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51話 その感情は誰が為に

 チェーニの言葉を受けてフィリアは絶句した。当然俺も言葉を失っている。結局フィリアの勘というやつは当たってしまった訳である。

 彼女の中で、俺に対する感情というものを咀嚼してもらった結果、俺の事が気になっている、という答えを得た。得てしまった。


 ……マジかぁ……。

 人から好かれるという事は悪い気持ちではない、どころか心地よいものではあるんだが、状況のせいだろうか、それともそもそも人に恋愛的に好かれるという経験に乏しいからだろうか、何とも言えない感情になってしまう。

 特にフィリアから寄せられている感情の所為でそうなっている節もあるかもしれないが……。


「やはり私の推測に狂いは無かったようですよ。諦めてくださいミヤトさん」

「いや……まぁ本人からちゃんと告げられたんなら認めざるを得ないけど……いやそもそもフィリアなんでそんな得意げなままなんだよ」

 個人的には何だよソレ、という案件だが一応俺を巡ってのライバル……という事になるんだぞ。


「あっ……ぃ……ゃでも……そ、その……わ、わた……し何かにす、好きにな、なら……れる……のめ、めい……わくです……よっ……ね……」

 俺とフィリアのやり取りを見てか、それとも生来の自己肯定感の低さのせいか、俺に対して勇気の一言を放ったにも関らず、その直後にこんな自虐的な言葉を吐いてきた。

 いや、確かに今芽生えている感情には面倒という文字列も入っているけれど、しかし彼女からの好意そのもの自体を否定したい訳ではない。それ自体は嬉しいものに違いはないから。


「いやそれ自体は嬉しいからそんな卑屈にならなくても……」

「そうですよ! チェーニさんは素敵な方ですから、もっと自信持ってください!!」

「で……も……わっわた……わたし……はっ……」

 少なくともフィリアの言う通り、そんなに自己卑下するような程ではないだろう。しいて言えば卑屈が酷いくらいだけれど、それ以上に魅力を持った人間だ。

 卑しいことを言うなら世の男によってはまぁ……うん。


 しかしフィリアがこうして彼女のことを肯定するのはとても喜ばしい事だとは思うけど、そうして肯定してしまうと彼女の中でのライバルとやらの問題は良いのだろうか……。まぁ彼女自身の自己肯定感の低さというのは問題ある部分だから治せるのであればそうすべきだけど。


「で……だ、けど……わた……フィ……リァ……んみ、みた……ぃに」

 彼女の自己卑下はとまらない。フィリアと比べるなよ。色々軸が違うだろうに。それに対してフィリアが必死に反論を続ける。

「チェーニさんには私が持ってない良い所だっていっぱいあります!! そもそもそんなスタイルしてて自己卑下してるんじゃないですよ!!! 寄越してください!!」

 なんか若干私怨が混じってるような気がするけれど、そんな訴えの甲斐あってかチェーニも少し落ち着きを取り戻しながら、その場にへたりこんだ。

「うっ……う……」

 そんなチェーニをフィリアが背中をさすりながら再び慰めている。

「ただ、私は一つ気になることが……」

 そんな言葉と共に。


「気になる……?」

「ミヤトさんへの気持ち自体は本物なのかどうか……ということですよ」

 いやそれについては散々話し合ったうえで彼女の中で結論を出してもらっての今ではないか。それだというのにここで否定するのは意味が分からないぞ。

 もしかして己の為だけに状況をひっかきまわしている……とか?

「そうじゃなくって……チェーニさんが一番好きなのは本当にミヤトさんなのか、という……」

「???」

 やはり何も分からない。さっきの吐露があるんだからその前提足りうる物事自体は覆らないと思うのだけれど……。


「シデロスさんですよ」

「シデロス……がどうしたって言うのさ」

「いや、普通に考えてこの状況でシデロスさんに惚れていないという方がおかしくないですか!?」

 こちらの問いに対してフィリアが熱量たっぷりに言葉を返す。言葉自体は短いのになんなんだこの熱の入り方。確かに幼馴染という存在は恋愛話においては鉄板の相手ではあるけれど……。

「へっ……? い、ぃゃ……シデ……スは……ぉ……さな……なじみだ……から」

 チェーニにしてもこの返答である。少なくともシデロス側の反応を見る限り幼馴染であるがゆえに愛だの恋だのという価値観はとうに過ぎ去ってしまっているような気がするんだけど。そうなるとやはり望み薄なのでは。

「ちょっと失礼しますが……チェーニさんはシデロスさんに対して、感情をブレーキしてしまっているのでは?」


 ブレーキと彼女は表現した。しかしブレーキってなんでまた? そう表気するからには何か”好きになってはいけない”と感じる何かがあるが故の言葉だとは思うけれど……。

 という自分でも思いつきそうな反論をいとも容易く覆せるのがフィリアという存在。自称乙女の勘でチェーニを詰めていく。

「私の見た限りでの推測にはなってしまいますけど、チェーニさんはシデロスさんのことが好きに見えますよ」

「えぅ……ィゃ……そんな……こ、こと……は……」

「見たところ、シデロスさんはチェーニさんの体質でいろいろ苦心されているように見えます。それを、その負担を知っているからこそチェーニさんは意図的に彼のことを好きにならないようにいるのでは……と思いまして」

 成程、それがチェーニの好きになってはいけない、という彼女自身の心が無意識のうちに作り上げた感情という事か。


 それを指摘されたからか、チェーニも何処か慌てふためいている。それは最初にフィリアが「チェーニは俺が好き」と指摘したときの戸惑いとはどこか異なっているように感じるものだった。

「いゃ……ゃっ……り……しは……」

「幼馴染だから何だってんですか! 苦労かけたからって何ですか、それくらい! それが好きなれない理由にも、好きなっちゃいけない理由にもなりませんし、寧ろ好きになる理由でしょ!!」

「っ……」


「ちゃんと感情に正直になってください、チェーニさんっ!! あなたが本当に好きなのはミヤトさん以上にシデロスさんの筈です!!!」

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