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55話 この感情に対する折り合い

 すっかり空は暗くなっている。夜である。

 この世界は俺がいたところと違って電気という概念はない。

 だからこそ電灯というものはないのだ……が夜になってもやっている店というものもちらほらあるので街の中だけに限定すればそこまで明かりには困らないだろうか。

 とは言え女性一人で出歩いて安全かもわからないけど。

 特に今俺とフィリアの僅か後ろを歩く彼女みたいな存在とか。


「あっ……あっあ……の……ふ、ふた……二人はつ、っ、きぁ……ってる……んですかっ!?」

 ミネの家からの帰り道にて。チェーニからの質問である。俺とフィリアが前を歩きその後ろをチェーニがついてくるというなんだかもう見慣れたかのように思えてくるフォーメーション。その間ずっと心なしか熱く不可思議な視線を感じていたのだけれど、こういうことだったのか。


「いや、それはないから!!」

 真っ先に否定だけさせてもらった。やはり誤解したままであったようだ。

 しかしまぁチェーニはミネと異なり話せば理解してくれる人間である。この言葉一つである程度落ち着いてくれた。

「そもそもチェーニさんは知ってるでしょ、こいつが男ってこと……」

「い、ぃゃ……ぁ……はぃ……でも」

 しかして彼女は言い淀んでいる。


「そ、そ、そぅぃぅのを……こ、こえ……た仲な……のかな……と」

 こんなことを口にして。いや、越えてたまるか。未だボーダライン手前で踏みとどまっている。こちらもすぐさま否定させてもらった。

 結果的にフィリアは不機嫌そうな表情になっている……がそういった態度をされると逆に俺の否定こそが嘘っぱちに見えてしまうからやめて欲しい。


 とはまぁ若干のしこりめいたものを残しつつ、チェーニとも別れた。シデロスが作ってくれているという武器はまだ時間がかかりそうという事で今日はこのまま宿へ戻ることにした。

 宿はこの街にきてから長期でとったところである。まぁ1日程ミネの家に泊まってたり、シデロスの画策により街の外にいたけれど。受付の人とのやり取りを軽く済ませて部屋に戻った。

 ベッドを椅子替わりに二人で腰かけた。

「なんかほんとに疲れた……」

「ははは、ミネちゃんのは流石に焦りましたね」

 平熱なやり取り。これこそが落ち着いていられる日常会話というやつか……。


 今日も今日とで色んな事があり過ぎててんやわんやというか……なんと言うか此処に来てようやく"一息つく"という事ができたような気がする。

 食事中もミネの唐突な暴走により異世界に来てから一番気が気じゃなかったと思う。流石に同じくらいの年齢の女の子であればいざしらず恐らく二桁にも満たぬ少女が相手だから、嬉しいとか恋愛感情とかそういうの以上に法に触れるというワードが真っ先に浮かんでしまうのだ。

 こっちの世界だとその辺りどうなってるのかは知らないが。


「シデロスの武器が完成したら街出ようか……元々ここそんなに長居する予定じゃなかったし」

「殆どミヤトさんが首を突っ込んだからですけどね」

 冷静に返されてしまった。まぁミネの一件がなければそれこそチェーニやシデロスとの関わりだって皆無で、そのままアイテム類やらの整理だけしてエストに向かっていただろうな……。とは言え関わったお陰で救えた命はある訳だし、シデロスによって武器を作ってもらえることになったから結果オーライと思っておこう。


「まぁミネちゃんたちの件は上手い事片付いたので良かったですけど……やっぱり私としても気が気でないと言いますか……」

「そうは言っても言い寄られてるのは俺なんだけど……」

「だからって私が何も思わないわけじゃないですからね!? そもそもミヤトさんを真っ先に好きになったのは私なんですから!!」

 ずずい、とこちらを向いては顔を近づけてくる。そういうことをされると若干正気を保っていられるか怪しくなってくるのでやめてくれ……。

「ミヤトさん的には私は"無し"なんですか?」

「ありなしっていうか……そもそも土俵の外というか……」

 言葉を無理やり誤魔化しながら紡ぐ。

 ありかなしか。まぁ何度も考えた議題だ。顔だけで言うならこの上無い幸福と言えるだろうけれど、彼女は、彼女ではなく彼である。

 そこの折り合いがちゃんとついていない状態で向こうからの好意を受け入れるというのは流石に出来ないし……そもそも男という事実一つで俺の中に大きくブレーキがかかっているような気がする。


 結局彼女と関わっていく中で答えを見つけ出す必要があろう。遅かれ早かれ。

 その答えという物が今の段階では見つけられないという事であって。


「そうやってずっとはぐらかすのはズルいと思いますよ!!」

 彼女からの言葉。耳が痛い。

「うう……何ていうか……フィリアから好意向けられてるのは凄い嬉しい……のは確かだよ……」

 それに対して答えられていないのは、彼女が男だから――。


 ……本当にそうなのか?

 じゃあフィリアが文字通り女の子だったらそのまま受け入れていたんだろうか。

「…………」

「あ……あれ、み、ミヤトさん……? そ、そのさっきのはちょっとした意地悪というかで……その」

 考え込む俺に対してフィリアも少し申し訳無さそうに声を掛けてきた。


「いや……うん、大丈夫だよ」


 多分だけど。


 取り敢えず今日はそのまま寝ることにした。一旦寝ながらこの感情もとい感覚に対して整理をつけておきたいから。

 それに時間も良い頃合いだろう。

何か色々あってすっかり遅くなりました。

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