21話 実戦
「ま、形にはなってきたんじゃないの?」
昼が過ぎて更に時間が経過した。力尽きる度にフィリアの魔法でもって回復を入れてもらうという若干チートじみた練習法。その甲斐あってか、それともカコの指導の賜物かもしくは俺自身の秘められた才覚か……三つ目はジョークであるとして、兎も角紆余曲折を経てカコがある程度納得する形にはなってきたということらしい。
ずうっと反復練習しかしていないせいか、実感らしい実感がわいていないのだが。
「それじゃあ探索再開?」
「そうなるけど、適当な雑魚で実戦は幾らか積んだ方が良いわね。何かいないかしらね」
とは言えチュートリアルミッションの世界と言う訳でもないから、当然タイミングよくモンスターが現れるという事はない……はずだが。
「……あっちに」
「?? 指差して一体何よ」
また感じる、例の感覚。運が良いのか悪いのか、モンスターがいる気配だ。
「多分向こうに何かいるんだと思います」
「……何なのソレ、気配でも分かるっていう事??」
俺の反応とフィリアの補足に対して意味が分からないといった表情になるカコ。こればっかりは俺にもよく分からないから許してほしい。
理屈も何も分からないスキル気配察知によるもの。そもそもコレが本当にこのスキルの恩恵なのかもはっきりしていない……がこの不思議な感覚があったときの遭遇率は現時点で百パーセントである。
故に――いるはず。
二人についてきてもらいながら気配がした方向へと歩を進める。やはり――。
「ほんとにいる……」
二匹ほど、そこにいた。鹿のようなトナカイのような四本足のモンスター。しかし俺が知っているそれらと比べて角の形が鋭利だしやたら大きく見える。即ち、どこか殺意が高そうな見た目。
「ロックタランドスですねアレ」
フィリアがそういった。名前の響きから何というか固そうな印象が伺える――が、それと同時にフィリアもそうだがカコもとくに慌てるような様子が伺えないあたり、名前ほど危険じゃないのか……?
「そうみたいね。ちょうどいいかも」
実際問題、フィリアから魔法障壁は張ってもらっているとは思うから、モンスターからのダメージはさして無いと思うけれ……。
『ヴヴッ!!』
突然、トナカイはその角を振りかぶって近くにあった岩を砕き始めた。そんな石ころとか生易しいものではなくてモンスターと同じくらいの体躯はあろう岩を。それから岩をがつがつと食べだした。岩そのものが栄養分ということなのか?
普通ならただの砂利だけど
(あれが……ちょうどいい……なの?)
「ほら、あれ倒してきなさい。あんたが魔法使うのは禁止よ、当然ね」
ポン、と背中を押された。その勢いのままモンスターの目の前へ。
「……?」
一度後方を振り返り、カコ及びフィリアの反応を見たがやはりと言うべきか何食わぬ顔をしている。さっきの岩砕きを見てあの態度なのはどういうことだ……。
兎も角、目の前のソレを攻略しないことには先へ進めないという事だから、やるしかない。改めて剣を強く握り構えて様子を伺う。少なくとも向こうからも俺の事は認識されているはずだ。
先ほどまで食していた岩、それに視線がいっておらずこちらを向いている感じがする。……けれども仕掛けて来ない……という事は向こうも出方を伺っているという事か?このままじりじりと膠着するだけの時間が続くのも……しかし初めて戦うモンスター相手に素人が仕掛けても……。
「うわっ」
こちらの事情など当然お構いなしにモンスターは突進してくる。突進の勢いのままにぶつかった木を薙倒して見せる。圧倒的な破壊力。
(あれ食らったら死ぬだろ……いや魔法障壁で効かないのか? それでも突進の勢い自体は受けるはずだから……)
モンスターの一つ一つの挙動を分析しながら、どうすべきかを何とか考えようとする。
「アンタ、余計な事考え過ぎよ」
すると突然後ろから、カコの声がする。
「大体のモンスターは教えた通りにやればいつか倒せるわよ」
教えた通りに……と言われても、通用するのか?
真ん中に敵を捕らえて、細かく動きながら攻撃を続けるというものだが、その真ん中に敵がとどまってくれるわけが……。
いや、それこそ余計な事を考えている、ということになるのか。取り合えず教わったことを、やれることを、ただやっていくしかないか。
「っとお!!」
とはいえバカ正直に一から十まで従ってはいられない。突進を避けて、それから剣を改めて構える。
剣の範囲と動く範囲、その真ん中にモンスターをフォーカスさせて……。
「よし……ッ」
……動き出す。
カコが教えてくれたものは基本的な動いて翻弄し、隙を狙う形。故に移動が只管多くなるが、それゆえに汎用性は高い……とか何とか。ついでに言えば、これだけ動けるようになればある程度どうにでもなる……とも言っていた。
中心に対象を捉えた後は只管にヒット&ウェイを繰り返す。少し剣先を相手に当ててはすぐに身を引いて距離をとる。それから出方に合わせて避け、再び動きの中心に相手を抑える。その繰り返しだけで――。
――。
時間こそ掛りはしたがしかし確かにモンスターを倒すに至った。
ただただ、彼女に教わったことをなぞるだけの戦い方で――。




