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2話 異世界人という概念

「異世界……人?」

 異なる世界の人。

 異世界人。


 彼女が放った言葉と俺の認識が同じであれば、ここは……。


 異世界――?


 あまりにも結論ありきではあるが、此処を異世界であると仮定した方が色々な事に対して納得のいく説明がつけやすいというだけだが。

 先ほどの反応だって、この景色だって、彼女が魔法使いだ、といったことにしたって。

 何より今彼女の口から出た異世界人という言葉。もちろんまだ確証はないが、それはこれから詰めていけばいい。


「それって異なる世界……の人ってこと?」

 一応認識の擦り合わせ。まさかの漢字だが。

「え……ええ、本物は見たことないですが、書物で見たことがあって……」

「書物?」

「ええと書物というのはこう紙で……」

「いやそれはわかる」

 スマホと同じ反応をしないでくれ。俺が気になっているのはその書物とやらに何が書かれているか、だ。


「別の世界から来た人のことですよ。あなたの格好とか言葉的に……そうなんじゃないかなと……」

 あまりに完結的過ぎた。もしかしたら書物を見てもあまり意味がないかもしれない。

「……言葉的……っていうのは一体」

「ええ。先ほど言ったスマホ? というのもその書物に書いてありまして」

 書物になんてもん書いてんだ。前言撤回。その本是非とも読んでみたいところである。少なくともその書物に書かれていることは俺の時代に中々フィーチャーしていそうである。ただその本を読むという目的を達成するにはまず森を出なくてはいけない。


 しかしまぁ異世界人という言葉があるならば、自分の状況……というか情報収集もいくらかマシになるだろう。そういうもの、で扱われるだろうから1から10まで聞いても不自然ではなくなるから。

 とりあえずは森を出ること、そしてその本を読むこと。これを暫くの目的とすべきだろう。

 情報を集めて自分の状況を正しく確認する。その後の目的は……その時だな。


「……そうなのか。俺がその異世界人かどうかはまだ完全には分からないけど確証がほしいな……。ひとまず森を出てその本を読んでみたい」

「本を……ですか?」

「え……うん」


「であれば……ギルドに入っていただいた方が良いかもしれないですね」

「ギルドに?」

 より一層異世界らしくなってきた。しかし本というからには図書館のようなものがあるはずだ。そこに所蔵していないのか?

「国の運営する図書館はありますが、ギルド登録とか……とりあえず身分が分かるものが必要なんですよ。お店でも買えると思いますが、お金を出さない事には……」

 この世界の図書館というのは身分証明書がないとだめなのか


「本……というか紙は希少ですから。素性の分からない人には触らせられないので……」

 そういえば歴史の授業で聞いたような気がするな……。

「とりあえずギルドで身分証明書を作れ……ってこと?」

「ミブンショウメイショ……というのが何かは知りませんけど、自分が何者か、証明するものということならその通りです。異世界人ということならこの地で職につかないと大体生きていけませんし……」

 この身一つで落とされるとそうなるのか……いや、そりゃそうか……。もしかして異世界人って大変なんじゃないかコレ。


「ん?」

 何か感じる。気配のようなものを。

「どうかしましたか?」

「いや……向こうの方からなんか……」

「えっ別に何も見えませんが」

 当然、俺の目にも何も見えない。でも脳に直接訴えるような感覚があるのだ。その感じた気配は本物のようだ。


『グゥウ……』

 唸り声と共に草陰から出てくるモンスターの姿。四本足と長い牙。虎とかその類に似た姿をしていて、明らかに先ほどの猪よりも危ないことが分かる。

「さ……さがって……」

 先ほど気絶したばかりというにいい顔をしようと再び前へ出ようとする……。がしかし。


「ローラティオ」


 ぽつりと放った彼女の一言。たちまちのうちに空から大粒の雨のようなものがモンスター向かって降り注ぎ、朽ち果てる。まるで無数の斬撃を食らったかのように。

「……ええ……?」

 言葉にしてしまえば単純だが、実際の光景はこんな言葉一つで表して良いのかわからない。

「……ふう……、大丈夫ですか?」

 一息ついてからこちらの方へ振り返る。

「ああ……うん、ありがとう」

 呆然としてフィリアの呼びかけに答える他無い。

 守ろうとしたけれど、逆に守られてしまった。男の立つ瀬がないな。


「ミヤトさん、どうかしました?」

 流石にこちらの感情に多少なりとも気づいたか、尋ねられる。まぁ隠し通せるものでもなし、と正直に答えた。


「いやだってフィリアみたいな女の子に何度も守られるとは……って」

「おんっ……い、いえ、そんなミヤトさんが気にすることじゃっ……」

 彼女の顔が一瞬にして赤くなっていくのが分かった。そんな照れるほど言葉を口にしたつもりはないんだけれど。

 こちらの世界じゃそういうもの、と片付けられたらそれまでではあるけど。


「……今のが……魔法なんだよね……? 凄いや……」

 信じていないわけじゃないけれど、しかし改めて見ると出鱈目としか思えなくなってくる。科学とかオカルトとかそういう話をまるで大股の一歩で軽々と超えていくような、文字通り一つ次元が違う――そういう感覚だ。


「す、すごいだなんて……。適正さえあればこれくらいはだれでも……」

 あんな容易くモンスターを倒せる魔法が誰でも出来るの?

