4話 フィリアの秘密に一本線
しかして出会って初日である。
そもそも彼女の真意もはっきりとはわかっていない。結局濁したような言葉でお互い終わっている。
まぁ平たく言えば、何も無かったしそれ故に最低下しか睡眠が出来ていない。
「ミヤトさん大丈夫ですか!?」
「ああ……うん、多分」
昨日の夜は、何もなかった。文字通り何も起こさぬように早々に寝ることにしたから。
一言でまとめるならば寝不足である。一方のフィリアは眠そうな様子こそないがどこか不機嫌な様子である。それこそ昨日何も起こさなかったから……だろうか。
……流石にそれは楽観的というか気持ち悪い妄想だな。
「とりあえず朝食にしましょう、これからのことはその後にでも……」
「そう……だね」
昨日は先ほども言った通りそのまま寝た。これがこの朝食が人生初の異世界の飯……という事になるか。
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少しばかり抱いた記憶とは裏腹にとても呆気ないものである。異世界だからなんだという。またしても彼女に奢られるかのような形で訪れた定食屋じみた場所。そこで出されたものはパンとサラダ。どこかで見たことがあるというレベルを超えていつぞや食っただろう朝食である。
「どうしました?」
「いや……何でもない」
当然といった表情でそれを食す彼女とある意味で呆気に取られている俺の図。もっとファンタジーなものが出るんじゃないかと期待した。いやファンタジーなものって何だよって話だけどさ。
しかしまあただの洋風な朝食というのは期待したものとは異なれどあまり構える必要がないというのは一つ確かにメリットだろう。味の想像も食べ方も容易なわけで。
「とりあえずこれからミヤトさんはどうするつもりですか?」
「どうする……って?」
「文字通り、これからどうするか……どう生きるかと捉えてもらって良いですけど」
「……」
何一つ考えてはいない。というかそんな余裕は良くも悪くもなかった。だってこんな子と寝ることになるとは思わなんんで、緊張でそれどころではなかったのだ。
というかそんな余裕があったとて右も左もわかっていないし。
「最終的にはミヤトさんがしたいようにすべきだとは思いますが……ただ何もアテがないなら……暫くは冒険者稼業で生計を立てるのが良いかなと思います」
そういえば、冒険者のギルドに登録したっけか。彼女がアイテムを換金していたように、自分もそうすることで金を稼いで生きていく……という事か。
「正直何も考えてない……というかまだまだ分からないことだらけで整理も追いついてないし」
「! で……でしたら私でよければ……そのパーティーとか組んだり、色々教えたり……」
「良いの!?」
いやむしろフィリアいは今までさんざっぱら世話になってきたのである。ここでパーティーという形でもって少なくとも昨日今日の恩返しくらいはすべきだろう。
「……でもフィリアも迷惑じゃ」
「いえ、私はミヤトさんなら大歓迎ですから!!」
昨日も見せたあの表情。これを見せられて断れる男がいるだろうかとすら思えてくる。
そもそも依然として右も左も分からない状態なのだから、彼女の申し出自体は願ってもない事である。彼女が迷惑でないと言っているならば尚の事。
俺は彼女の申し出を有難く受けることにした。少しばかりの申し訳なさもおぼえつつ。
朝食を終え、再び宿に戻ってきた。そこで改めてこれからについて話し合うことにした。
冒険者として生計を立てていく。それだけは漠然と決まった訳だが、行動に移すにはやはり情報が足りない。この世界は元の世界とは違う。
それは場所が違うとか時代が違うとか風習が違うとかそういう分かりやすい話ではない。
「とりあえず……俺の世界とこっちの世界の擦り合わせをしたい」
この世界の仕組みは俺の世界と違う。
「すり合わせ……ですか?」
例えばモンスターを倒した時のドロップ。あんなものゲームの世界でしか見たことがない。それを格納するためのストレージという概念。
一件するとよくある異世界転移小説の類にみえる世界であるけれどこの2つはゲームの概念に近い。
