57話 懐疑を抱く
ぎこちない空気のまま時間が流れる。
度々それらしい話題を振っては少しだけ会話を続けて、それからまた沈黙に戻って……を繰り返す。
そんな静寂を打ち切るかのような話声がギルドの外から聞こえてくる。何だろうか、と何となくで出入り口の方に目線をやる。
複数のその声はギルドの中へ入ってきたので、誰だろうかと確認した。
見たところやはり複数人でのパーティーらしくてメンバー的には4人とかだろうか……とみていく中で、見慣れた巨躯がそこにあるではないか。
「チェーニ!!」
その姿に思わず席を立ってしまう。明らかに向こう側からしたら不審者極まりないな。ただまぁ向こう側もその声に気づいて反応を返す。
「えっ何!?」
パーティーの一人と思しき男が驚いた様子で声を上げる。こちらに対してまさしく怪訝そうであった……がその後ろに居たチェーニがか細くも声をあげた。
「みっ……ミヤ……トさ、んっ……」
「え? あ、チェーニさんの知り合い?」
その声を聞き逃さず、そう返してくれている。どうやら不審者として通報されずに済みそうだ。
少しばかり彼らに事情というかチェーニとの関係を説明させてもらった。すると、すぐさま理解を示してくれて、それからチェーニだけ一旦パーティーから外れて俺とフィリアのいたテーブルの方へ。ほかの人たちはギルドへ色々と報告を行ってくるようである。
どうやらチェーニは先程までギルドの依頼をこなしていたという。男の人も含めた状態で大丈夫だったのかと思って他の面々をちらっと見てみる。チェーニを除いても男女混合のパーティーのようだから、まぁ何とかなったのかな。
テーブルに改めて三人で腰かけた。
「あの人たちは?」
窓口の方でギルド職員とやりとりをしている、さっきの面々を示しながらチェーニに尋ねた。
「あ……え、と……た、まっ……たまさ、さ、誘って……もらっ……て……えと」
さっきの雰囲気というか状況的に話せるようになったろうか……と思ったのだが早計だったか。こうして相対してしまうとやはりたどたどしい言葉遣いに変わってしまう。
もしかして位置取りの問題だろうか……。先ほど……フィリアと軽く話していただけではあるけれど、その際、対面で座っていた。そのため流れでチェーニをフィリアの隣に座らせたわけだが、その所為でチェーニと俺が対面する形になってしまった……ので多分これが理由だろうな……。
明らかにこちらを見ようとして、それでも見れずにいて……という感じになってしまっていた。
何か口を開く場合は只管フィリアの方を見てもらう感じで、事なきを得たが。俺との会話ですら横にいるフィリアに言っている感じになって違和感はまぁあるけれど、結局こういった形が最適解ということなのだろう。
そうして改めて色々聞いてみたが、シデロスの言っていた通り、ギルドに赴いて人とパーティを組もうとしていたところに偶々声を掛けてもらったらしい。
「良い人に出会えたんだね」
「うっ……まぁはぃ……す、すごく運が……よかった……す。わた……しはなにも……できなか……すけど」
「運も実力のうちで良いんじゃないですか?」
落ち込むチェーニに対して慰めるかのように優しく言葉をかけるフィリア。
本人的には誘うところから自分でやりたかったみたいだけれども、こうして男性も交えたパーティでもって外へ赴けただけ偉大というべきだろう。
「そ、そぅぃ……ばおっ……ふた……はなんで……こ、ここ……に?」
「ああ……そっか特に伝えてなかったっけ」
もっとも、理由らしい理由もあまりないわけだけど。
「まぁ何となく……シデロスからギルドの方に行ったって聞いてさ。ちょっと様子見かねて……って感じ」
「それともう少しでペラの街を出ることになりそうなので、その挨拶もかねてまして」
俺の言葉にフィリアが補足する。そういえば確かに別れの挨拶も告げて行かないとな。それこそシデロスから武器を受け取ったらすぐさまこの街をたつことになるだろうし。
「もう……で、す……か……あぃゃ、シデロ……からぅけ取ったら……」
「まぁ、そんなところ。明日くらいにシデロスが取り掛かってる武器が出来るみたいだからさ」
「ちょっと……さ、さみ……しく、なりますね」
そんなことを言っては物憂げな表情をしつつ、少し俯くチェーニ。
「またこの街にも戻るよ……多分だけど」
「それにチェーニさんがいずれ旅をするようになれば、その時に会えるのでは?」
「……そう……で、すか……ね」
「まぁエストで目的終えたら、またやる事なくなるしね」
この旅の目的はエストにいると言われている異世界人との邂逅である。あくまで会う事、そして話してみること、それだけ。
まぁそこから新しい目的が生まれないとも言いきれないけれど。
さてそんな風にいつも通りのぎこちないような会話をしていたところに先程の面々がギルドとのやり取りを終えたようで此方に近づいてくる。
「どうもどうもー」
男女二名ずつでフィリアを合わせて5人体制。まぁ何ともバランスのいい……。それに格好からそれぞれが前衛なのか後衛なのかもわかり易くて、まさしくファンタジーRPGのパーティ、とでもいうような雰囲気である。
「そういえば名乗って無かったなと思いまして」
そう言うと真ん中にいたリーダー格と思われる男から名乗り始める。チェーニと異なり、彼らは元から4人でパーティーを組んでいるようで、俺とフィリアのようにギルドにも申請をしているみたいだ。
リーダー格の男がセントロ、その横にいる少し背の低い男がマクリア、その隣にセルカという女性、それから一番後ろにいたのがトゥイルとのこと。
まぁ名乗ってもらって悪いけれど4人も覚えていられる自信はない。またいつか再開の機会があったら気まずいな……。
いやまぁ今からそんなこと気にしても仕方がないんだけれど。
それからセントロたちはギルドからもらった報酬の一部をチェーニへと渡していた。なんかこういう時、フィクションの物語であれば彼らにこう黒い影があったりするものだけれどそんな様子一切なし清廉潔白の様だ。……まぁつまりは信用して良さそう、ということ。
「それじゃおれらは宿戻りますんで~!」
ぶんぶんと手を振って彼らはギルドを後にした。
「良い人達そうだね」
「は……ぃ……」
「……」
フィリアだけはどこか不機嫌というか怪訝そうな顔つきであるのが少し気になる。
「フィリア、どうかした?」
「いえ……何でも」
チェーニを交えてからはそれなりに会話も快活だったと思うんだけれど、こうしていざ終えてみるとどこかしこりが残っている感じがした。
今後の旅程に響かないと良いんだけれど……。




