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65話 不器用なブリキ

「キミ、あの子のこと好きなの?」

「へっ!?」

 レンからの問いは単純であるが故に心を揺さぶってくる。

「ずっと気にかけてるみたいだし」

 大前提として、あいつは男だが。

「男の娘でしょ? キミと一緒に鑑識で見たから分かるよ」

 既に周知済のようである。恐らく俺を異世界人だと知ったタイミング、あの時に鑑識のスキルを使っていたからそこだろうか。……そこで知ったにしては驚いていないというか、眉一つ動かさなかったような。

 まさかこの人も……という考えがよぎったけれど、鑑識を使うまでもなくそもそも胸がちゃんとあるし、それに同じ男の娘にこの世界で出会えたらそれこそ驚くはずだろう。


 フィリアを知っていた……とかならあの子なんて表現にはならないだろうしつくづく彼女の感情がわからない。

「でも別に好き嫌いには性別は関係ないよ」

「うっ……」

 実際そこは否定できない。というか好き嫌いでいってしまえばフィリアは好きの方になる。仲の良さという意味で。

 そして恋愛的な面でも、多分。


 結局それがいびつな関係の要因なわけで、フィリアにしても気にしていることである。あくる日その疑問に結論をつけようとしたけれど、たかだか一夜で片が付くはずもなくズルズルと引き摺って、引き伸ばして今に至る。

「少なくとも……今すぐ、違うって否定できないことは事実……です」

「じゃあ肯定は?」

「それも……まだ難しい……かと」

「ふーん、そんなもんか」

 その質問の意図は分からない。俺の反応でも見て楽しみたいのかも知れないけれど、表情がさして変わらないため読み取ることが難しいのだ。それでいて言葉にしたって平坦というか、自分から聞いておいて興味がないとも思えるトーンと返答である。本当に何なんだろうこの人……。


 雨はまだ止みそうにない。周囲全て土壁であるけれど、泥にならぬようにレンの方で軽く魔法をかけているようである。とは言え音がシャットアウトできるという物ではないため只管この土壁の空間に雨音が響き続けている。

 会話していればそれも気にならなくなるけれど、今みたくこうしてお互い無言になってしまえば。


「……少しうらやましい」

「……?」

 再びレンが口を開いた。今確かに羨ましいといったか?

 そんな俺を羨むような事あっただろうか。

 まぁ人間関係というかファーストコンタクトみたいなところでいくと俺の方が恵まれてるか?

「そんな……なんでまた」

「キミはちゃんと感情を持ってるから。そういうの、どっか落としたみたいだし」

 何だその羨み方。オズの魔法使いか何かか。いや落としたのであればまた別か?

 ……ある意味魔法は使える世界だけれど、何にせよ彼女はブリキの心とは何も関係がない。油の一滴も不要だ。


「感情って……レンさんにだってあるでしょ」

 一応。

「どうだろうね……まぁ確かにキミのことを羨ましい、って思うのは感情なのかな。でもそれとはちょっと違って、何ていうか、人を大切だって思える感情が羨ましい」

「……人を大切だと思う感情……ですか」

 所謂恋愛的な感情とか友情的な感情とかだろう。それを彼女は欲しがっているという事。いやまぁ欲しがっているという点でいえばブリキの木こりと大差ないか。


「少なくとも、今は一人ぼっちだから」

「それなら、自分がいるじゃないですか」

「物理的な今現在の話じゃないよ。それこそ、心の問題」

「…………心?」

 首を傾げたかのような反応をする俺の言葉に何か返すでもなく、彼女は黙りこくってしまった。再び沈黙が訪れる。

 どいう言うことだろう。

 やはり、人に恵まれなかったとかそのテの話ということか?まぁ今の彼女は明らかにこの世界で見ても元の世界で見ても何処かこう、ズレているという衣装を受けるから分からないでもないけれど、最初からこんな感じには見えないんだよな。

 さっきの言葉から考えた限りでも、最初は普通に感情を持っていたっぽいし。それがこの世界にきて壊れてしまったようだけれど。しかしなんでまた?

 単純に精神年齢的に異世界転移というものに心が耐えきれなかったということだろうか。うーん。

 少しでも力になれそうであれば、どうにかしてあげたいという勝手な同情心とかおせっかいの気持ちは湧いてくる。けれども今の自分じゃどうしようもない気がする。

 しかしまぁ何と気まずい空気か。


 彼女の言う、心の問題っていうのは何だろう。一人ぼっちというのは。

普通にやる気なくしたり旅行したりしてました。

書き溜めも少ないですが頑張ります

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