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39話 デカくて暗くて小さい声

 その日はミネの家に寝泊まりさせてもらえることになった。元々の予定だとこの後宿を探して……というつもりだったけれど、ベッド付きで空いている部屋があるという事で、勧められたのだ。今日のお礼の一部分ということらしい。

 こちらとしては宿代が浮くからありがたくはあるが……それはそれとして人の家に泊めてもらうという景観は中々無いため少し緊張するな。

「……ベッド一つ……かやっぱり」

 人の家なので文句は言えないけれど、しかし同時にフィリアを男であると理解していないなら男女が同じベッドで……というところに対してもう少し危機感みたいなものを持ってほしかったな。

「ふふ、今更じゃないですか、ミヤトさん」

 フィリアはやっぱり満更でもない様子。確かに宿で何度か同じベッドで……という経験はあるけど。いくらフィリアを男だと認識したとて緊張するんだこちらとしては。


「そもそも、私たちのこと多分そういう関係だと思ってるんだと思いますし」

「えっ……」

 驚きの声。……しかし考えてみると、客観的に思考すると不思議な話でもない。寧ろ自然とすらいえるかも。だって男女……片方が実は男ではあるが。で、それなりに仲がよさそうで。先ほどからのフィリアの様子やら何やらを総合的にみると……カップルか何かに見えるのは不思議じゃないのか。


「まぁ……ミネたちには病気の一件が終わったら多分関わらないし……いいか」

 諦めて同じベッドで寝ることにした。緊張はまだするけれど前に比べて随分寝られるようになったし、なんなら目の前にフィリアがいるという人間的な幸福度の高さでむしろ一度寝てしまえば寝の深さみたいなものは良いかもしれない。


 ■


 翌日になってミネ達の様子を確認する。ミネは母親と共に今は寝ているらしい。病人と同じベッドって大丈夫なのか……と心配にもなったけれど、しかしミネ自信にはそれらしい症状が一切出ていないという事なので問題ないのだろう。アレだったら今日連れてくる例のヒーラーにミネもまとめてみてもらえばいい訳で。


 今朝も容体は芳しくはない……けれども今すぐにどうにかしなくては……という程でもない。とりあえず最低限フィリアの回復魔法だけ与えて家を出る。


 朝のうちに例の武器屋へ訪れてシデロス紹介の下、彼の幼馴染と会う手筈になっている。


「こんにちはー」

「おう、来たか」

 開いている扉から店内に入るとシデロスともう一人……背の高い女性がいた。例の幼馴染ってことで良いんだろうか。全身をフィリアとは異なる印象のローブを身に纏っている。そして背は高いけれど若干猫背気味の様子。俺達が入ってくるなりびくっと体を震わせてはいそいそとシデロスの後ろに隠れていた。シデロスだって背が高いはずなんだけれど、彼女はその彼の背中に隠れるために猫背以上に軽く背を丸めているため、本当に身長が大きい。

(…………でか……)


 控えめ且つ最低で失礼な第一印象を言うならば、デカかった。

 何がと言われたら身長とか体躯の一部分が。

 別に俺の背がほかと比べて高いということは無いけれど、俺や幼なじみの彼よりも背があって圧倒される。

 するとどうだろうか、横にいたフィリアが肘でもってこちらの横っ腹辺りを軽くどついてくる。


「ミヤトさん、胸ばかり見るのは失礼です」

「み、みてないって!!?」

 見たのは一瞬だけだから胸ばかりという表現は大変侵害である。何故ならすぐにシデロスの後ろに隠れたからな。そもそも、フィリアみたいな特例の男性を除いてこの世の男はこの胸を見て無反応というのはとても難しい問題だろう。

 ……というか男性恐怖症がひどい理由の一つはこういう視線だったりするんじゃ?とも。


「チェーニ、背中に隠れんじゃねぇ。ミヤト、フィリアすまんな。こいつが例の幼馴染のチェーニだ」

 無理やり背中からひっぺがすようにしてこちらに顔を見せさせる。

「よ、よろしく」

「よろしくお願いします」

 挨拶と共に軽い会釈。それに対してチェーニはというと、

「ぁっ……ょ……ょしく……ぉ……」

 こんな反応。

 反応だけで言うなら男性恐怖症とか飛び越えてそもそも人見知りとかコミュニケーション障害とかそっちにも片足を突っ込んでいるんじゃなかろうかと思えてくるけれど。

 幼なじみたる彼も少しばかりのため息をつく。


「チェーニさん……? 大丈夫……?」

 念のためにこうして声をかけてみるけれどやはり反応は先程と大して変わらない。

「は……ぃ……ど、どぅ……」

 声はつっかえているし、小さいしで中々に聞き取りづらい。やっぱり人見知りってだけではと思うけれど、ここから俺が一旦この場を抜けたりしたら変わるのだろうか。


「取り敢えずアンタたち病気あれこれがあったろ? オレは仕事あるから行けねぇけど……どうか頼む。終わったら一旦店戻ってくれて構わねぇから」

「うん。とりあえず俺が一緒だと緊張しっぱなしだと思うから、離れていようと思うけど……フィリアお願いね?」

「はい……私でうまくいくかは分かりませんけど」

 そもそも彼女でうまくいかなかったらこの話は頓挫なワケだが。


 兎にも角にも一旦シデロスと離れる。俺が先行してミネの家へと向かい、あとからフィリアたちが追いつく……という手筈ではある。

「大丈夫かな」


 まぁミネの母親だけで言うならフィリアとチェーニ二人だけでも良いのかも知れないどころかその方が良いんだろうけど、個人的にちゃんと見届けたいのだ。

 万が一俺が付いてきたことでチェーニの男性恐怖症で上手くいかず……という事があるなら家を出るなりなんなりするつもりだが。


「……」

 ちらっと後ろを確認。フィリアとチェーニの様子を確認する。会話の内容までは聞こえないけれど、見ている感じ成程、確かに男性恐怖症なのかも。フィリアとはさっきみたいな緊張の極みみたいな様子は見えなかったから。


(どんな会話してるんだろう二人……)

 こういう時、仕方無いとはいえちょっと気に鳴っちゃうんだよな。少なくともフィリアが男もとい男の娘という話はシデロスから聞いてるだろうから、ちゃんと男と理解した上で会話していると思うけれど……。

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