50話 知覚
俺への感情に対するあれこれは一旦保留とさせてもらった。そうでなければ事を進めるのは困難だと判断したから。あとはチェーニにどうにかしてもらうという悉くが投げやりな状態ではある。しかしまぁ心の整理の時間は必要なはずだし、という事で己自身は納得させておこう。
あのまま好きか嫌いかの答えがないまま宙ぶらりんというのは少し思うところもあるけど。
そうして続く山籠もりならぬ平原籠もり、3人での生活な訳だが、やはりというべきか全体的なやり取りに違和感があるというか、こうギクシャクしている感じ。その後の狩りやら何やらもぎこちないし、連携も今一つになっている。
勿論フィリアのパワーがあまりにも高すぎるが故に今のところ大きな問題は起きていないけれど。その後のドロップアイテムの処理すら同様で、特にチェーニの距離は物理的に前より離れた気がする。しかしその離れた、というのも依然とはことなり、フィリアの後ろに隠れるというソレではなくて俺とフィリアの後方にたって追いかけているかのような図となっている。つまりはまぁフィリアからも距離を置いている、という状態だ。多分さっきのやり取りが故なんだろうな。しかしまぁ凄い見られてる感。
こちらから話しかけようにも近づくとその分だけ距離を取られる。なんか見知らぬ空間がそこにあって自動的に彼女を押し出しているかのよう。
とまぁそんな訳でもしかしたら保留としたのは悪手だったかもしれない状態である……が今更悔いても仕方ないし、いち早くチェーニの中で上手く結論が出ることを祈るほかない。
そんな歯車のかみ合わないままに夜へと世界は移り変わる。食事の時間なのだが……流石に岩の後ろに隠れたくなるかな。ひとまず昼と同じ場所に一旦の居を構えることにする。
「今日はミヤトさんのお陰で結構な種類がありますからね……どれ使いましょうか……」
ストレージとにらめっこをしながら呟くフィリアと、何となく気まずいのでフィリアの方に寄っている俺。それからやはりと言うべきか、岩の後ろに隠れてしまったチェーニの図。コレ逆に元に戻った……とか悪化を招いた……とかないよね?
まぁフィリアと俺に関しては、あの件については一旦口にしないという事にしたので……余程の自体かもしくは彼女自身の意志で口を開いてくれるのを待つほかないわけだけど。
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「さて……と、ご飯できましたからどうぞ。熱いので気を付けてくださいね」
そう言いながら皿へと一人ずつぶんよそっていく。それを俺が受け取り、チェーニの分は近くの地面においておき……と言うのが昼食時のやり方であった。今回もそれに倣って置こうとしたのだが、彼女なりの歩み寄りだろうか、岩の陰から体を軽く震わせながらも姿を現してその手でもって受け取ろうとしている。
意外と俺が気にしすぎなだけで杞憂だったのかな……と思ったりもしたが、同時に体が覚束ないというか……やはり俺を前にしては若干の恐怖か緊張顔を覚えるようである。その状態で受け取って大丈夫かおい。
この杞憂は案の定。
「あっ」
「えっ」
震えるからだで受け取ったが故にチェーニは体勢を僅かに崩し、皿を落としかけてしまう。
「危なっ……!!」
咄嗟のところで転びそうになるチェーニの腕を掴み助ける。空に舞う今日の夕食についてはフィリアの反応が良く風魔法のマラキアでもって具材のことごとくを宙に浮かせるという形で事無きを得た。
土壇場での出来事とはいえチェーニの腕をガッツリ掴んでしまったが、大丈夫だったろうか……。
「チェーニさん大丈夫ですかっ!?」
「えぅ……あぅ……あっ……その」
「チェーニさん?」
俺とフィリア二人で彼女の方を見て様子を確認する。とりあえず怪我とかは無さそうではある。火傷もフィリアの機転のお陰で何ともないか?
ひとまずチェーニの態勢を整えてから、宙に浮かせた食料たちを上手い事集めてもとの器へと戻していく。……何だこの作業。
兎にも角にも食事も元に戻せたわけで改めて頂きます……となったわけだが、さっきの一件のせいだろうか、チェーニは再び岩の後ろへと隠れてしまった。さっき自ら出てきて器を受け取った時は何かよい兆候を感じたんだけど、再び戻ってしまったかな……。やっぱり人の感情というものは簡単に動かせないかもしれないな。方法にしたって希望的観測と机上の空論の合わせ技であるし……。
「……」
「フィリアもやっぱり気になる?」
食事をしながらもフィリアはチェーニの方を基本的に見つめている。なんだか昼の時と同じデジャブを感じるな。あの時はその直後、俺だけ追放擬きの刑罰を食らってかりに出かけたっけ……。
まぁ流石に夜にもそんなことをやる羽目にはならないと思うけど……。心構えくらいはしておくかな。
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依然としてギクシャクした状態の食後を終える。
「あっ……あのっ……」
昼は手伝うこともなく追い出されたので夜の食器の片づけは積極的に行おうとした矢先である。チェーニの食器を下げようとしたところで彼女が突然何かを言い出す。
これはもしや……。
「わっ……た……しの中っで……こ、こた……え……出まっまっまし……た」
昼間保留にしていた件である。それが、彼女の中で答えが出たという事で、一度フィリアと共に作業の手を止めてその答えを聞くことにする。
これでようやく俺に纏わりつく面倒事が一つ解決されるかな。
「や……っ……ぱり……わっ……わた……しは……み、みや……ミヤ……トさん……が気に……なって……ま……す」
たどたどしくも、確かに伝えられた言葉。それは好きの二文字ではないけれど、中身は明らかに……。
 




