27話 フィリアとの関係
「……?」
気のせいだろうか、聞き間違いだろうか。
彼女の表情が今までと違う。言葉遣いがどこか違う。態度が違う。それと同じくらい俺自身も変になっている。聞きなれない言葉のせいで、感覚がおかしい。落ち着け、改めて咀嚼しろ。
「……す……き……?」
「散々固まった挙句出てくる言葉それだけなの!?」
確かにカコから告白を受けた筈なんだけれど、しかし彼女からビンタされた。何だろう、明らかにやっていることは暴力のソレであるけれど、いつも通りという感覚がある。
そして叩かれた衝撃のお陰だろうか、先ほどよりも思考回路がこちらもクリーンになった気がする。
「……まぁ言っとくけどアタシフラれる前提で言ってるから、アンタがわざわざアタシに気遣うみたいな真似しなくていいわよ」
そうだ、先ほどもカコが言っていたけれど、寧ろ彼女こそが俺に気を遣っているような感じがする。フラれるつもりでいる、とかフィリアがいる……とか。
「フラれる前提ってなんでまた……」
「なんでって……そりゃアンタにはフィリアがいるじゃない」
「……? ……あっそういうことか!」
そうか、そうか。なんでここでフィリアの名前が出てくるのだろうかと疑問だったけれど、フィリアが男だという事をシンプルに知らないのか。
それでいて、俺と行動をずっと共にしているわけだから、カコの視点からするとそういう関係に見えていると言う訳だ。
彼女の告白に対して、答える答えないは一端置いておいて、フィリア自身のことと、関係についてはちゃんと伝えておくべきだろう。
「何よ、急に納得したみたいな顔して……」
「いや……カコが気にしてたことが分かったっていうか……とりあえず、これだけは伝えておく」
「え……な、何よ……」
「フィリアと俺はパーティーではあるけれど、それ以上のことは何もない。それでもって、フィリアは男だ」
「……は?」
空間が静まる。そりゃあそうだよね。俺だってフィリアの性別を知ったときは驚いたものだ。あの顔にあの体躯で男である――つまりついでるんだぞ、バグだろ。……という話の為に俺はカコに呼ばれたわけではないのだ。
「いやいやいやいや、流石に冗談をつくにしても程があるでしょ? フィリアが男って……それ、嘘つかれてるアタシもそうだけど、フィリアにも失礼よ流石に」
しかしながら冷静さを取り戻したのか、俺の言葉を否定する。噓ではないのだが、しかし俺が知った時と状況が異なるから、それも仕方ないだろうか。俺は直接フィリアに鑑識を使った結果判明したものだし。
「そこまで適当な嘘つくなんて、アンタに告白したの間違いだったかしら」
「いや間違いじゃ……そ、そうだ、鑑識……鑑識のスキルでフィリアを見てもらえば……」
「鑑識で、ってアンタ、女の子が泊まってる部屋勝手に入る気!? 鍵だって流石に……あでも酔い潰れてるからそうね……」
ぶつぶつとカコは何かを言っている。
「いや、普通に同じ部屋だけど……」
それに対してこう返したところ、再び驚かれそして怒られる。
「アンタそれ付き合ってる奴じゃないの!!! そんなんで傷つけたくないからか知らないけど、適当な嘘つくのは流石にあり得ないわよ!?」
まぁフィリアと一緒の部屋としているのは今までがそうであったから、若干癖でそうしてしまったところはあるかもしれない。今回は特にカコと共に得たあの大金がある訳だし。
とは言え今更だろう。それにフィリアは断らないどころか、向こうから積極的に俺と相部屋となるよう仕向けるだろうから。
「別に、フィリアが本当に女の子だったら問題ないだろ? だって俺も男なわけだから」
「そりゃ、まぁそうかも知れないけど……」
そうはいってもカコの表情は釈然としない様子。しかし事実であるからしょうがない。
「アンタ……これで言ってること嘘っぱちだったら承知しないわよ」
「良いよ、好きなだけ殴ればいい」
と言う訳で寝ているフィリアに会うために宿の方へと案内する……という必要もなく、物陰から見知った姿が。そう、フィリア本人で……え?
「え、フィリア!?? え、なんでここに……確か寝てて、それで宿においてきてから……」
「い、今は良いじゃないですかそんなことは! そ、それよりもカコさん!! ミヤトさん!! わ、私が男なわけないじゃないですか!」
出てきていきなり事実であるはずなのに否定を食らう。いやフィリアが男でなければ俺の衝撃は何なんだよ、と言いたい。それでもって女子であったとなると本当に同じ宿に泊まっていたりなんかのアレコレが急にややこしくなるではないか。
「いや、フィリア男だったじゃん」
「じゃ、じゃあミヤトさんは私の裸を見たことがあるって言うんですか!? お風呂だって別々なのに!!」
「いや流石に無いけど……ていうか生活の半分くらい野宿じゃん」
「……フィリアはああ言ってるけど、どうなのよ」
「どうも何も、鑑識使えば一発だよ」
フィリアがアレやコレや言って話が拗れる前に、さっさとスキルによる事実を見てもらうのが一番楽だろう。それでもって今度こそ驚いてもらおう。
「あとで覚悟しておきなさいよ」
そんな捨て台詞と共に、鑑識を使用していた。
「いや、カコさんそんな必要はっ……!!」
「……は?」
ちゃんと性別を確認したらしい。途端に言葉が途切れ、再び唖然とした表情に変わる。
「フィリア……アンタほんとに男?」
「……はい」




