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23話 パワープレイの集合場所

「……」

 すっかりカコの姿は見えなくなっていた。

「ミヤトさん、戻りましょう。私たちまで付き合う義理はやっぱりありませんって」

 フィリアが俺の袖を引っ張りながらそういった。俺たちが歩いてきた道を指し示しながら。

「でも……」

「どの道、姿が見えなくなった以上、簡単には追えないですよ」

 確かに、例え地図があったとて山の中である。彼女を捜索するのは難しいだろう。

 ……だからはいサヨウナラ、で良いのだろうか……。しかし実際問題、彼女を探す手立ては無いんだし、最善も何もない。


「……雨だ」

 山の天気は変わりやすい、とはいつかの漫画で見た言葉である。この殆ど森のような状態である麓もその天気が変わりやすい、の範囲に含まれて良いのかは定かではないが雨が降ってきたこと自体は事実である。

「どこか……雨風がしのげるような所は……」

 二人で小走りの状態であたりを見渡す。

「ミヤトさん、あそこ」

 そう言いながらフィリアが指を指したのは、洞窟めいた場所。高低差のある岩肌とその一部が削られて空洞のようになっており、今の俺たちにはお誂え向きと言えるだろう。

「凄い丁度いい感じであったね……」

「洞窟……とするには奥が全く広がってないので誰かが削っていったりした後何でしょうか?」

 俺たち二人が入るにはそれなりに充分である。そして彼女が言った通り奥が全くない。意図的に魔法だか力業だかで削った、と説明された方がしっくりくる。

 それこそこういった雨を凌ぐために。


「カコ、大丈夫かな」

「勝手に別れて行ったんですし、ミヤトさんが気にする義理は無いのでは?」

 やはりフィリアはこの調子。カコと馬が合わないと思っていたら意外とあった……と思ったがやはり馬は合わなかった。しかしまぁ地図の読めない者が地図の読めない者へあそこまでの態度をとるとは思わなんだ。


「確かに義理も義務もないけど、女の子一人山の中なんてほっとけないよ」

 俺たちは巻き込まれた被害者といえよう。だからこそ彼女の言う通りカコを探す理由というのは陸としては存在しない。だからすべて感情論である。

「それに、そもそも俺がOKしたのも事の発端みたいなもんじゃないか」

「それはそうかもしれませんが……」

 そうさ、俺のせいでもあるはずだ。彼女が責任を感じているように、俺だって何も無責任に過ごせるほど図太くはない。


 その思いが伝わったのか、それともフィリアにとってはこれ以上引き留めるのは無理だと結論付けられたのか、それは分からない。がしかしフィリアはふぅ、と少しばかり息を吐いて認めてくれた。

「……探しに行くというなら止めはしません。結局、ミヤトさんの決定ですから……ただそれでも我武者羅に探しに行くというのであれば納得は出来ませんしそれで迷子になったら私が困ります」

 という条件の下で、だが。

「うっ……」

 確かにこの状況下で捜索というのは無理しかない。俺一人で出たら結局俺もそう何しかねない。ていうか二人で出ても同じだろう。カコの居場所が分かっていれば話は別だが……もしくはカコと同じ場所で上手いこと落ち合えたら……。

「……そっか、そうだよ」

「何か……?」

 そうだ、場所さえ決めればいいのだ。俺たちとカコが集合する場所が。

「確かに今の俺じゃ人探しは出来ない。彼女側から何かわかりやすいサインでもあれば別だけど」

「それじゃあ虱潰しに探すしかないじゃないですか」

 フィリアの言葉に対して首を横に振る。探す、となれば無理であろう。こちらに地の利は無いし、人探しに役立つスキルも無い。

「逆だよ、逆。俺たちが探すんじゃない」

「逆……ですか?」

 俺たちが探すのではなく

「俺たちの場所を示して、カコに来てもらう」


 ■


 何かしらの方法でもって、カコ基この森周辺にいる人々やモンスター等々に居場所を知らせる。それであればカコの目に留まることもさほど難しくはないはずだ。

「理屈はわかりましたけど……そんな上手くいくんですか? そもそもあの人がわざわざ私たちのところに戻ってくるとも思えませんし……」

「多分、俺たちの場所が分かればやってくる」

 彼女は身勝手な人間という側面ももちろんある。けれどもそれ以上に、多分だけど責任感はちゃんとある。彼女は人一倍、プライドが高く、それでもって負い目を感じるタイプの人間だ。じゃなきゃわざわざ依頼の最中に俺を特訓してくれないだろうし、ジョブの話だってしてないだろう。

