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34話 気休め程度の言葉たち

 ひとまずはミネと一緒に街の方へ向かう。そういえば街に入る際は関所を通ることになっていた筈だけれど、彼女はどうするつもりなのだろう。

 確か冒険者ギルドへの登録がされていない場合都度都度通行料みたいなものがかかったはずだ。しかし明らかにそんな手持ちがあるようには見えないし……。


「関所……?」

 ミネに聞いてみたところ、やはりと言うべきかぽかんとしている。少なくとも関所であれば誰かしら人がいるはずで、出ていくことが自由にしたってこんな少女を易々と通すわけないだろう。幾ら何でも無責任だろうし……となるとどうやったんだろう。


 ほどなくして街の関所が見えてくる。思った以上に距離がなかったようで何より……まぁこんな年の子が歩いていける距離ってなると、そうだよな……。

 そうして彼女の後をついていくように関所へ……と寄っていくわけではなく、何やら道を外れていく。一体どこへ向かうつもりなのか。関所から続くその壁をずうっと横にスライドするように移動を続けていく。

「あそこ……」

 そう言って立ち止まりながら彼女が指さしたのは、街を取り囲む壁……の一部分に開いた、経年劣化で出来たと思われる小さい穴らしきものだった。まぁ森と街を隔てるものだから経年劣化とかも不思議じゃあないけど、小さい子供なら頑張れば入っていけそうな……あっ……。

「え……っとまさか?」

 こちらが何か言うよりも早く、ミネは足早にその壁の方へと近づいていき……消えた。

「え?」

 ……かのように見えた。

 実際は、先ほど指でさし示した小さな穴から入って行ったのだろう。さっきの穴から少女が顔の一部を覗かせている。具体的には目のあたりをこっちに向けている状態。

「ええ……」


「ほら」

 いやほらじゃなくて。さも当たり前といった具合にとってのけた辺りこの穴を使うのは初めてではないんだろうな。……まぁそれも彼女の親の一件が落ち着けば必要になくなるか……。

 流石に既に入ってしまったものに対して、一回出ろとはとても言えない。万が一この街の関所が人員の出入りに厳格である場合彼女のソレはちょっと厄介そうでもあるから、今回ばかりは見逃すことにした。

 とりあえずミネにはその場で待機するように一旦命じて、俺とフィリアだけ関所で正式な手続きの上で街へと入る。そもそもあの穴から入るのは無理という話もあるけれど。


「本当にミネちゃんのお母さんどうにかするつもりですか? ……いえ、治せるなら協力はしたいですけど、正直本当に力になれるかは怪しいですよ?」

 関所までの道のり。一旦ミネのはぐれたそのタイミングで彼女はそんなことを言った。端から端まで図星と事実とで耳が痛い。実際問題、フィリアがここまで渋る辺り中々に厳しいのだろう。彼女は優れた魔法使いであるけれど、万能ではないのだ。


「その時は……全力でミネちゃんに謝ることになるかな……それで許されるわけじゃあないけどさ」

 ミネという少女の手前ああも格好つけたけど。当然ながらに掬う手立ても算段も今のところはフィリア頼みだ。彼女というアテが外れたら……どうすればいいんだろう。

「見過ごせないのは分かりますけど、なんでもかんでも手を差し伸べれば言い訳じゃないと思いますよ? それこそ今回だって……」

「まぁ……凄い目についたから、っていうエゴな理由なのは理解してるよ。けど多分それで見捨てる真似したらずっと後ろ髪を引かれる思いになるだろうから」

 少しばかり格好つけた言葉にフィリアも軽く微笑んで返す。とは言えこれは呆れ交じりの顔だろうな。

「……相変わらず、面白いくらいのお人好しですねミヤトさん……」

 そんなつもりはない……はずだ。それにこの状況下、誰だってそうだろ。それに今は自分たちの手でどうにか出来る状況なのだから。


 兎にも角にも彼女の母親の様子を確認しないことには始まらない。急いで手続きやらを済ませてミネを迎えに行くとしよう。


 ■


「ここが私のおうち……」

 そうして案内された一軒家へと入った。ここがミネの家だという。そういえば、誰かの家に上がり込むのこの世界じゃあ初めてかもしれない。フィリアとはずっと宿屋か野宿かという生活だったし……というか彼女は家なんて持ってなかったし。まさかまさかの、その日であった少女の家とは

 兎にも角にも、ミネの家へと上がった。見たところ思った以上に散らかっている。あまり手入れがされていないのを見る辺り、ずうっと彼女の母親は寝た切りか、やはり……。

 早い所解決してあげれたら良いんだけど……。


 少女に案内されて連れてこられたのは寝室。そこに母親はいた。ベッドに伏したまま苦しそうに肩で息をしているようだった。

「なおる……?」

「とりあえず……見てみますが……」

 少女の言葉にもフィリアは肯定が出来ていない。その表情もやはり依然として明るくはない。やらされていることがそもそも門外漢な上に、病症も素人目には芳しくないように見えるし……。

「……」

 しかし……見てみる、とは言っていたけれど一体どうやるつもりだろう。本人自身が専門ではないと言っていたし、雑に魔法をいきなりかける……という物でもなさそうであるし……。


 少しだけ病床に伏しているミネの母親を見ていた……かと思うと右手に杖を構えて小さく呟いた。

「レフェクティオ」

 俺もかけられたことがある、回復の魔法。これで処理したっていう事は、実は大したことが無いんだろうか。それならとても良い話ではあるんだけど……少なくとも依然として彼女の表情は変わっていない。


 けれどもどうだろうか……そのずっと閉じていた目がゆっくりと開き始める。


「あ……れ?」


 そして、声を放つ。

「おかーさんんっ!!」

「ミネ……?」

 途端にミネが飛び出し、抱き着いた。

「元気になったんだね!!?」

 しばしの間、その光景を二人で少しばかり離れたところから眺めていた。依然としてフィリアの表情は暗いままであるのが気になるところ。確かに見た感じ完全に回復した……という風には見えないが、しかし既にミネを抱き返してさらには体を起こすくらいは出来るようになっている。


「あなた方に助けていただいたのですね……何とお礼をしたらよいか……」

「いえ……あくまでそれは一時的なものです。それこそ、明日まで持つかどうかというところで……」

「なおってない……の?」

「ごめんなさい……私ではコレが限界で……」

「いいんです。こうしてミネをまた抱きしめられただけでも……」

「で、でも……絶対治して見せますから!」

 俯く両者の間に割って入るように、思わず言ってしまった。どうせ治すのは彼女だというに、俺自身はそばで見ているしか出来ないというに。

 それでもこの空間、空気に耐えられず。


「でも……おねーちゃんでダメだった……」

「大丈夫、大丈夫だから……。きっと治す方法は見るかるはず! 別にまだ試してないやり方だってたくさんあるんだから……!!」


 気休めにしては随分と安っぽい言葉ではあるけれど、それでもこの場の空気を少しばかりマシにする力はあったらしい。

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