ならば早いうちに聞いておいた方がいい概念が隠れているはずだ。
彼女やこの世界の人たちにとってはとても当たり前でありそれが常識だったからこその差異。
とは言え一つ一つ常識を言ってはキリがない。とりあえず糸口になりそうなところから聞いていくべきか。
「少なくとも俺の世界じゃアイテムドロップとかストレージなんてものは無かったし……そういうのが他にもあるはずだから……」
「そう言えば魔法の時もそんな反応でしたね」
しかし魔法自体は概念としては現実に存在はしていたらしい。あまりにも昔のことだから俺自身は当然知る由もないが。
「俺が魔法まだまだなのって素質なの?」
「うーん、素質もあるとは思いますけれどまだまだステータスが低いですから」
「ステータス?」
やはりつつけば出てくる、新しそうな概念。
「ええと……なんと言えば伝わるでしょうか……魔法の出力とか……才能みたいなものを決める数値といえばわかるでしょうか……?」
「数値……数値!?」
数の値。彼女がそんな表現を用いたこと、そして先ほど言ったステータスという概念。つまり魔法に関する素質のようなものが強さに応じて数字で表せる……ということだろう。
「え……ええ……。ステータスを見れば数字があるじゃないですか、それが……」
当たり前だといわんばかりである。
「ど、どうみるのソレ!?」
「え……ステータスと呟いてもらえば……」
「えっと……ステータス」
これで良いのか?
そんな疑問をよそに、俺の言葉に反応して何やら画面のようなものが浮き出てきた。成程、文字通りこれはRPGのステータス画面である。見てみると自分の名前や年齢、それから能力パラメータらしきものがうかがえた。
文字自体は日本語ではない……が読むことは出来る。”日本語でない”と理解しながらも”書いてあること”が正しく理解できるのは何とも不思議な感覚だ。
数値の意味を完全に理解しているわけではないけれど、しかし魔法に類されるステータスは”1”を指している。昨日使ってみた感覚からして低い数値なんだろうなというのは理解できた。
少なくとも数字が低くなるほど高い素質なんてことは無さそうである。
ステータスとしてはほかに五つあるようだ。つまり全部で六つ。武力、魔力、耐久、体力、俊敏、幸運。なんとなくいろんなゲームで見た覚えある感じの項目が並んでいて、幸運以外は軒並み1か2となっている。幸運だけ7。この数字たちはただの一般人だからか、それともまだまだこれから、という事なのか……伸びしろはあって欲しいところだが……。
ん……?
「これって……?」
「どうしました?」
「なんかスキル? があるって」
ステータスの数値と一緒に記載されている文字列。どうにも鑑識という文字と気配察知、それから言語認識というものが見える。
「ああ、鑑識ですか?」
「鑑識……?」
こちらから書いてある情報を提示するよりも先に彼女が口にした。確かに鑑識というスキルもあるが……。彼女が先に発言したんのも納得という物で曰く、誰にでも備わっているモノらしい。
名前からしてみたモノの価値を判定するスキルだろうが……それが何故全員に備えてある?
……いや今はまずこの鑑識の力とやらを試すまでだ。
「鑑識も同じように唱えればいいの?」
ステータス欄を開くときは鑑定と唱えていた訳だから同じように唱えればいいという推測であるが。
「まぁ……はい……でも今鑑識できるものとなると……」
「えっと鑑識……」
何も考えずこちらの言葉に反応した彼女の方を見ながら呟いていた。
「あっでも私は……それにランクが……」
「えっ」
彼女の静止は遅かった。鑑識と呟き、対象を選んだ時点で勝手に発動するらしい。
そこに映ったのはフィリアという人間の情報。名前と年齢と性別というあまりにも基礎的過ぎるもの。もちろんそれは彼女……いや彼の情報に他ならない。
「おと……こ?」
フィリアのステータス欄に映っていたのは彼女ではないことを示す性別。
フィリア
16歳
性別 男
タイトル少し変えました今日の夜か明日の朝にまた変わります多分