46話 無意識の発露
「悪気がないとはいえ、ほんと運委申し訳ございませんでしたっ!!!」
取り敢えず土下座をした。チェーニは勿論、フィリアにも一緒に。さっきからフィリアの様子がおかしかったのはこのためだったか……。
フィリアが教えてくれた時、それに同調するようにチェーニも首をぶんぶんと縦に振っている様子だったのでまぁ民主主義的に、本当に俺は彼女の胸へとダイブしてしまったらしい。それが意図的なものではないにせよ、とても簡単に事故として処理し、許されてはいいと個人的には思っていない。
「本当に悪気が無かったんですかね」
土下座の視界からみるフィリアの表情はどこか呆れたような感情を覗かせている。まぁそりゃあそういう反応にもなろうな。しかし同時にあの盤面じゃ体が動かなくなっていたのでどうしようもない、というのも事実である。
「あの、本当にわたくしにはそれらしい記憶はなくてですね……どうにか寛大な処遇を……」
依然として敬語を貫く。
「そういう事であれば、今のチェーニさんの態度がすべてだと思いますよ」
はぁ、というため息交じりに呟いて、その岩陰に隠れるチェーニを見るフィリア。いやあなたの機嫌もどうにか元に戻って欲しいんですが……。
同じくしてチェーニの方を見るけれど、やはり依然として岩の陰に隠れたまま。最初がフィリアの背中だったことを考えると、さっきより悪化しているよな……。それでもこの場から逃げ出されていないだけまだマシだろうか。それに会話だってまだしてくれているし……。しどろもどろだけど。
「倒れたミヤトさんの面倒みたのは、チェーニさんですよ」
「えっ」
再びため息をつかれながらもフィリアからの一言。
今確かに体はぴんぴんしている。てっきり時間経過による回復かそれともフィリアのレフェクティオによる回復か……と思っていたんだが、そこでチェーニの名前が挙がるとは思っていなかった。
それに寝ている俺を回復してくれた……という事は今土下座にいたる理由となったダイブ、その後の話という事になる。
……なんで?
いやだって胸にダイブした奴だぞ。幾ら義理とか恩情とかあるにしたって……。
「なんでまた……いや有難いし、良い事ではあるんだけど……そんなわざわざ……」
「そうは言っても、チェーニさん自信が望んでやった事ですからね」
「そう……なの?」
岩場に隠れる彼女の方に再び顔を向けながら。
わざわざ俺を回復させたというのだからフィリアの手引きか何かかと少しばかり考えたけど、どうにも違うらしい。フィリアもこんな場面で嘘をつくヤツでもないし……。
「た、た……すけ、て……貰ったので……」
俺の問いかけに対してチェーニも恐る恐る答えてくれる。どうやら本当らしい……が。
「いや……え、でも……俺は……」
「あれ……が……わざとじゃない……の、は……わ、分かります……からっ」
「え……ありが……とう……」
素直に感謝の言葉が漏れ出ていた。いやしかし、確かに俺に悪気だとか故意はない……としても、こうも好意的に、ポジティブに受け取れるのであれば……もしかして……。
スッとその場から立ち上がる。土下座の件は一旦保留とさせていただきつつ。それから岩の後ろに隠れているチェーニの方へ近づいて、スッとその腕に触わる。
ペタペタ。
「ひゃあっ!?!?!!」
咄嗟の出来事にチェーニは悲鳴にも似た驚いた風の声を上げる。けれどもそこから逃げはしなかった。それが驚きとか恐怖故のものかも知れない。
「ちょ……ミヤトさん一体なにを……ていうか断りもなく触るのは……」
「あ……いや今なら……実は大丈夫だったりしないかな……って。気絶してるとはいえ俺のそばで回復魔法使ってくれたってことでしょ?」
少なくとも平時であれば何かしらの後ろに隠れているのが常である。それが気絶という状態とは言え隠れず近づけたというのは何か進歩の一つなのではなかろうか。実際問題、今のチェーニの様子を見る限り完全に問題ない……とはとても言いきれたもんじゃないけど。でも前よりはマシに見える。
「だからってそんな急に……あれ?」
そう、さっきからチェーニの腕に触れているけれど、依然として逃げ出したりする様子はない。これが放心しているだけという可能性もあるけれど、それにしては彼女の目線はちゃんとこちらに向けられているように見える。
それに俺が触れてるその手を腕で振って振り払うといった様子も見受けられ無いし。
「チェーニさん……どう?」
とは言え最終的に問題ないかどうかを決めるのは俺達ではなく当事者であるチェーニ自身だ。
「あぅ……いや……そ、それは……んええと、ま……だ、いま、いまいち……」
言葉としては否定の返答である。しかし、ここで確かめたいのは答える内容ではなくその喋り方。
「やっぱり前より改善してるんじゃない?」
「普通に今否定してませんか……?」
「いや、言葉はまぁそうだけど、喋り方とか……」
そもそも怖いかどうかは己の主観によるものである。男性恐怖症に対して主観客観を語るのはちゃんちゃらおかしい話でもあるけれど、しかし無意識的に否定している部分も存在するはず。逆に言えば無意識のうちに現れているのがその言葉使いというか喋り方。
「喋り方……ですか?」
「???」
フィリアもチェーニも頭にハテナが浮かんでいる様子。
「チェーニのそのどもったような喋り方は俺……というか男がいるからでしょ? それこそ昨日の一件で感じたし」
「まぁ……私と行動してるときはその限りじゃなかったですからね」
そう、俺といるときは言葉につっかえていた。然し今はどうだろうか。つっかえているのは相も変わらずかもしれないけど、それでもこうして触れている時と昨日と比べてどうだ。明らかにソレが改善して見える。
希望的観測かもしれないけど、言うなれば偉大な一歩というヤツだ。
「ええと……つまり、ミヤトさんが触れてる状態で、このくらい喋れているのが……成長と?」
「うん、そう。そもそもさっきまではチェーニさんに触れもしなかったし……」
フィリアの後ろをとったままだった上にこちらからも関わるというアプローチを避けていたからな。
「チェーニさん的にはどう? 前ほど緊張とか恐怖とか、比べて……」
「えっ……あっ……その……わ……からない……です」
それでもやっぱり内容自体はアップデートされないか……。
余裕で週六投稿ができなくなっています。頑張ります。




