62話 異世界人も割といるらしい
「それで、キミだよね? 用があるのって」
ずずい、とこちらに再び顔を近づけてくる。……この人、なんでこんなに顔近いんだ?
「え、ええと……はい」
あまりの顔の近さ故に感じるあれこれのせいで言葉がつまる。顔めっちゃ綺麗。無駄にいいにおいする。そしてやはりなんでこの人はこんなに顔を近づけてくるのか。それが全くわからない。
「……向こういこうか」
しばらく見つめられた後、彼女が指を指したのはギルド内にある空きテーブル。本当にこの人の会話ペースみたいなものが全くつかめなくて困る。
別に表情から心の動きが読める人間じゃあないけど、それにしたってこの人の感情は今ひとつわからない。
取り敢えず指で示されたそのテーブルへ、俺とフィリア、それから異世界人のレンと共に座った。
「立ち話もなんだったから……それでキミ、パーティ組みたいの?」
「えっと……実はそれはあくまで建前で、ただ単にレンさん……というか異世界人にあってみたいな、と」
「異世界人に?」
軽く首を傾げてつつもこちらを見つめる目はそのまま。特に目を逸らすということもなく。見られてるこっちが恥ずかしくなってくるような感覚すらある。
「ああ、キミ、異世界人なんだ」
「えっ!?」
「ほら、名前。鑑識で見たら一発」
隠したくて隠してきたつもりではない。だからといってひけらかしたり開示するほどのモノでもない。
だからいずれバレても……とは思っていたけど、このタイミングときたか!しかもこちらの許可も覚悟らしい何かもなく。
「異世界人?」
「レンさん以外にいたんだな……」
「いやでも他の街にもウワサが……」
忽ちあたりが少しざわついた。やはり異世界人という存在は珍しいもののよう……なのだが、しかしその少し、だけで終わってしまう。
あれ?
なんかこう、もっと大事になってお偉いさんに呼ばれて小一時間詰められて……みたいなものを想像していたんだけど。勿論何事もなく収束してくれるならそれに越したことはない。大事に巻き込まれるのは御免被るので。
けれどもしかしそれでも呆気なさ過ぎてちょっと悲しくなるというか、なんというか。
書物に情報がある程度にはなにか価値のある存在じゃないのかよ。
「ミヤトさんどうしました?」
しょげてるソレが顔に表れてたのか、フィリアに少しばかり心配される。
「ああ、いや……なんか異世界人ってそんな珍しいものじゃないのかなって不安みたいなものが……」
「それで言うなら充分珍しいと思いますけど……私はミヤトさんが初めてですし」
「異世界人は、感覚的には双子くらいのもの……。珍しいけど存在しないわけじゃないから」
レンがスッと会話に割り込む。双子……。なんとも釈然としない比喩ではあるけれど分かりやすさで言えば確かに、という感じがする。
現実に双子というものは存在する。けれども己がそれである人はおろか、双子という存在に現実で遭遇した人間はさほど多くはないだろう。少なくとも俺はクラスメイトだとかに双子いなかったし。
いや、本人たちが明かしてないだけかも知れないけど。
しかし双子レベルと言われると途端に現実に引き戻されるような感覚になる。それこそ各街に何人もいるんじゃないか、となるし。
「それで、話ってそれだけ?」
そうだ、そうだった。そもそもの目的としては異世界人に会うこと、その上で帰る手段だ何だを探しておくこと……としてこの旅を始めたはず。
「ええと、何ていうか異世界にきて分からないことだらけで……まずもって元の世界に帰れるのかなぁ……とか、その」
しどろもどろに言葉を紡ぐ。なんか改まって言うと変な緊張感が湧いてしまうな。
「そう……」
するとどうだろうか、ため息まじりかのようにそんな言葉を一つはいた。
「なら折角だし、少し外行こうか」
「え、へ?」
俺にそういったかと思えばくるりと向きを変え、今度はフィリアに。
「この子、しばらく借りるよ。明日にはギルドに戻るから」
「……はい?」
「転移」
「のわっ!?」




