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5話 ノット少女バット男の娘

 目の前にいる美少女は美少女ではなかった。

 と状況を端的に表すとこうなる。

 しかしまぁこの一行ですべてを理解できる程物分かりの良い人間ではない。


 俺がこの世界に落ちてきて、最初に出会った冒険者フィリア。あまりのかわいらしさと俺に対する態度から異世界にきて遅めの青い春でも来たかと思ったところに舞い込んできた新しい情報。

 彼女は彼”女”ではなかった。

「……?」


「うう……」

 そうして一つ秘密が暴かれたフィリアはたちまちのうちにベッドの毛布にくるまり、顔を隠しだす。

 しかしこちらはそんな彼女の機微には触れない。それが出来る程の余裕がない。

 毛布の隙間から僅かに覗かす顔を見ては鑑識結果の画面とを交互に見返す。


「……!?!? ……?」

 フィリア、性別男。男性。即ち俺と同じ性別である。しかしこうして顔を見せるソレは男にはとても見えない。いやしかし概念は知っている。


「男の娘って……こと?」


 男の娘。詳しいことは俺も分からないが、所謂”女の子みたいな男”に対して使われている言葉。

 フィリアが男である――とするなら、彼女いや彼は紛れもなく男の娘というやつなのだろう。

 一瞬この世界はコレが普通なのかもしれない……と思ったがフィリアの反応を見る限りイレギュラーなのだろう。恒常的ではなくて、一般的ではなくて、普遍的ではなくて、フィリアのような存在は普通じゃないのだろう。

 今まで街で見てきた人間に鑑識を使うべきかと一瞬考えたりもしたがこの反応一つである程度は察せる。じゃなければここまで変にへこたれる必要は無いだろうし。


「……殺してください」

 か細い声で力なくフィリアは呟いた。生まれたての小鹿かの如くその体は震えている。

「い……いやたかが性別一つで大袈裟な……」

 そりゃあ驚きはした。今もまだ思考が少しおかしくなっている。まだ正常な処理が出来ておらずそこかしこでエラーを吐いている気がする。


「私は嘘吐きです……」

「いやだから性別くらい……」

 実際は性別くらいで片付けていいのか些か疑問ではあるが、それで殺してくれはいくらなんでもオーバーというべきだろう。


 しかしフィリアは蹲りながらも首を横に振る。罪の否定か罰の否定か――。

「ミヤトさんと一緒になりたくて、わざわざ宿を一つにしました」

「えっ……? だってお金が無いからって……」

「別々の部屋とるくらいならどうってことないですよ。この宿のグレードでも」

 つまり金は持っていた、ということを言いたいらしい。けれども結局一人で二人分の宿代を払ってもらうことになる訳だし、そこであれやこれやと言われることではないはずだ。

 少なくとも張本人たる俺からすれば咎める部分とすら思えていない。

 けれどもフィリア本人からしたらそんな簡単な話じゃないんだろう。


「ミヤトさんは……私をまるで女の子のように扱ってくれました」

「いやだって……それは知らなかったし」

 というか初見で誰が気づけるというのか。

「でも私は……それをいいことに……ミヤトさんに取り入ろうとしました……」

 ゆっくりとフィリアは語る。


 こうして自分に良くしてくれたことは勿論、そもそもこうして一つの宿になっているのもフィリアが意図的に組んだもの……だとか。

「自慢じゃないですけど……私ここじゃ結構有名なんですよ」

 あの魔法の凄さと……関所にいた人の一件。それからギルドで感じた謎の視線か。

 ギルドで感じたものは自分が異世界人だから、この世界にはあまり似つかわしくない格好だからだと思っていたがもしかしてアレもフィリアによるものだったのか?

「この格好のせいで……こんな私は避けられ続けてきたんです」

 異端が故に避けられた。普通じゃないから疎まれた。やはりこの世界でもよくある話か。

「でもやめたい、ってならなくて……だから、だからみんなに認めてもらいたくて冒険者として頑張ってきました」

 それが逆効果だったという。一人で生きていけるだけの力は手に入った。けれども人は認めるどころかより一層近寄りがたい存在になっていたという。

 ――だから昨日も一人で森にいた……のか?


