37話 夕食前に
「武器はいりません。代わりにこちらからも一つお願いを聞いて頂けませんか? であれば、お引き受けしますよ。寧ろさせてください」
「え……いったいどうしたってんだ……? まぁお願いってのが何か分かんねぇけど、出来る範囲のことなら……」
「知り合いにちょっと重い病気の方がいて……それでその幼馴染の方に見てもらえないか……と」
「ふむ……それくらいなら問題ねぇと思うぞ。アイツにも言っておく」
そうして話は纏まった。結局その幼馴染とやらに会って、実際にことを終えるまでは油断も安心も出来ないのは変わりないけれど、今までの中では一番希望の見える話に思える。
「そういやアンタらの名前聞いてなかったな……オレはシデロス。さっきも言ったが鍛冶職人だ」
「フィリアです。こちらはミヤトさん」
「ど、どうも」
「んな堅苦しい言葉使いしなくていいぜ? っていうかオレが最初っからそんなんだしな!」
ペコリと軽く会釈をする俺に対して豪快に笑い飛ばすシデロス。身長も見た目から受ける年齢にしては少しばかり高めであるしその雰囲気も相まって普通ならなかなか近寄れないタイプだな、俺には……と思った。
多分普通にクラスメイトとかでいたら一生関わりないまま卒業すると思う。
まぁ何にせよ、タメ口で来いと言われたのだからこちらはそれに従うまで。
握手を交わし、その後例の幼馴染の件とそれから俺たちが抱えている問題の件とをお互いに話した。
「成程な……そりゃ大変じゃねぇか……今すぐ……っていきてぇんだが、アイツ今ギルド依頼で出てんだよな……」
「いつ頃戻りますか?」
「どうだろうか……取り敢えず今日の夜には戻ると思うぜ、流石に……そしたらアイツの家いって話はしておくが……」
しかしそれじゃ遅くないか?とでも言いたげな表情である。けれどもそこは心配無用。……いや完全に安心して良い事でも無いけれど、しかしフィリアの回復魔法でも最低限は体力を持たせることが出来る。
「でしたら明日の朝、またここを訪ねますのでその時で大丈夫です。本当に何かあったら夜分にお願いするかもしれませんが……」
「分かった。そん時は裏手口叩いてくれ。そしたら開けるしアイツも無理やり起こしてくっから」
取り敢えずこちらの問題をどうするか、の算段はついた。幼馴染の男性恐怖症の改善についてはその後で、ということに。
そう言えば男性恐怖症ってメンタル的な問題だと思うけれど、流石にそれはヒール魔法じゃどうしようもないって感じなのかな。
兎にも角にも今日は出来ることが無さそうであるから、と店を出た。それと俺が買う予定だったその剣については一旦購入は保留とした。金に余裕ができそうなら、もっと上等なものを見ておきたいし。
「コレで前よりは希望が持てますね」
「流石に今度こそ上手くいってほしいなぁ……」
そんなことを二人で口にしながら。さてここからは夕食に向けての準備である。ペラの街でもって食材を買い込んで、ミネの家へとお邪魔するわけだ。今回手に入れた吉報については教えてあげた方がいいのか中々難しいが、一旦は話すだけ話して置こう、ということになった。
そもそも例の幼馴染とやらも家に上げなくてはならないし、それなら早いうちに話を通しておくが吉というもの。これで結局ダメでした、となった時のアフターケアは考えておいた方が良いだろうけど。
しかしまぁそれでも足取りは先程とは比べ物にならない。
「夕食どうしましょうか」
野菜が売っている露店にて野菜たちを眺めながらフィリアがいう。
「うーん4人分だし、量作りやすいものとかが良いのかな。っても何が良いんだろ……」
「そうですねぇ……ミネさんのおうち、ちゃんとオーブンとかも備えてあったので、折角なら使ってみたいんですよねぇ……」
そんなことをぽつりと呟いていた。そういえばちらっと家の中を見た時にキッチンがあったな。そこも手入れは多少粗雑であったけれど、ちゃんと掃除すれば使えそうではある。
とは言えオーブンがあったとかそこまでは確認していなかったけど……というか人の家のキッチンガッツリ借りるつもりなのか。
まぁ元々夕食も作りにいくという話はしていたし、そんなとやかくいう人じゃなさそうだけど。
「お邪魔します」
一通り食材を買い込んでそれからミネの家へ。すっかり日は暮れている。
「おねーちゃん、おにーちゃん、いらっしゃい」
扉を開き出迎えてくれたのはミネである。ひとまず彼女自身は元気そうで何よりだ。
「フィリアはミネたちと寝室いって様子見てあげて」
「ミヤトさんは?」
「ちょっと……ね。事が終わったら俺も寝室の方いくから」
取り敢えずフィリアにはミネの母親の容体を改めて見てもらうことにしつつ、俺は家を軽く掃除することに。。本来ここまでする必要があるか、と言われたらまた違うんだろうけど、夕食、というには少し時間があるし、手持ち無沙汰だからな。
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「こんなもんかな……」
特にキッチン周りはフィリアが使うことになるから最優先で行った。普段からこういう事やってるわけじゃないから不慣れだけれど、まぁ見た感じは問題ないだろう。
さてフィリアの様子はどうだろうかと寝室の方を確認する。少なくともミネの母親の状態はそこまで酷くは無さそうか。フィリアとミネと共にベッドの上で、ではあるけれど談笑している様子だ。
「フィリア……どう?」
「ええ……そこまで体調は問題なさそうです。何かあったらまた回復魔法を……と思いましたけど、それも今のところは必要なさそうで」
確かに顔色も悪くは無さそうか。しかしそれでも、フィリアの魔法でもっても対応しきれないのだから難しいな。
チョイチョイと手招きでもって一旦寝室から退室させる。
「どうしたんですか? ……っていうかさっきまで一体何を?」
「ちょっとキッチンの掃除を……」
「……! おお……!!」
そのキッチンをみて、フィリアも少しばかりテンションが上がっているように見える。
「これはちょっとやる気でちゃいますね……」
「それならよかった。母親元気になってもすぐになんでもかんでも、って訳にはいかないだろうからさ。それにまぁフィリアも今日使うっぽいから」
「そんな……あとから私がやるつもりでしたが……ありがとうございます」
さて、こちらが出来ることはひとまず終わり。時間としても良いころ合いだろうから、フィリアに食事の用意をしてもらうことにした。代わりにその間俺がミネ達の相手をする感じで。




