43話 トライ安堵エラー
「……で、改めて聞くけど、フィリアにはなんか手立てみたいなものあるの?」
決意新たに、彼女をどうにかする方法を考える。
「まぁ……無いに等しいですかね」
ああして皆の前で宣言して見せた彼女であったけれど、帰ってくる答えはこの通り。つまりはノープランというやつだろう。しいて言えば”ない”ではなく”無いに等しい”という言い回しが可能性を数パーセントでも残していそうで気になったりはするけれど……。
「うぅ……す……すぃま……ん」
代わりに何故かチェーニが謝ってくる。大元自体は彼女の性質によるものとはいえ謝られてもな……。とはいえプランがないのであれば今から改めて考えなくてはならないわけで。さてどうしたものか……。
精神系の病の場合って何があるっけ……。専門家どころか興味持って調べようとしたことすらないからな……。聞き齧った以下の知識しか捻出できそうにないけれど……。
「……なんていうか……精神操作、みたいなものって無いの?」
「精神操作……ですか?」
思いついたものは催眠療法というやつである。まあ名前しか聞いたことがないものであるけれど、しかし名前からある程度の概念的な部分は理解できているつもりだ。催眠という方法でもって精神の根幹を書き換える。こういうと物騒な物言いだが、しかしちゃんとした精神の治療法だ。
魔法の中に精神に訴えかける類のものがあるかは分からないし、それでうまくいくかどうかも賭けになってしまうけれど……。
「ううーん近いモノでしたら、リラックス系のものが……」
スピルトというものらしい。催眠の類かどうかは不明だが、フィリアが先ほど言った通りあくまでこれは興奮した状態から落ち着かせるというものらしい。しかしそれなら、チェーニのあの挙動であれば大なり小なり効果があるのでは?とも思う。試してみる価値はあるかな……。
それこそ依然としてフィリアの背中に隠れたままであるし。これでそこら辺の物陰に隠れにいかないのは少しでも姿を見られたくないから……とかなのだろうか。逆にその奇行のせいで一層目立っている気はするけど……。
「とりあえず試してみよう。その状態だと使いづらそうだけど……」
なにせ自分の背面に魔法をかけることになる訳だし。
「まぁそれなら私までまるごと魔法かけた方が早いですね。……スピルト」
呟きながら杖を一振り。彼女たち二人を魔法が包む。さてこれでチェーニの行動がどうなるか……だな。
二人が魔法の光に包まれる。やがてその光が淡くなり、止むとチェーニがフィリアの肩から離れている。完全に離れている訳じゃあないけど、がっちりと肩やらを掴んでいた状態と比べると、彼女の服の裾を掴むに留まっている。
「おお……!」
こうして端から見ている限りでは一旦成功に見える。あれ、これもしかして依頼完了ってことになる?
「ミヤトさん、試しに触れてみてください」
フィリアの呼びかけに対して恐る恐る手を伸ばしていく。最初に会ってからずっと隠れられてばっかで近づくことすらままならなかったから、不思議な感じがする……。
「……ミヤトさん、変な所触ったら殴りますからね」
「触らないよッ!!!」
こんな場で堂々とそんな真似をする度胸があってたまるか、と。普通に彼女の腕やら手首辺りに自らの手を置いてみた。
「……どう?」
「え……ええ……えと……? はい……?」
チェーニに問いかけてみるとこんな反応。言葉遣いもあの挙動不審状態だったものと比べるとちゃんと聞き取れるレベルになっているからマシか?
いやそもそも何だろうか、深いこん睡状態の時のボヤッとした回答っぽくも思える。しかし前より問題ない状態なのは事実だ。
「一応は成功ですかね。ただ、前よりは良い状態……というだけですけど、ミヤトさんの問いかけにこんな反応じゃダメですけど」
「やっぱりダメなの?」
「まぁ答えられてませんからね……。これだと何をされてもそのまま受け入れてしまいそうなのでとてもとても……」
何をされても受け入れる……。少しだけ生唾を飲んだのは言わないでおこう。たとえバレてるとしても言わぬが花だ。
「今えっちなこと考えてませんか?」
「……別に」
心を読める魔法でも持ってるのかな……。
「そもそもスピルトの魔法は永続ってわけじゃないので、効果が切れたら意味ないですしね。この魔法を使ってる間に男の人に慣れてもらう感じですかねぇ」
「うーん……難しいな……」
今こうして触れている間は本当に何も怖がられる様子がない。寧ろこの状態で魔法がとけたらどうなるんだろうか。
そこから更に暫く触れてみているけれど彼女の反応はあまりかわらない。悪くも良くもならず依然として状況を呑み込めていないような、常に頭にハテナが浮かんでいるかのような言葉しか返ってこない。
取り敢えず今の間はまだ魔法が続いている状態なのか? それとも元の人格を完全に上書きしてしまっているとか……いや流石にそんな危ないものではないよな……?
「あっミヤトさんそろそろ」
「どうかした?」
「……! ひっ……!!? なっなっな……っ!!!」
そんなことを考えている間に魔法がとけたらしい。途端に先程の反応具合はどこへやら、ぶんぶんと触れていた俺の手を振りほどくと、一気に顔を赤くして、慌てふためいて、それからフィリアの背中に顔を隠した。相変わらず体格差のせいで隠れている意味がないな。というか先ほどまで触っていた反動だろうか、それとも俺の思い過ごしだろうか、さっきより酷くなってるような……。
まだまだ道のりは長そうだ。




