58話 出立が遅れるフラグ
「おらよ、コイツだ」
翌日である。
そう言って渡されたのは鞘に入った剣。サイズ感的には俺が前に使っていた物と同じくらいか。しかしあれと比べて門外漢である俺でも多少の違いは見て取れる。そして持った時の感触も大分いい。
似たような形状、サイズ感であるけれど成程これがちゃんとした武器というやつなのだろうか……。
「軽いが固い素材だからな。その上グリップ部分は耐久いらねぇから手間ではあるがより軽い素材を組み合わせてる。テメェが持ってたヤツと比べ物にならねぇくらい耐久だけなら持つとは思うぜ。……まぁ無茶な使い方しやがったら知らねぇが。それでもマシだろ」
がははと笑いながら。
試しに軽く素振りというか振り回してみた。成程確かに彼の言う通り軽く、それこそバッドを振り回しているくらいの感覚が近いだろうか。
まぁ今やバットより剣振り回した経験の方が多い気がするけど。兎に角、使いやすいと感じていることには違いない。
「んで、どうだ使い心地」
「割といいとは思う」
ただまぁ武器の細かい良し悪しまでは分からないけれど。それにまだ振り回すという試運転も試運転な状態だし。なのでそれこそこのペラの街を出てからが本格的な使用になってくる。エストまで近いという話は何となく聞いているので、その道中で使う事があるかは分からないけれど。
「問題なさそうなら腰に携えるなりストレージにいれるなりしとけよ。下手な事して落っことされたらたまったもんじゃねぇ」
「……だね、とりあえずしまっておくよ」
そう返してストレージの中へと鞘毎しまった。まぁ使う頻度が高くなりそうであれば、腰に装着する方向に切り替えようか。
「そいやお前等、これからどうすんだ? 旅してる冒険者っぽいが」
「あれ……そういえば言ってなかったっけ……。俺達はエストに向かってるんだ。そこで目的終わったらまたここにも戻ってくると思うよ」
「エストか……都市街まで行って出稼ぎでもすんのか? 冒険者が稼ぐにはなかなか厳しいと思うが……」
「ああ、そう言うのじゃなくてちょっと人に会いに」
「人ォ? 知り合いか」
「あーいや、知り合いではない……けど」
「んだそりゃ」
まだ見ぬ、見知らぬ異世界人に会うために。とは言いづらいな。俺が異世界人であること前提の目的であるし。いやまぁそれくらい言っても問題ないとは思うんだけれど、何となく。
「ま、またこっち戻ってきたら武器のメンテしてやるから来いよ」
「是非とも」
そうして、シデロスの店も後にした。さてこれで心置きなくペラの街を後に出来るだろうか。チェーニには昨日挨拶した訳だし……。
「あ……」
「最後に顔見せだけ、しておきますか?」
「まぁもしかしたら街を出るのさらに遅くなりかねないけどね」
とは言いつつ足はその方向へ。
訪れたのは、ミネの家である。彼女たちにも世話になったし、ペラを出ることを報告しておかないと、という事で足を運んだ次第である。
会ったのはほんの数日にも満たぬ程度だというに少しなつかしさすら覚えているところがあるな。
「あっおにーちゃんたちだ!」
ドアをノックしたところ、出迎えてくれたのはミネである。まぁ十中八九たまたまであるんだろうけど、毎回ミネが対応してくれている気がする。まるで俺たちが来ることが分かってるかのよう。そんな少女の反応もとい声が家の中にも聞こえていたのだろうか、どたどたという足音と共に母親も顔を見せる。
「あら、ミヤトさんたちじゃないの、何かうちに?」
「ええと、近々この街を出るので挨拶だけでも……と」
「そんな……わざわざよかったのに」
「好きでやってるんで気にしないでください」
そんなやりとりを経て、さて街を出ようと思ったのだけれど案の定二人に引き留められた。何なら半ば強制的に服の裾を掴まれては中へ中へと引き寄せられる。力は無いから、そのまま引きはがすことはまぁ出来るけれど、流石にこの行為を無下にする訳にはいかないので、大人しく家にあがることにした。
とは言え流石に一日寝泊りまでするつもりはない。
ミネ達にもその旨を伝えて、昼ごはんだけ軽く世話になって出立するという事で一旦決着をつけた。
「手伝いますよっ!」
案内された家の中で、ミネと共に座らせられそうになったのを回避するかのように、フィリアは母親の方へと近づいて、そんなことを言う。
「いーわよ、お客さんにそんな真似」
「寧ろこうして動いてでもいないとちょっと落ち着かないと言いますか……。なので、迷惑じゃなければ……と」
「そう? それなら芋の下処理でもお願いしようかしら」
「任せてくださいっ!!」
そうして二人してキッチンの方へと消えていった。まぁこんな表現こそしてるけれど、普通に背中はちらっと見えるし声も聞こえているわけだが。
「おひるなにかなー?」
「なんだろうねぇ」
そんな訳でフィリアは料理の方へいき、俺はミネの相手をする。
家が家だからだろうか、それともこの世界の子供としたら比較的これがデフォルトなのだろうか、何というかミネは思った以上に聞き分けは良い。
この前みたいな暴走こそあれど。それを加味しても、年齢で考えるならば。
大人しいというよりは聞き分けが良い、つまりはよくできた子、という感じがする。
今も実際、こうして椅子に座ったままである。俺と会話しているとはいえ。
それでも節々に快活な雰囲気を感じるのだから不思議だな。
彼女を――ミネを見ているとふと思い出すな。ついぞ先日の告白紛いを。あの一件によりこの少女は告白をするのとフラれるのとどちらも経験している状態である。そして目の前にはその相手。
……というまぁ普通なら気まずかろう図式であっても彼女は変わらなかった。良くも悪くも子供というだろうか。
それから彼女はずっと家であったことやら外で見たものなどアレコレ話してくれた。俺からすると当たり前であったり見慣れたものすらこの年には新鮮に感じるのだな、というのが良く伝わる。




