35話 武器屋でもナンパはあるらしいと
「ひとまず動けるようにあったとは言え、いきなりあれやこれやとやるのは控えてくださいね。何度も言いますけど、気休め程度の魔法でしかありませんから……」
「ええ……また何時前みたいな状態に戻るか分かりませんから。ミネも、ごめんね、おかあさんまだ治ってないから……」
「とりあえず夜になったらまたお伺いして様子を見させていただきますね。首ツッコんでしまった以上、無責任に放り投げられませんから」
「そんなわざわざ……」
「いえ、そうでもしないとミヤトさんの寝覚めが悪そうですし」
そんなことを言いながら。実際俺の寝覚めは悪くなると思うけれど、多分それはフィリアにしたって同様のはずだろうに。
「そうですか……。でしたら折角ですし夕飯召し上がってもらおうかしら」
「いやさっき控えてくださいと言いましたよね。二人分も四人分も変わらないので、作りに来ますよ。というか夜伺う理由はその為みたいなとこありますから」
少しつんけんした態度ではあるけれど、あれはあれでフィリアなりの照れ隠しのつもりに見える。カコの影響受けたんだろうか。
とりあえず、ミネの母親の容体は一旦は安定した……とはいえ依然として根幹の問題は治っていないとフィリアは言う。だがこれ以上は何もできないという事と一旦最低限動けるようになったという事で俺たちは彼女の家を後にした。
ひとまずギルドへと向かうことに。道中で手に入れたアイテムを換金して、それからほかの店で彼女たち含めた4人分のご飯を作るための食材集めである。
「今日明日くらいなら良いですけど……私たちのお金も無限にあるわけじゃありませんからね」
「その時は死ぬ気お金稼げばいいだけだから」
「簡単に言いますねぇ」
こういう時位、簡単に言ってのけないとミネが不安がりかねないからな。何てことの無い行為としておきたい。それが偽善的でありただの格好つけた行為であっても、だ。
「それにしても大丈夫かな……」
一時回復したとはいえいつまたぶり返すか分からないというし。
「大丈夫じゃないですよ。あの人の謎の気力と私のかけた簡易魔法のお陰でどうにかなってますけど、気休め程度にしかなりません」
フィリアが見たところによると彼女自身の魔法でどうこうできる問題ではないという。それだけなら良かったものの、所謂良質な薬草でもっても回復が期待できるか怪しいのだとか。
そんな断片的な話を聞かされると、寧ろそんな状態でなんで生きていられたろうか、と疑問に思ってしまう。
兎にも角にもスタート地点に戻された気分だ。
「それこそ出来の良い回復魔法の使い手でもいたら良いですけど、そんな偶然に縋るのは流石に」
「フィリアじゃ覚えられないの?」
何とまぁ自分から首を突っ込んでおいて他人任せとは無責任な話ではあることは百も承知だ。けれども彼女の魔法でも薬草の類でもどうにかならないというのであれば、一番可能性のある最善手はコレのはず。
「可能ですけど、習得そのものに時間がかかります。それこそ、数日単位で……そのうえでそもそも上手くいくかどうかという状態なので」
別に医学に詳しいわけじゃないけれどあの病床の様子を見てそんな数日単位も堪えてくれというのはこれまた無責任な話である。
「じゃ、じゃあギルドにいって声かけたり募集かけたりとか……」
「声掛けは兎も角、募集となるとギルド職員に掛け合って、張り紙出してもらって……と時間かかりますよ。それこそギルドに応募かけるくらいなら私が習得したほうが多分早いです」
「そ……そんなレベルなのか……」
「一応私魔法使いの才覚としては自信ありますからね。私より優れた人となると中々……」
まぁこちらの世界の事情とやらを詳しく知らなくても彼女の腕が相当な事は今まで散々理解させられてきたからそこに疑いようはない。その上で、自分より優れた人でないと難しい……とは。
「……ミヤトさん、武器を買いに行きましょう」
「え、急になんでまた……」
「あの人の体調次第では私が付きっ切りで暫く面倒を見る必要が出るかもしれません。そうでなくとも、私が新しく回復魔法を覚えるとなったらそれはそれで、ミヤトさんと一緒に行動してられません。そうなったらミヤトさんが全員分の食費を賄ってもらわないと」
「ひ、一人で四人分を……ってことだよね……?」
「ええ。ミヤトさんもついさっき自分で言ってたじゃないですか。死ぬ気でお金を稼げばいいと」
その為に少しでも戦力を挙げておこうという話か。しかし金を稼ぐために金を使用するとは少し変な話にも思えるけれど。
■
「ああ、いらっしゃい」
店内には店員と思しき男の姿が一人。ぱっと見自分と同じくらいの年齢に見えるからアルバイトかなんかだろうか?
いやそれにしては彼の手に違和感が……。まぁ兎に角武器だ武器。フィリアとしては今後の為の先行投資、というつもりの提案な訳だけれど、しかし金をあまり使うのも個人的には避けておきたいところ。畢竟武器がなくても魔法一つで凌ぐことが出来たら何も問題ないし……。
それこそ前と同じくらいな価格帯の無難なものを選ぶのが良いだろうか。幸か不幸かフィリアも武器の目利きは出来ないというから最悪多少粗悪でもフィリアへの誤魔化しはどうにかなるだろう。
……そんな考え方で良いのやら、という気はするけど。
取り合えず今まで使ってたものと似たようなもので良いだろうか。目についた手ごろなものでもって適当に会計を済ませてしまおう。
「決めるの早くないですか?」
「俺はこういう時直感を信じる派だから」
半分本当で半分嘘だが。
そうして武器を一つ手に取り、店員と思しき男のいる方へと近づこうとしたとき。
「ッ……! あっ……あんた!!」
「へ?」
その男は叫びながらバッとこちらへ近づいてフィリアの腕をぐっと掴んできた。フィリアは当然、困惑した表情を浮かべている。
「す、少し話があるんだ……」
これが武器屋で行われた新時代及び新世界のナンパである。
……なんでこんな所で?




