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63話 熱の無い願望

「こ……こは? さ、さっきまでエストに……」

 一瞬だけ視界が暗くなった。いやホワイトアウトしてたのかも。いずれにせよそんな感覚。右も左もわからぬ何も見えぬ状態が一刹那。


 しかしその視界が鮮明になると……見知らぬ場所。何だまた異世界転生かなにかしたのか?

 いやそれにしてはあの時みたいな感覚とは違う。

 というか眼の前にレンもいる。……でもフィリアがいない。


「ここはエスト近くの平原。都市街でも少し道外れたらこんなもんだよ」

 俺の疑問に彼女は答える。今の状況を現実的に飲み込むのであれば、何かしらの力によってココまで転移、ワープしてきた……ということになる。

 魔法の力とかなんだろうけど、フィリアの魔法の中で転移は見た記憶がない。あればとっくに使ってるはずだし……いやでも。


「なんでここに……?」

「どうやって、って意味なら魔法だよ。転移の魔法。どうして、って意味ならキミと……同じ異世界人と二人で話したいから、かな」

 同じ異世界人。だからフィリアを省いて電位させたということか……というかこんな便利な魔法がありながらフィリアはなんで使ってないんだろう。シンプルにチェーニが使えた治癒魔法みたく覚えていないってことなのかな。


「二人で、ってなんでわざわざフィリアだけ置いてかなくてもいいじゃないですか……」

「キミ、言ったよね。この世界から元の世界に戻れるのか知りたい……って」

「え、ああ、まぁ……はい」

「少なくとも戻れるかどうかの答えは、自分が此処にいる……それが答え」

 つまりは、戻る手立ては見つかっていない……ということか。

 わざとらしくわざわざ転移の魔法を使ったのもその為だろう。魔法の力をもってしても、叶わなかった、と。


「……まだ見つかってないんですね」

「少なくとも見つけることは諦めたよ。このワープの魔法は、行ったことのある場所を想像すればワープする」

 想像するだけでこの平原に来た、ということか。であれば元の世界だって想像すればいけて然るべき、だ。魔法のルールの中にそれが組み込まれていれば、という前提付きではあるが。

「元の家なり学校なりを想像すればいいと思ったけど……でも、いくらやってもためだったから」

「……」

 自分の発言を悔いた。あまりにも雑な言葉を選びすぎた、と。そりゃあそうだろ、それなりに満足してる俺ですらこの世界ではなく元の世界に帰れるものなら帰りたいと僅かばかりでも願うんだ。

 彼女だってそこから逸するとは思えない。それを試していないワケがない。


「そんなキミが気にすることじゃない。誰だって帰りたいとは思うから」

「いや、でも……」

「それに、もう一つ手立ては思いついてる」

「え……?」

 そう言うと、彼女は俺から距離を取った。心理的な話ではなくて物理的に。急に何だというのだろう。


 すると彼女は右の手のひらを空に向かって掲げる。

「……クラドス」

 そういって彼女の手のひらからは魔力で出来た槍が一本。呪文と俺の認識とか間違っていなければ、ただただやりで攻撃する魔法でしか無いと思うんだけれど、一体何をすると言うんだ……?

 まさか魔法一つで異世界空間に繋がるなんてバグ技みたいなことはないだろうし……。


 遠くから見ていた所、彼女はその槍を操り槍の先端を下へ向ける。そのまま下ろせば自分の身体を貫かんという感じだけど……。

 いや、まさかね。

「これ」

 そう言うと彼女は槍を自らの体へと落とす。


「危なっ」

 明らかにやろうとしていることは自害の類である。いや眼の前でそんな真似は、と走り出し彼女を槍から逃れさせんと横へ押しやったけれど、逆に弾き返された。

「!?」

「大丈夫だよ」

 何かされたようには見えなかったが、たしかに俺は弾かれた衝撃でもって地面にへたり込んでいる。

 彼女の言いたいことはもしかして、死ねば戻れるということなのか……いやだからってこんな場面で……え?


 なんということだろうか。何事もなかったかのようにレンはその場から動いていない。

 では槍はどうなったか、というと不思議なことに何かに弾かれたかのような挙動でもって彼女のすぐ横の地面に刺さっている。


「よっ……と」

 その魔法の槍を消失させた。

 一体何が起こったと言うんだ……?

 詳しい全貌は見れていない。けど事実だけを纏めるのであれば、俺が彼女を押そうとした行為、槍で体を貫かせようとしたと思われる行為。そのどちらも起きていない。というか弾かれたかのようである。

 まるで見えない壁みたいなものに阻まれてるかのように。


「……スキルに絶対防御を持ってるの。何事からもダメージを受けない、まぁ呪いだね」

「……ダメージを受けない……」

 先程のことから考察する限りダメージという表現こそしているが傷となりうるもの全てを無効にするのだろう。つまりモンスターや魔法、武器での攻撃でなくとも人がぶつかってきた衝撃とかの類も無効にみえる。俺が弾かれたわけだし。


 チートではないか。明らかに。彼女が主人公の異世界転生小説が書かれているのではなかろうかと思えてくる。そんな訳はないけども。

 容姿も才覚もそしてそんなスキルまで恵まれて見える……というのに彼女はそれをその防御を呪いと言っている。

 明らかにポジティブな言い回しではないだろうから、意味合いが気になりはするが下手に触れないほうが良いのも事実だろう。


「予測だけど多分死んだらこの世界以外にも飛ばされると思ってる……まぁこの防御のせいで簡単に死ね無さそうだけど」

 さも当たり前と言わんばかり。

 しかし話を聞いてみると勝手な妄想という訳でもないらしい。

 曰く、レン自身は異世界”転移”であるけれど、それとは別に”転生”の例もあるとか。そう言えばネット小説だとどっちの単語も見るよな。


 この言葉の差はレンが言うには“死んで尚記憶を持ってこちらの世界に生まれ変わるか”、それとも“元の世界の体と記憶のままこちらに文字通り転移するか”……ということらしい。あれ、じゃあ俺って実は死んでなかったのか? 車に弾かれたと思ってたけど……いやいまは良いか。

 兎にも角にも。転生の例があるのだから、この世界で死ねば万に一つの確率としても元の世界に戻れるかもしれない……というのが彼女の見立てらしい。


「……でもそれだと体は変わってしまうのでは」

「別にいいよ。記憶さえあれば、何としてもまたあの家訪ねるだけだから」

 その目に濁りは一切なく、本気であることがうかがえる。


「そんな悲しいこと……」

「既に向こうの世界にいないんだから、悲しいなんて今更でしょ」

「っ…………」

 まぁ少なくとも彼女を知る者からしたら行方不明、ということになるんだよな……それが不幸なことではないとはとても言いきれない。……俺も今頃、そうなってるのかな……。


 ポタ。

 ポタポタ。

「……雨だね」

 彼女の心の移り変わりを表すかのように天気は悪化し雨となる。流石に雨の中ずっと外は御免被る。

「は、はやく街に戻りましょう! 転移の魔法で」

 そうして彼女に唆すのだけれども首を横に振って返された。


「あれ24時間経たないとまた使えないんだよね」

「えぇ……」


絵描いてたら普通に投稿出来て無かったです。

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