「あっ……そうだアイテムとらないと……」

 そういって彼女は先ほどモンスターがいたところまで足早に近づいた。魔法に印象を持っていかれて気づかなかったが、その足元には何か落ちている。遠目からでははっきりとした全容は見えないが、毛皮と牙のように見える。牙の鋭い虎のような見た目であったから、毛皮だの牙だのに違和感はあまりない……があの魔法を食らって剥がれ落ちた……のか?


「やけに……綺麗?」

 拾い集めるフィリアの横からひょいっと覗き込み落とし物を改めて確認する。やはり状態が綺麗に見えた。

「これ……さっきのモンスターの……だよね」

「……? ええ、そうですけど。何か……あっ……アイテムの山分けなら……」

「いやそうじゃなくて……何か傷とかついてないんだな……って。ほらさっきの魔法とか凄かったし……」

「うーん、さっきの出力ならこんなもんだと思いますけど……? 確かにダメージが大きすぎるとドロップアイテムの質も落ちたりしますが流石にハイドタイガーならあれくらいで倒せますから」

 ん、ドロップ?


 話を聞いてみて分かったが、どうやらモンスターを倒すとゲーム的な「ドロップ」という現象が起きるようだ。

 つまりモンスターごとに特定のアイテムが出るとのこと。

 例えば先ほどの虎であれば毛皮と牙が落ちる。が常にその二つが落ちるとは限らない。そしてそれぞれ幾つでるかもランダムのようである。ランダムドロップ……という事か。魔法だのドロップだのまるでゲームだな。

 こちらの世界とは物理法則を越えての差があるらしい。

(……ゲームの世界にやってきた……っていう事だったりするのか?)


 更にはそのアイテムに対してストレージという物が存在する。つまりは収納制限で人と、それから人が所持する袋や背負子といった荷物それぞれに割り当てられてるようだ。ここもやはりゲーム然としているつくりらしい……がこんなゲーム当然ながら知らない。

 いや、何にせよ、この世界がなにかを判断するにはまだまだ情報は足りない。今の自分ができることだって。


「……さっき使ってた魔法とかって俺でもできる……の?」

 この世界がどういった形であれ、魔法が使えるなら出来るに越したことは無い。何より、使ってみたい。

「えっ? 適正さえあれば可能ですけど」

「ほんと!?」

 その言葉に思わず興奮し、顔を近づけていた。

 すぐに気づいて、顔を伏せる。

「ご、ごめん! ち、近すぎた……」

「い、い、いえっ……そんな私は別に……」


 ■


「ええと……ミヤトさんも使えそうですね、見た感じ」


 改めてフィリアが言った。

「えっほんとに?」

 見た感じ、でわかるものなのか?

 何かオーラでも見えてたりするんだろうか。

「魔法適正あるみたいです。あまり高くはないですが」


 高くはない。いやただの一般人だから仕方ないだろうけど。

「どう使えば……」

「ええと……何といえば良いでしょうか。こう、前に何かものを出すイメージを持ちながら……全身の感覚を一点に集める感じで」

 身振り手振りを使って教えてくれはした、があまりにも簡素過ぎる。そんな一台詞で終わるの?


 しかしまぁ物は試し。

「ええと……」

 さっき彼女が呟いてた魔法は何だっけか。

 あの虎のようなモンスターを倒したやつ。霧雨のような攻撃をイメージしながら体の中に巡る感覚とやらをどうにか手の先へと手繰り寄せる。


「ローラティオ!!」

 ぴちょん。何が起こったかといえば、攻撃と読んで良いのやらというレベルの水滴が数物、どこからともなく降ってきた。

 ともすれば、そこらの木々にたまたまついていた雨粒の残骸かもしれないというレベル。けれども確かに自分の中の感覚として魔法を発動させた……はずだ。

 そりゃあ最初はこんなものかも知れないけれども、それでも一発で出せたこと自体には何か才能の一かけらくらいあるはずだ。


 ちらりとフィリアの方を振り返って反応を見る。

「まぁ……初めてですし、鍛えればもっともっと練度があがるハズですから!」

 魔法の才能はないかもしれない。彼女の必死そうなフォローが何というか心に一層刺さる気がした。

 ……鍛えれば……か。


「私でよければ協力しますから!」

 そういってフィリアから手を握ってきた。

 ……何かやたらと彼女が従順というか好感度が高いように感じるが気のせいか?

 それともこちらでは、これが当たり前だったりするんだろうか。


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