45話 こいではないが
「クラドス!!!」
『グァッ!!!?』
槍状にした魔法をソレをモンスター目掛けて投げ飛ばし、突き刺す勢いのまま突進している方向を反らした。体勢を崩して、彼女たちの横へと倒れこんだ。とりあえず二人に向かっていたモンスターは何とかなっただろうか……。
しかしまぁさっきのクラドスは……咄嗟のあまり出力をミスった感じはある。おかげでモンスター自体は一撃で倒せたし、自分では今まで見たことのない威力が出た気がするけど、その反動だろうか、大分ふらふらな状態である。可能ならチェーニにみられるよりも先に姿を隠せられたら……とも思ったが、逃げるどころかその場から動くのすら怪しいレベル。
チェーニの問題は多分またも振出しにもどってしまった感じはあるけれど、今は兎にも角にも二人をすんでのところでも掬えてよかったと思うべきだろう。
杞憂だったら少しばかり悲しいけども。
「ミヤトさん!?」
「!?!!?」
俺が飛び出してきたことに対して二人も驚いている様子なのはわかる……がまぁあまりにも意識が遠くなってる。魔法を使い過ぎるとこうなる……のか……。
「い、今のは……ってフラフラじゃないですか!?」
やばい、今の状態では恐らく、倒れこんでしまう。それだけなら最悪どうでもいいいんだけれど、万が一下手に体勢を崩した結果、チェーニの方へ突っ込んでみろ。トラウマ再発どころの話ではなくなってさらに強めの恐怖を植え付けることにつながりかねない。
だから何とかして体の向きというか方向を捻じ曲げたい……んだけど、体に力が入らない。
「ごめんっ……」
最期に残した遺書かのような一言だけを呟いて、意識を失った。
最後に視界に映っていた光景は……。
(あれ、これ、フィリアじゃn)
ブラックアウト。
■
「ええと……」
目が覚めるとどうだろう。見知らぬ天井ならぬ知らぬ空の下……ということは無く、多分さっきまでいた平原のはず。確か、最後につっこんだのがフィリアの服っぽくないことだけは覚えているんだけれど、それって消去法的にチェーニの方に突っ込んだっていう事になるよな……。
そして今、後頭部には確かに柔らかなものを感じる。肉っぽいというか……何というか……。
(あれ、え、やばくね)
慌ててガバっとその場から起き上がる。さっきまでの光景、記憶と後ろに感じるソレをあわせて考えるとこれはもしかして、チェーニのものでは……。
と思ったのだが。
「気づかれましたか」
フィリアであった。彼もとい彼女が膝枕をしてくれていたらしい……アレ……?
じゃあさっきの記憶とは何だったのか、という気持ちになるけれども、同時にチェーニだった場合目覚めた最初の光景が青空というのも少しおかしいよな。どこかの所為で視界が防がれるだろうから……。
「と……りあえず、俺がぶつかったのってフィリアってことで良いんだよね? こうしてフィリアが膝枕してくれてたわけだし……」
「いえ、ミヤトさんがぶつかったのは私じゃないです」
フィリアに尋ねてみたところ、彼女は何故だか言い淀む。少なくとも俺が想定していた反応ではない。
とても嫌な予感がするんだけど。
フィリアが指をさすその方向には大きめの岩がある。よく見てみると、岩の後ろにチェーニがいるのが僅かながら確認できた。ああ……やっぱり彼女にぶつかっってしまったのか……。
しかし岩場に隠れるに済んでるという事は、そこまで大きな問題は起きてないということだろうか。ふと何が起こったのかもう少し具体的にフィリアへと尋ねようとした……のだが。
さっきから気になっていたけど何かフィリアの表情がおかしい。どこかこうむすっとしている。さっきまで膝枕はしれくれていたっぽいのになんなのだ。
「あれ……フィリアなんか機嫌悪い?」
「いいえ。別に。何も」
「いや……明らかにおかしいって……」
なんかこの反応だけで、俺がチェーニにぶつかった瞬間があまりポジティブなものではないような気が足てくる……。一体何があったんだ……。素直にぶつかっただけだと思ってるんだけど。
どうしたものか、フィリアはこの調子だしかといってチェーニも岩陰に隠れているばかりだし。
「え、いや本当に何があったんですかね、俺……」
思わずフィリア相手にすら敬語になりつつ、恐る恐る再度尋ねた。
「さあ。ぶつかったチェーニさん本人に聞いてみればあいいんじゃないですかね」
つんとした態度。いや、しかしそのチェーニは男性嫌いなのはフィリアも知るところ。というかそれを治すためにさっきまで散々あれこれ練っていたところだろうに。とは言え今のままではフィリアは取り合ってくれないということは理解できたので、諦めてチェーニの方に近づいてみる。
「あのー……つかぬことをお聞きしますが……俺の最期って一体……」
「ひゃっ……や……そ……そ、の……えと……」
やっぱりチェーニはこの調子。岩陰から僅かに姿を見せたまま、しどろもどろに呟いている。
「だ、だ、だい……じょ……丈夫……で、す……」
「いや大丈夫じゃ分からないわけでしてその……」
お互いに敬語な状態。距離感を測りあぐねた不器用な会話。それで徐々に距離を詰めていくような感覚。
それを見かねたのか、さっきまでつんけんしていたフィリアが近づいてきて教えてくれた。
「ミヤトさん、つっこんだんですよ。チェーニさんの胸に」
「え……ん?」
 




