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36話 ヒーラー系幼馴染

「すまん、事情も言わずに急きすぎたな」

 立ち寄った武器屋のその店内にて。

「まぁ少しばかりあんたたちに相談があるんだ」

 フィリアの腕を掴んだその男。あまりの出来事にフィリアが一瞬固まって、それから俺も呼応するように固まって。それで時が止まったかのような時間が流れる。ほんのひと刹那ほど。

 それから自分のした行動に驚くようにして男は手を放した。そこで漸く時が再び動き出し、続いて告げられた言葉がソレである。

 つまるところナンパでも何でもなかった。

 しかしまぁフィリアを見て声を掛けるとは一体どういう了見なのだろう。相談とは言っているが、彼女にピンポイントで声を掛ける理由ってあるのか? それこそナンパか何かに見えてしまうけど……。


 まぁナンパするにしてもフィリアは男なわけだけど。

 それでないとしたら、なんか嫌な予感がしないでもない。それこそカコの一件のような……。


「相談……ですか?」

 フィリアも少しばかり不安気な様子で聞き返す。


「オレの幼なじみとパーティ組んでくんねぇか?」

 そうして返されたのがこれ。

「ん?」

 フィリアも思わず言葉が詰まる。オレと、ではなくオレの幼なじみと……と確かに彼は言ったはず。どういうことだろうか。当事者じゃない俺だけれど流石に気になって仕方がない。


「ええと、前提としてオレには幼馴染がいるんだが……そいつがよ、男が苦手ってんで困ってたんだ。オレとか家族とは話せるんだが、それ以外はテンで駄目で、どうしたもんかとな」

 所謂男性恐怖症、というやつか……。

「別に貴方と話せるなら問題無いのでは? ソロで生きるって道もありますし」

「いやどっちも問題あるんだよ。そいつヒーラー専門だから前衛職が要ねーと本当に話にならねぇんだ。普段はオレがつきあってるけど、オレの専門はまぁ店みたらわかると思うが、鍛冶師なんでな。いつも冒険者稼業ってわけにはいかねぇ」

 さらりと言われたけれど、この人この見た目で鍛冶職人であったか。言われてみると手を見た時に覚えた違和感の正体はコレか。若干煤っぽい汚れと、それから熱に近いが故の皮膚の具合と……。


 そんな彼の幼馴染は武器を扱う前衛じゃなくて後方支援系のヒーラーというのだから皮肉なものである。……というかヒール専門って、パーティ単位ならともかくそうじゃないなら扱いが難しそうだし、そこをどうにか矯正したほうが良くないかと他人事のように思う己がいる。

 けれどもまぁ人には人の事情があるから簡単にはいかないんだろうな。


「うーん、男性が難しいのであれば女性に声をかけては? 女性冒険者も数が多いわけではありませんが皆無でもありません。そういった人であれば……」

「まぁ今はそんな感じでなんとかやってはいるよ……ただずっとこのまま、ってわけにもいかねぇ。遅かれ早かれ治せるうちにどーにかしておきてぇんだよ」


 成程、フィリアに幼馴染の抱えている問題を何とかしてもらえば自分の本職の方も時間をかけてられるということか。ある意味治すための第一歩としてはフィリアみたいな存在は鉄板である。

「え、でも私男ですけど……」

 けれどもフィリアはその真意を理解していない様子。

「だからこそだ!」

 寧ろコレで男だからこそ彼は声をかけたのだ。わざわざ彼女の腕を掴んで呼び止めたのだ。女っぽい見た目だが、中身自体は男である、という事が重要なのだから。

「多分アンタならあいつもそこまで怯えねーんじゃないかって思うんだ……。それから少しずつ他の男にならす事出来たら……ってよ」

 とは言えこれで良い方に転ぶかは分からない。あくまでそれは彼の描く理想のルートでしかない。とは言えやる価値自体は充分にあるだろう。

「何とか頼まれてくれねぇか」

「ううん……でも正直私たち今それどころじゃんあくてですね……それに後方支援のヒーラー一人増えたあところで……私でも簡単なものなら出来ますから……」

 しかしそれはあくまで彼自身の話である。対してフィリアは抱えている問題もあるし、そもそもヒール職を必要としていないのだ。


「ソイツの才能はそこらの奴とはちげぇんだ! だから絶対アンタらの負担を少しでも軽くできるはず!」

 必死に男は食い下がる。

「そこらのやつとは違う?」

「ああ……オレにはさっぱりだが、ヒール魔法の覚えだけやたらと高いヤツみたいでよ。なんかいっつも暇さえあれば難しそうな魔法の本読んでやがるぜ。オレとしては鍛冶仕事で火傷したりしたときすぐに治してもらえるわ、体調悪けりゃ一発でなんでも治してくれるわで助かってる部分も大きいんだ」

 腕を組みながら自慢げに話すその男。後方理解者面とはこのことか。

「勿論タダで、とはいわねぇ。武器屋だからな。ほしい武器あんなら2つくらい、タダでやるよ。ここに来たってことは入用なんだろ?」

 しかしどれだけ説得をされようとも、付加価値を足そうともこちらにはあまり益の無い話である。まぁ武器がタダになるのは少しだけ得だけど……。


 そう思っていたのだが、フィリアは彼に一つの質問をした。

「……その方病気を治す魔法が使えるんですよね?」

「え……ああ、そうだな。体調で困ったらとりあえず彼奴に頼めばなんでも治してもらえるが……でもアンタら見た感じ元気そうじゃねぇか」

「!」

 ああ、そういう事か!

 フィリアが言いたいのは、彼女に頼んでみる……という事か。

「ミヤトさん……もしかしたら」

 フィリアの見立てだと出来の良いヒール魔法の使い手でもない限り、ミネの母親の容体はよくならないだろう、という推測を立てていた。

 もしかしたら、もしかすると……。

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