「少なくとも俺の世界じゃ、フィリアみたいな子珍しくはあっても疎まれる程じゃない……と思う」


「じゃあ、男だと分かった今、その感情は大きく変わったというんですか?」

 ずいと顔を毛布から覗かせる。男だと分かった今、彼女に対して抱く感情に下心はあるのか――緊張はあるのか――と聞かれると。

 少なくともこの顔を直視できないのは変わらなくて、思わず目をそらしてしまう。


「それだけでも、その反応だけでも私は嬉しいんです。この街じゃ私のことを知る人ばかりです……」

 彼女は、フィリアは続ける。

「でも私はこのままでありたい。これが私らしいと、私が好きだと思ったから……。こんな私でも今まで通り接してくれ……ますか?」

 目には僅かながら涙が浮かんでいる。

 それに対してとった行動は、彼女がそうして泣きそうになっているからではない。彼女の言葉に思うところがあったからではない。女の子だと勘違いしてしまったからではない。


 少なくとも今その現実を受け入れて尚残る己の本心が起こした行動に他ならない。

 混乱したままの頭と体で彼女の方へと近づいて、そのくるまる毛布を引っぺがす。


「とりあえず、部屋が一部屋に対してはもうどうこう言うつもりはないよ。結局フィリアに払ってもらってるわけだから、俺が何か言える立場じゃないし」

 恥ずかしいけれども今は彼女の顔をちゃんと見て言う。多分それが、その反応が彼女に一番意味があるだろうから。


「それと、俺は男に対して恋をしたことは無い。だからこの感情や感覚がなにか分からないけれど、でもフィリアの顔はちゃんと見れないし、フィリアに近づかれるとドキドキする。緊張する。今まで会ってきた女の子となんら変わりない反応しか出来ない」

 今なお、こうして気張っていないとろくに彼女の顔も見れないのだから。


「だから、上手くは言えないけれど……、まぁ少なくとも俺はフィリアのその恰好だって、行動だって俺は気にしないよ。今まで通り変わらない」

 勿論好きという感情から男だと聞いて揺らぎがないといったら噓になる。だからと言ってその感情を全てまるまる否定できるのかと言われたらそれもまた嘘になるのだ。

 言ってしまえばどっちつかずの結論だが、今自分で言える精いっぱいはこの言葉だと思ってる。


「フィリアにあとは委ねるけど、でもこれでフィリアとさようなら……っていうのは正直寂しい気はする……かな」

 ドストレートに好きだとか言えたら簡単なのかもしれないけれど、嘘をつくのはそれこそフィリアに失礼だし、そもそもそんな真似出来っこない。多分出来たら彼女の顔を見るのにこんなこっぱずかしいという感情も湧かないだろうし。


 さて――後は、フィリアの反応次第だ。


「ミヤトさんは優しいですね」

「……多分その辺の人と変わらないと思うよ」

「少なくとも私からしたら優しすぎる程です」

 多分それは人に強く当たれないだけだ。


「……でもやっぱりミヤトさんを騙したことは事実ですから」

「いやだから……いくらなんでも重く捉え過ぎじゃ……」

「いえ、それくらいの思いで良いんです。それくらいの覚悟がある方が丁度いい」

 そういうと彼女はスッとベッドから立ち上がり涙を拭う。泣きべその後が僅かながらに見えた。けれどもその表情はさきほどまでとは明らかに異なっていた。


「私は、決めました。ミヤトさんに好きになってもらえるよう、私は全力を尽くすことにします!!」


「……はい?」

 あれだけの本音を吐露したうえで辿り着いた言葉がこれらしい。ひとまず立ち直ったこと自体は喜ばしい限りだが……なにをどうしたらそんな考えに辿り着くのだといいたくなる。

 その上で俺自身のことをあきらめていないというのは嬉しい話であるけれどそれと同時にコメントしづらいのもまた事実。


「なので手始めに……」

 スッと右手をこちらに出す。


「改めて、私とパーティーを組んでもらえませんか?」


「……まぁそれくらいは……」

 言葉を返しながらその手を握り返した。

 手の感触は柔らかく、やはり先ほどの吐露や鑑識の結果がバグっているのではなかろうかという気もしてくるがそうじゃないんだろうな。


 それと同時に、彼女の顔が再び赤らむ。




 これがいびつな青い春。

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