56話 沈黙
夜が明ける。まぁたかだか一夜で結論が出るはずもなく。というか普通に考えている途中で寝入ってしまったこともあるけれど。幸か不幸かそのお陰で寝不足には陥っていない。
毎度のことながら身勝手ではあるけれど一旦保留とするしかない。結論自体が無いからな。目覚めていの一番、フィリアから昨日の一件について尋ねられたけれどやはりそのように答える他無かった。
暫く宿の中で詰め寄られたけれども。しかしまぁ埒が明かないとしてフィリアも一旦は折れてくれた。少し申し訳ない気持ちにはなるからいずれちゃんと答えを出す必要はあるけれど……。
「とりあえずシデロスのお店に行こう。進捗聞いておかないと」
朝食を終えてから支度してシデロスのところへ。本来ならこの時間はまだ開店前であるため正面入り口はしまっているから、裏口から入っている。まぁこっちもしまってるけど呼び鈴みたいなものがあって、そこを鳴らせば開く。
「来てくれて悪ぃがまだできてねぇぞ」
扉を開けるなりシデロスがそう言った。やはり流石にまだ出来てはいないか。それなら今日のうちにある程度この街を出る支度をすべきだろうか。
「そう言えばチェーニさんは……」
「ん? ああ、あいつなら今日は来てないぜ。多分ギルドの方じゃねぇか」
「ギルドですか?」
「アイツなりにいろいろ変わったみたいだぜ」
どうやら俺達との交流を経て少しでも自分で声を掛けて行こう、と誓ったらしい。その第一歩としてひとまずギルドで一緒に依頼をこなす相手を探しに行ったのだとか。
若干いきなり大丈夫だろうか、という不安はあるけれど……まぁシデロスもその辺も承知の上で送り出しているだろうから杞憂かな。とは言え何かのついでにあとで見に行ってもいいかもしれない。
「そんな訳で悪ぃが今日は引き取ってくれ。まあ明日には終われるようにしとくよ」
そもそも店の経営自体もあるはずだしな……。
■
そんな訳でシデロスの店を後にして、二人でいろいろと店を見て回ることにした。ここからエストまでの距離が長いわけではないけれど、何が起きるか分からない。それこそミネみたいな少女に再び出くわす可能性もゼロではないし。
「食料ってどうなってたっけ」
「チェーニさんとしばらく外にいましたしね~ミネちゃんとの一件もあるのであまり……なのでこの街で買わないとですね」
「りょーかい」
こういう時、アイテムストレージの概念があるから荷物持ちとかにもなれないのは少しもどかしかったりする。手持ち無沙汰な事が嫌というか何というか。
フィリアのストレージで足りなくなったらその時に荷物持ちとなろう。……そんなタイミングあるやらだけど。
……。
結局そんなタイミングは無かったけど。
取り敢えずペラからエストまでにかかりそうな分の食料とプラスアルファで購入していった。
「買い物的には大体終わり?」
街をぶらぶらと歩きつつ横のフィリアに問いかける。
「食料は一通りそろえましたし、道具類もそれこそまだ買い替えするほどではないですかねぇ」
「じゃああとは、シデロスに頼んでる武器だけか」
即ちもうやる事がないという事になる。ドロップしたアイテムにしたって既にギルドで処理し終わった後だ……あ。
「ギルド……」
「ギルドに何か用事でも?」
「いやほら……シデロスが確か言ってたじゃん、チェーニ今ギルドの方にいるって」
「あー……」
まぁ何をしたいのかで言えばその様子を遠目からでいいので確認しておきたい。即ち、観察したい。好奇心という意味でも不安という意味でも。
そんな訳で、ギルドの方へと向かうことにした。
この街だからだろうか、やはり人の数はあまり多くは見受けられない。皆無というほどでもないけれど。故に彼女ならすぐ見つかるはず。特にチェーニはあの身長だから猶更……と思ったのだけれど、いない。
探す必要のない程度にしか人はいなかったからすぐに確認できたが、彼女ほどの背丈のある人間がいないのだ。
「あれ……いないね」
「そうですね……でも、それこそ普通に誰かと狩りに出かけてたりするんじゃ」
まぁそう考えるのが自然というやつか。
わざわざギルド側も把握しているかは分からないし、特別聞くほどのことでもないだろうという事で、ギルド内にある椅子に腰かけて二人で少し待つというか様子をみることにした。元々の規模間もあって座席数だとかは大してないけれど、時間のお陰なのかあいていた。
「チェーニにもそろそろ旅立つこと伝えておかなきゃね」
「明日、シデロスさんのところから受け取ったらそのまま旅立ちます?」
「まぁそうなるかなぁ」
別段チェーニ達に何かある訳ではないけれどペラに居着く理由は無いし、例の異世界人とやらがエストから離れてしまっているという可能性も、これからエストを旅立つ可能性もゼロとは言いきれないので、早いに越したことは無いからな。
それこそ、今日一日の用意もその為であるし。
「エストってどんな街なの?」
何となく栄えているという情報だけは依然貰っていたけれど、逆に言えばそれ以上のものがない気がする。
「私も実はいったことがないのであまり……それこそ都市街という事しか」
「そっ……か……」
沈黙。
あれ、いつもならもう少し快活な会話が繰り広げられていたような気がするんだけど……それこそさっきまでだって別に、会話が続かないみたいな事もなかったと思うし……。
いや、いやいや。
たまたま会話の内容が膨らまない話題をチョイスしてしまっただけのはず。
……だと良いけど。




