32話 迷子の迷子の
カコと別れて、トランキーロを出て幾日。
国境を超えるということは聞いていたのでどんなものかと思っていたが、今のところ迷うという要素はない。国境同士の境界線は基本的に厳密に管理されているとかなんとかで、寧ろどこまでがトランキーロなのか、それとも隣の国なのかは壁の前後で明瞭らしい。
今も舗装された道らしい道をずうっと進んでいるわけだし。
少なくとも今のところ迷う要素すら無さそうな感じがあるな。
「国境超えたらアナトリー国ってところなんだっけ?」
ついぞこの前までいたトランキーロやアモール、その他周囲の街を含めてメサ国というらしい。昔ゲームかなんかで同じ名前を見た記憶はあるけれど、まぁただの同名だろう。
兎にも角にも道自体はわかりやすいので大助かり。しかし何日単位で歩いているから、そろそろ国境の目印になるもの一つ位見えてきてもいい頃だ……え?
「なにこれ……」
「シロノ・トイコスですよ」
「白の……なんだって?」
「国境を区切る為の壁ですよ」
人生においてそもそも国境を超える、という体験は片手で足りる程しかしたことがない。それもこちとら空の旅。即ちその足で国境を超えるというのは本当に経験がない。故にというべきかは分からないけれど、そんな俺が目にしたそれは一言でいうなら圧巻もしくは荘厳といったところだろうか。
トランキーロやアモールの街でみたそれとは比べるのも烏滸がましいような高く巨大な壁である。
国境を区切るため……とは言っていたけれどここまでするものなのか。
しかしてその一方で国境を隔てるその壁、それを通り抜ける道は遠くから見ていて勘違いしている可能性もあるけれど、なんだか無人に見える。人っぽい姿がない。関所だと人の管理用に門番的な人が配置されていたと記憶しているが。
「ああ、国境越えは別に自由ですしね」
街に入る事、と国境をまたぐことはまた別ものらしい。街の出入りは人の往来の管理の意味があるけれども、国境はその限りではないとか。それこそ国境内の出入りであればそれに続く街で事足りるのか。
そもそも国境だの国だのという形こそとっているのはあくまで管理の為らしいから人の出入りもそこまで興味がないという感じか。
「それにここまで3日かかってますから……人を置きづらいんだと思いますよ」
確かにこんなところ下手な転勤より嫌だな。
「あれ……じゃあここまで厳格に国境引いたり、こんなに強固な壁の意味って無いんじゃ……」
「どうでしょう? 少なくとも頑丈なのはモンスターに破壊されないように……と言われてますけど」
「ああそっか……バカでかいいの……ボアとかいたもんね」
それこそああいうサイズ感の奴らに衝突されたら街の壁じゃ一発で破壊されそうだしな。
「アナトリー国って発展してると思ったけど……思ったより人いない?」
国境の壁。そこの通り道は壁自体の分厚さも相まって若干トンネルじみている。その所為か、左右に明かりがあって、時たま冒険者が休んでいるらしい姿が伺える。
コレをくぐり終えたら別の国らしいけれど、なんというか発展感がないような、それに人もあまり見えない。皆無じゃないけれど、しかし勝手な想像よりは少ない。
「ああ、ここはアナトリー地方ではありますけど、小規模の街ですから」
そう言えばエストとトランキーロの間にも幾つか街があったっけ。とするとここはペラって名前の街かな、位置的に。
「まあでも国境自体は超えましたし、ペラの街までたどり着いたら多分エストまではすぐですよ」
アモール出てトランキーロまでは割と直ぐだったからそんな感覚で良いのかな。兎にも角にも街へと向かおうか。
「ひたすら道歩くだけ?」
「そうなりますかね。ただ食料的に余裕がある訳じゃないのでどこかで狩りはしたいところですが……」
「それなら一旦、森まで入る?」
「そうですね……そこまで遠くにいかなければ大丈夫だと思いますけど……念のためもう少し道歩いてペラに近づいてからにしましょうか。そんなすぐに尽きるほどでもありませんし」
「おっけー」
■
「今どの辺りだろう……」
それから更に1日歩き、それから森の中へと入った。とは言えこの地点がペラという街からどれほどの距離かは分からないから、果たして1日分歩いた意味はあったやらなかったやら。
「そればっかりは何とも。まぁどの道歩くしかありませんし」
「まぁそうだけどね。とりあえず食料調達もはやいところ終えようか」
そんな訳で何かないかと捜索を続ける。まぁ森へ入ったばかりだから、そんなすぐにモンスターが見つかる訳ないけれども。
「ミヤトさん、アレ……」
しかしながらフィリアは突然、近くを指差した。あわせてそちらへ目線を……ん?
「え、いやアレって……」
見た感じだと幻覚の類じゃなければ、女の子にみえる。森の中で。童話の世界か何かというわけではなく、普通に普通の女の子。……って、そうじゃなくて。普通にただの女の子に見えるし、武器も防具も見受けられ無い。
「いやな予感が……」
こんな時に限って、気配察知が反応している。
 




