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38話 もしもちゃんと治ったら

「ご飯できましたよ」

 そう言ってフィリアは扉を開けて入ってくる。両手で鍋を持っており、なんとまぁ器用に扉を開けたんだろう……と思ったけど魔法使ったとかかな。

 というか。

「アレこっちに持ってきたの?」

「ゴホッ……悪いわね……」

 まぁミネの母親は咳込んだ通り、この状態だから無理をさせずに……という事かな。この寝室も部屋のサイズ的に狭すぎる……みたいなものじゃないからテーブルやら椅子やらを運び込むこと自体は不可能じゃなさそうだな。

「ええ……流石にあまり動いてもらうのも……と思ったので、さっきお話してる間に許可だけ貰って」

 律義だな……しかし鍋を持ってきても肝心のテーブルやらを先に持ってこないと意味なかったんじゃ?


「ミヤトさん、扉の向こうにテーブルおいてあるので、動かしてもらえますか? ちょっと今細かい動きが……」

 普通に魔法でもってきていた。言われた通りひょいっと扉から顔を出してみると、あった。

 魔法って便利だなやっぱ……。


 取り敢えずフィリアに言われた通りにテーブルを寝室へと運び込む。ミネは普段じゃ見れない光景だからかどこか嬉しそう。

「よ……っと。この辺で良いかな?」

「大丈夫だと思います。それじゃあ椅子も持ってきましょうか」

 どうやら椅子は別だったらしい。さっきのテーブル動かすのすら操作が覚束ないからとこちらに頼んできたしそれと同じ理由で運んでなかったとかだろうか。


「……っても鍋は手で持ってきたんだね」

「まぁ……情緒とかで、何となく」

 何とまぁかわいらしい答えだろうか。確かに手でもってきてもらった方が、家庭らしさみたいなものはある気がする。まぁ後ろから魔法で机まで運んできてるわけだが。


「いいにおいする……」

 ミネが呟いた。この匂いは俺も知っているものっぽい……これは……、


「今日はこちらです。お口に合うといいですけど」

 そう言いながら蓋を取る。芋に玉ねぎにニンジン……これ、ポトフか……。イメージ的にはソーセージの印象があるけれど、今回は普通の塊肉。こっちじゃソーセージそのものが一般的ではない……とかか?それかシンプルにドロップアイテムの肉そのまま使うのが楽だからか、果たして。


「まぁ……美味しそうね」

「スープ系なら具の有無とかで食べやすいかな……と。それに食べきれなくても数日くらいは保存ききますから」

 ちゃんとミネ達のことを考えた上での選択ということか。やはり出来る子……。

 兎にも角にも一旦みんなで席に着き、そうして皆で頂く。ミネの母親だけはベッドのままだけど。


「やっぱフィリアが作ったのはおいしいね」

「えへへ……改めて言われると……ちょっと照れますね」

 そんなことを言っている。かわいらしい限りである。

「ほんとね。フィリアちゃんは良いお嫁さんになれそうね」

 現職からもこの評価。もっとも、彼女は……フィリアは男なわけだけど。ミネ達にはその事は伝えていない。そもそも必要な情報ではないし下手に伝えて容体悪化にでも繋がったらたまったものではないという事であらかじめ二人で決めておいた。

「およっ……!? そ、そ、そんなもったいないお言葉……」

「あら、そんなに謙遜しないで良いのよ?」

 しかしフィリアは照れくさそうにするばかり。もう少し自信をもってもいいんじゃ……とは思うけどフィリア自身としてはそんな言葉言われ慣れて無いからかな。

 性別の壁がこの世界じゃどの程度か知らないけれど、俺の世界ならフィリアであれば引く手数多だろうなとは思う。それがお嫁さんとして、かは兎も角。

「お嫁さん……ですか……へへ、ミヤトさん照れちゃいますね……」

 こちらを見つつ可愛らしく笑いかける。しかしこの世界で婿探しとなると……相手は俺になるのか? いやフィリア自体は良い子である。こうした料理の腕も申し分ないし自分を好いてくれてるけど、色々こちらも考えねばならないことが……というところで思いとどまる。考え方がちょっとフィリアに引っ張られているんじゃなかろうか、と頭をぶんぶんと横に振って雑念を振り払う。

 ペースを乱されたくないし話を少し変えたい。


「そ、そうだ……どこかのタイミングで話そうと思ってたんですけど、病気の件もしかしたら治せるかもしれなくて」

 本当は食後にでも……と思ってたけれども。元々変な動揺等を与えないように……という事からってだけで今の様子を見る限りは大した問題も無さそうだし。

「ほ、ほんと?!」

 ミネが跳び上がる。食事中なのでそれは流石にちょっと危ないな。後の方が良かったか。

「そんなわざわざ……」

 母親の方はこの話を聞いて申し訳無さそうな表情である。そもそもフィリアのような冒険者と偶々つながれたから……と言うだけなんだけど、その辺の話をしていなかったか。そうじゃなければ金を積んだか何かだと勘違いするのもやむなしか。

「大丈夫ですよ。回復特化の冒険者と繋がりができたってだけです」

「ほ、本当に……? もしも無理してるのなら……」

「本当に大丈夫ですよ。明日、その人を呼んで改めて治してもらいますから……それは問題ないですよね?」

「え……ええ構わないわ……けど」

 こちらの言葉に対して依然として釈然としないというか何だかやはり申し訳なさを表出させたような言葉である。

「……そもそも、私の魔法で簡易的にとは言え回復しているんですから今更ですよ。私の魔法か、明日連れてくる人か、くらいの違いでしかありませんから」

「う……それもそうね……」

 フィリアもそうして口を挟んだ。

 そもそも関わりを持とうとしたのもこちらの身勝手なエゴであるから、こうして気にされる方が此方としては気まずいというか何というか。


「私たちとしてはちゃんと治って欲しいからやってるだけですよ」

「そうだけど、貰ってばっかじゃ申し訳ないわ。……そうね、それなら私がちゃんと治ったら今度は私がご飯をごちそうするわ。それでどうかしら?」

 別に無償のつもりだったけど……。しかしまぁそれで本人が納得するという事であれば、これ以上は何も言うまい。


「それなら、ぜひともまたご一緒させてください」

「そうですね。……ほら、ポトフさめちゃいますから早く頂いてください」

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