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3話 宿から始まる青い春

 そうして彼女にあれやこれやと教わりながら、今に至る。


「すごいです、ミヤトさん!」

「どうなんだろ……まだ凄い魔法が使えてる気がしなくて……」

「うーん、杖の補助もないですし……そこは仕方ないかなと」

 まぁそうだけど……。そりゃ創作の世界みたく順風満帆にいくなんて幻想だろう。

 だとしても少しくらい夢を見ていいじゃないか……。

 

「にしても……まだ街は遠いの?」

 この森は相当深いのだろうか、人の道を辿ってきているハズなのだが、依然として街らしいものは見えない。どこまでいっても木々ばかり。

 よく言えば街に着くまでに魔法の練度を上げられるわけだが、逆に言えばずぅっとフィリアと共にこの危険らしい森を行動せざるを得ないということだ。

「そう……ですね。モンスターと会う度に戦っているから……というのはありますが、割とこんなものかなと……」

 どんな森だよ。

 いやだからこそ、こんな身なりの男一人が来ることに驚かれたともいえるか。

 同時に彼女の姿恰好もチラリと確認する。魔法使い然とした白を基調としたローブとアイテムを入れるストレージの鞄。それから魔法を使いやすくするために持っているという短い杖が一つ……。

 俺よりはマシなのは間違いないけれどこんな少女がそんな装備で来る場所にもあまり見えないのだが……。

 それこそ今の内は魔法覚えたての自分でもなんとかなっているレベルのモンスターばかりであるけれど、いつさっきの虎が大量に……となっても不思議じゃないだろう。


 いやでもさっきの魔法といい、この森に来ていることといい逆位大丈夫なのか?

「それでも確かに……ちょっとペースは上げた方が良いかもしれませんね……下手に日が暮れると面倒ですから」

 時間に関してはあまり深く考えていなかったが、確かに考えるべきであった。今が何時かは分からないし、森の中ゆえに木々で太陽の位置もはっきりとはしていない。が体感で言えばなんだか夕暮れが目の前まで近づいているような気がしてならない。

「それは道が分かり辛いからってこと?」

「それもそうですが、夜になるとモンスターの動きも活発になるんです。それにミヤトさんもいきなり私と野宿は……」

 少しばかり俯いて何やら申し訳なさそうな表情のフィリア。何をそんな悲観的になっているのかはよく分からないな。

「別にフィリアと野宿する分には俺はどうでも……むしろフィリアの方こそいやじゃないの?」

「いやいやいや……いや……その」

 何か言いたげではある……がしかしその全容をはっきりと告げることは無かった。何か言いたくない事があるらしい。それに対して無闇に突っ込もうとは思わない、というかツッコめるほど肝は座っちゃいないしコミュニケーション能力もない。


「私はむしろ……」

「えっ……」

 皆まで言わなかった……が今のは明らかに……。

 いやあまり楽観的に考えない方がいいよな……うん。

「と……とにかく遅かれ早かれ街に戻る必要はあるわけだし、い、急ごう……か」

 話を無理やり中断して先を急ぐ事にした。変な期待をしてはいけない、これは恋愛漫画みたな都合の良い世界じゃないんんだから。


 ■


「今って森のどの辺りなの?」

 依然として森以外の景色が見えない。

「どの辺り……うーん、森の中って景色が変わらないので実は私もあまり……」

「えっ」

 もしかして、この子方向音痴だったりしないよな?