 所詮この依頼が終われば赤の他人になる相手に、だから。

「確実とは言い切れないけど……でも、そんな気がするんだ」

「……場所を知らせるといっても、どうやるんですか? まさか大声で叫ぶとかそんな話ではないですよね?」

「だから、フィリアの力がいる。フィリアの魔法を上に向かって放って、場所をアピールするんだ。俺の魔法じゃその辺の瘦せ細った木を浮かせるかどうか、ってレベルだから」

「……私にカコさんが見つけるための魔法を何か使え……と」

 コクリとうなずいた。彼女は多分カコのことではあまり動きたくはないだろう。しかし彼女の力がなくてはならないし……それにこれはカコの為ではない。

「ただ、カコを探したいっていう俺のエゴの為だ。だから、カコのためじゃなくて俺の為……ってことで、どう?」

「ミヤトさんのお人好しっぷりには呆れましたよ……良いでしょう、そこまで言うならやってあげます」

 そう言うと、フィリアは右手に小さないつもの杖を持ち、天へ掲げる。

「カコさんが見つけるため、っていうことであれば目につきやすいモノが良いですね」

 そう言いながら杖の先からは轟音と共に水の渦が天高く巻き上がっている。……これは……。

「ボルテックス」

 俺も使ったことがある、水の渦を魔法で生み出し、相手にぶつけるというもの。それを一層長くし、それをどこにも放たずに維持させている。

 この大きさと音だ。あとはこの魔法で出来た槍の柱にカコが気づくかどうか、そしてこちらへ来てくれるかどうかだ。結局、来てくれるだろうと思ってはいるけれどそれはあくまでこの短時間で得た推測のものである。根底が違えば意味はない。

 だからまぁ結局最後は運になるけれど……。


(こういう時にこそ……俺の幸運のステータスが仕事するべきだろっ……)

 どこで作用するのか分からないあの7の数字に祈るしかない。幸運ステータス7、ラックの数値がラッキーセブンなんだぞ。

「ミヤトさん、言っておきますけど今この状態で魔法を使うのは少し厳しいです。片手でも可能ですが、出力もコントロールも安定しません」

「つまり……?」

「カコさんがここを見つけてやってくるまで、モンスターがおそってくる可能性があります。その時にはミヤトさんが対応してください、ということです」

「そのためにカコに鍛えられたってもんだよ。それくらいやれないとね」

 それに今回は、武器一つではない。魔法だって使えるのだ。不安はあれど、百人力。


「来たッ……」

「あれはフレアハインドです!」

 最初に出てきたのは小さな赤毛のトナカイのようなモンスターが4匹。ロックタランドスとやらと比べると小ぶりで且つアレと比べると脅威は感じない。

「余裕!」

 剣と魔法で2体ずつを即座に撃破する。あまり強くないお陰もあって、これくらいならばすぐに討伐できた。しかしまぁここまでバカでかい目印があってこの音、それに加えて俺の戦闘音。

 当然、次のモンスターもこちらに引き寄せられる。なるほど、モンスターのドロップアイテムがほしければこんな手があるのかもな……二度とごめんだが。


「まだ来ます!」

「分かってる!」

 次はよく見た緑の毛をした猪が2体。これであれば今更苦戦する要素はない。

「ていっ!」

 走りこんで、剣で一閃。それですぐさま真っ二つ。

 すぐさま猪はドロップアイテム化した。

 このくらいならまだまだ何とでもなるはずだ。後はカコがここに気づくまで時間を稼ぐ。

 はずなんだが……。


「流石にこれは……」

 ロックタランドスが2体。1体ですらあんなに手古摺ったのに、2体と来たか。詰みポイントが早すぎる。

 いや魔法があれば或いは……もしくは一発で片方を仕留めれば……。

「ミヤトさんっ!」

「うぉっ!!!」

 力強い突進。後ろのフィリアではなく此方を狙うような攻撃だったから何とか避けれたし何事も無かった。少なくとも下手にバランスを崩されて作戦失敗が一番よくない。だからフィリアの方には近づけさせないようにしなくては……。駄目だ、考えることが多すぎる。そうだ、最終的にはカコと合流さえ出来ればいいんだから、倒さずとも……いやそれにしたって……。


「またゴチャゴチャ考えてるわね、アタシがいったこと忘れるとか、正気なの?」

 剣による一振り。その一振りで目の前にいたロックタランドスの一体が沈黙した。


「何考えてるのよ、アンタたち」

 その声は、その強さは、紛れもなく――。

「カコさん!」

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