をいないものと扱っているかのような空気を感じさせて、何やら虚空を見つめている。
……まぁ虚空というほど広くないから見ているのは土かもしれない。
これ以上は詮索するのはよした方が良いだろうな。完全に心をシャットアウトされている感じだし。
となるとまぁ気まずくなってしまう訳だけど。ちらっとレンの方を確認する。どうして人間を一人隣に置いた状態でこんな呆けたようにまっすぐ目の前を只管見ることが出来るんだろうか。
ちょっとばかりちょっかいを出したくなったりするけれど、止めておこう。流石にソレをするには関係値としてまだまだ稀薄すぎる。
(……今、何時くらいだろう……)
昼か夜かもわからない。
次第に、今が何時だなんだとかレンのことだとかを考えることすら面倒になっていく。
「……」
何も話もないと、段々意識が……。
■
「……んっ……?」
あれ、若干目というか視界がボヤッとしている気がする……。そうかコレ、夢すら見ることなく暫くの間寝ていたということか……。
「……さむっ……」
ずっとこんな空間で寝ていた所為だろうか、それとも単純に空の様子こそ見えないが夜になってしまったという事か、体温が低いような感じがする。ちょっと何か暖を取る方法などないだろうか、と思ってレンの方を確認した。
「あの……」
未だに虚空を見つめているのかと思って声を掛けるがしかしどうだろう。彼女も同じようにすっかり寝ていたようで目を閉じて小さく寝息を立てている。
先に寝たのは恐らくこちらであるとはいえ隣に男。しかも今日であったばかりという存在というに無防備ではないだろうか。まぁだからといって今この時点で俺が何かするのかと言われたら違うけど。そんな勇気は一ミリもないし。
「火……火……フォクス!」
何時だったか、フィリアに教えてもらった火の基礎魔法である。
俺の練度と魔力だと小さな火をおこすのでやっとだけれど、暖炉代わりにはなるかな。
「……酸素大丈夫かな」
いや暫くここに閉じこもって大丈夫だったんだし、土壁で閉じられているように見えて僅かに隙間とかあるだろ……多分。
ちょっと息苦しさを感じたらすぐさま魔法をやめれば大丈夫……なはず。というか多少暖を取るだけならそんな長時間行使するつもりもないし。
「教わっておいてよかったな……」
思ったより外で無防備、何もはおらないとなるとそこそこ冷えるな。
それこそ寝袋とか……あ。
寝る用意自体はアイテムストレージの中にあるんだった。
ちょっとばかり手狭な空間に広げるのもアレだけれど、今の状況よりマシだろう。
すぐさま手で維持していた火魔法を消してストレージから取り出す。
「よし……」
自分の用意は問題ないけれど……。
ちらっとレンの様子を確認した。当然といえば当然。俺の多少の動きなどで起きるはずもなくぐっすりである。目覚める気配すらない。俺は大丈夫だけれど、このまま放置して問題ないんだろうか……。それこそここから一層冷えたりでもして風邪でもひかれたら困る。何か他に使えそうなもの持ってたかな。
それこそ上に一枚羽織るようなものとか……。流石に今は無いか。
(……頑張って風邪ひかないように耐えてくれ……)
そう念じるだけにした。今俺が羽織ってるものを渡すという発想はない。
知らないうちにUI更新入ってて困惑しています