 少なくとも地面はずっと人の道……即ち草を人工的に刈り取って土が見える状態にした道。それを辿っているのだから大きく迷子になることは無いと思うけど。

「少なくとも来た道を戻ってきてますから!!」

 今のところは彼女の方向感覚以外宛てに出来るものがないから、信じるしかないな。

 何となく木漏れ日の形だとかで方角はわかる。尤もこの世界の太陽の仕組みが同じであれば、だが。


「……フィリアはどうしてこんな森の奥に来てたの?」

 ずっと歩いている、がしかし周りの景色は一定である。本当に来た道を戻っているのであれば、彼女もこんな奥地まで一人できていたことになるわけだ。

 例え俺が現れたことでこんなに時間がかかっているとしても些か違和感があるというか……少なくとも”森の奥”という場所に拘りがあるような行動とはあまり思えなかった。何というかアイテムにせよモンスターにせよ頓着が見えなかったから。


 勿論俺と出会う前に目的は達成していた、とか色々要因は考えられるけれど。

 それで彼女の回答は、というと。

「えっ? えっと……なんとなく森で狩りに来まして……なんか歩いているうちにここに……」

「……そ、そう……」

 これであった。この子、本当に方向音痴かもしれない。人の心が読める訳ではないが、しかしこの言葉には裏があるとは思えない。

 基本的に彼女の後ろをついていく形で進んでいたし、そもそも道らしい道の上を歩き続けていた訳だから、普通に考えたら遅かれ早かれ街につくだろうと思っていた。いたのだけれど……。


「うーん、いっそ強化魔法使いますか?」

「えっ?」

「アベストルス……あとはアルマ……」


 片手にもった杖を軽く振る。すると杖の先から発光し、俺とフィリアの体を包み込む。光は段々と下へ下へと流れて足のあたりを舞って、そして消失した。しかし何が起きたんだろうか?

 イマイチ実感はつかめない……が何となく足のあたりが違和感というか軽いような気がする。

「さぁ行きますよ!」

「ま、待って……今のは……?」

「強化魔法ですよ、足を強化したんです」

 成程、だから足が少し変な感じがする……のか。足が速くなった、ということだろうからこれで一気に森を抜ける算段ということだろう。


「ええと……こっちですかね? ミヤトさん!」

 片手行き先を指差し、もう片方の手をこちらに向ける。

「ほら、はぐれちゃいますから!」

 手をつなげ……と言いたいのだろうか。

 ……良いの?

 そんな経験、いつ以来だろうか……。そんな感情も相まって、恐る恐る彼女の手に自分の手を重ねて、離れないように握った。


 ぎゅん。


 まるでそんな音がするかのような感覚で一気に加速していく。強化魔法という言葉で片付けていいのかというレベルのバフで何か馬か何かにまたがっているかのような気分である。少なくとも彼女が離れないように、と手を握らせた理由が何となくわかった。

 シンプルに危険だこれ。

「うわわわっ!!?」

 木々に多少あたるのすら気にしないという勢いでもって森の中を進んでいきあっという間に街が見えてくる。建物とそれを守る城壁と、二人以外の人の姿と。


「ふう、何とか街まで戻れましたね」

「う……うん」

 強化魔法の反動なのだろうか、何となく酔ったような平衡感覚がおかしいような……感覚がふわふわしている。

 とりあえずフィリアの後をついていく形で城壁の方へ近づいていく。壁は高く、恐らく街の中にモンスターが入ってこないようにする対策だろうか。道の先には入り口と思われる関所が建てられており幾人かがそこに並んでいる。フィリアのようなローブを身に纏った人だとか鎧のようなものを纏った人だとか……いかにも”らしい”人々の姿が見える。

「ひ……人……人だ……」

 思わず変な感想が口から零れる。


「そ、そりゃあ街なので人くらいは……」

 フィリアも少しばかり引いているような気がする。街に入る際にはああやって関所を通る必要があるのだとか。あれで誰が入ったか、出て行ったかを管理しているのだろう。

「……アモールの森行く度に関所通るの?」

「そうですけど、でもすぐ終わりますよ?」

 確かに自分たちがその関所に近づくよりも先に並んでいた人たちが中へ入って行くのが見える。あまりにもすぐなもので逆に怖い。


「名前を」

 軽装の鎧に身を纏う衛兵が二人。片手に持っていた槍で俺たち二人を停止させる。

「あっえっとシガ……」

「フィリアです。この人は少し訳アリで……後でギルド登録しますから」

「おお、フィリア殿でしたか。あなたが言うのであれば問題ないでしょうな」

 こちらが名乗るよりも先に彼女が割り込んできた。途端に衛兵の表情は明るくなり声音も少しばかり朗らかな様子になった。


(フィリア殿……か)

 彼女の一言でもって関所は通ることが出来た。通り際に何やら貨幣のようなものを渡していたように見えるが通行の度に金がかかるのか?

「ていうか俺名前……」

「ミヤトさんは異世界人ですから名乗ったところで無意味ですよ。どこかしらで登録しないと名前に意味はありません」

「な、なるほど」

 確かにそうか。人の行き来を管理するにしたって存在しない人間については管理もクソもないという事か。

「森でも言いましたが……今日のところは急ぎギルドに登録しちゃいましょう、あとはもう休んで……それからの行動は明日にでも」


 言われるがまま、ギルドに赴いて彼女の説明とギルドの受付との説明に従うラジコン状態でことを進めた。

 いやにスムーズすぎて何か不思議な感じだ。ギルドに登録というから少しワクワクしたり身構えたりしていたのだけれど、名前を書いて指紋をとって終わっただけである。下手な書類手続きより短いんじゃないかという気がした。少しばかりギルドを見て回ろう、なんてことも思ったのだが、そんな時間すらなく。


「それでこの後って……」

「もう今日は休みましょう。宿に……」

「でも俺金とか持ってないし……」

「森でドロップしたアイテムで工面できますよそれくらい」

 さも平然と。そういえば俺がギルド登録している間に彼女も何か別の受付でやっていたっけか。あれがそうだったということか。

 曰く冒険者というのは街を転々と移動し続ける者と一つの街に留まるものがいるという。少なくとも前者は決まって宿に泊まる必要があるためどの街でも宿屋という存在は欠かせないのだとか。

 逆に一つの街に留まるのであれば一つ家を持っていた方が長い目で見れば安いという話になるとか。


「まぁ私は宿生活ですけどね~お金貯めるのも一苦労ですから」

「そっか……」

 アパート生活のアレコレみたいだな……。

 何というか嫌な所で現実味があるな。


 ■


 さて、そうして辿り着き案内されたのは宿である訳だが――。


「一部屋なの!?」


「え……? ええ、まぁ……」

 宿の手続きも彼女に任せていた。てっきりそれぞれで一部屋……みたいなものだと思っていたのだけれど、いざ蓋を開けてみると……部屋の扉を開けてみると、用意されていたのは立った一部屋である。

 二人用の部屋をとったらしく、部屋の中はテーブルとそれからベッドが……二つ。並んで置いてある。

「流石に今日の資金だけじゃそれぞれ一部屋となると宿のグレードを落とさなくてはいけなくなりますから……」

 この世界の資金価値がどれほどかは分からない。通行料金とか宿代だとか全て彼女に払ってもらっている身の上だから文句を言える立場ではない。

 しかし自分が言いたいのは文句なんかではなくて、警告である。男女が一つ屋根の下、同じ部屋で寝るのは流石にまずい。たとえこちらにその気がなくても体裁がまずい。こんなかわいい子と二人というのが一層まずい。


「そうかもしれないけどさ……流石にフィリアと同じ宿は……」

「……ミヤトさんは私じゃい嫌ですか?」

 この世界の倫理観はこれがデフォルトだ、と言われたらそれまでかもしれない。だとしても簡単に受け入れることも出来ないのだ。

「私はむしろ……ミヤトさんさえ良ければ」

 森の中で言われたことのその続きのようなセリフ。

 顔を赤らめこちらを見つめる。ここでまでされて好意がない……なんてことあるだろうか。


 鼓動が早くなる。正面にいる彼女をまともに見ていられないような気持ちになって――。




 これが春とでも言うのか。


今回で完全な書き溜めが尽きたのでペースは落ちると思います。

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