20話 剣術指南とかいて修行パート
「……これが一通りの動き。アンタ見た感じバカじゃなさそうだしこれで何となくわかるでしょ?」
山の麓。少し開けた場所にて、カコの厚意により始まった剣の修行。
フィリアは近くの大きめの石に座りながら俺たち二人を眺めていた。
「そういえばアンタ剣あるの?」
「ああ……一応ストレージの中に……」
そう言って暫く眠らせていたその剣を取りだす。それこそ長さとしてはカコが持っているものと近そうなサイズ感。
「アンタこれもしかして新品? 一回も使ってない口じゃないのこれ」
「まぁ……魔法が手軽だったから……」
「それで使わないんだったらただただストレージ圧迫するだけじゃないの」
兎も角。ストレージから取り出した剣を改めて握った。持ちやすさとか扱いやすさ、みたいなところで選んだけれど……これ本当に俺に扱えるのだろうか?
今更になって不安になってくる。何より、カコからは”バカじゃないんだからアレでわかるでしょ?”という発破にも似た言葉と、少し離れたところから俺たち二人を眺めているフィリアの視線。それが一層この場の緊張感を高めている。
「ええと……剣構えて……」
先ほどのフィリアの動きを思い出し模倣するように動いてみる。確か目の前に自分と同程度のサイズ感をしたモンスターがいると想定した動き……だっけ。
故に適切な距離感を保ちながら、距離感を測りながら少しずつ剣の切っ先でもって攻撃していくイメージだ。
とは言え俺と彼女とでは県の種類自体が違うし、それに練度とか足の速さ、体躯等々相違点も多い。だからあくまで”それっぽい動き”でしかない。
「一旦止め」
カコから静止の声がかかった。
「ど……どう?」
「まぁ初めてやるならこんなもん、って感じかしらね。可もなく不可もなく」
「可もなく不可もなく……」
才能が全くない、ということでは無いから落胆こそしないけれど、しかしそんな総評当然喜べもしない。
「ま、こればっかりは慣れよ、慣れ。勝手に体が追い付いてくるわよ。ほらもう一回手本見せてあげるから真似して……返事!」
「は、はいッ!」
再度始まる剣術指南。
カコのお手本を見ては何度も剣の動きを繰り返す。その度にカコからの総評を貰って修正しながら。
…………。
「い……いつまで……やるの……これ……」
これはゲームではない。ゲーム的なつくりをしていても、プレイヤーは生身の人間である。……実際にコレが生身かどうかは不明だけれど、しかし体力は体感で確実に減ってる。所謂例のステータスのアレコレではなくて、シンプルに気力とか精神面的なソレの話。
即ち……もう動けないというやつ。
そもそも元から運動を良く行っていたという質ではない。心なしか体力そのものにこの世界に来てからバフのようなものがかかっていると感じるけれど、それでも無限になったと言う訳じゃないはずだ。でなければもっと早い内からばててるかもしくはまだまだ元気なはず。
「あんたほんとに冒険者……?」
体力が尽きて両手両膝でもって地面につきながら息をしている俺に対して辛辣なカコ。逆に冒険者ってそんな体力有り余る人間がすることなのか……?
「普通剣振り回して走り回ってたらこんなもんじゃ……」
「近接やるなら倍くらい体力いるわよ」
「マジすか……」
もう剣を持つことすら叶わないんだが。これ近接戦闘を勧められこそしたが、結局こちらの才能の方がなかった……という事になるのか?
やはり追放は免れないと……?
思考がネガティブになってきたところにカコが遠目から眺めていたフィリアに声を掛けた。
「フィリア、こいつ回復したげて。どうせできるでしょ?」
「どうせ、って何ですかどうせって!!」
そう言いながらもフィリアは腰かけていた石から離れてこちらへと近づく。そうして右手にもった小さな杖を振り俺の方へ魔法をかけた。
「レフェクティオ……これで多少はマシになったかと……ミヤトさん、どうですか?」
「……?」
魔法の力だろうか、先ほどまでもう一歩も動けないと思っていた体がみるみる元気になっていくのを感じる。少なくとも立つことは容易だし、再び剣技の練習だって……。
「何これ……」
「フィリアの魔法で回復させたのよ。あれだけ凄そうだったからどーせ使えると思って……にしても体力完全に満タンまで戻したのね」
「ミヤトさんのためですから!」
甘やかしすぎて一周回って俺のタメにはなっていないんじゃないかと思えてくるけれど、しかしこうして動けるようにしてもらったのだから何も言うまい。
「アンタほんっとにコイツに対しては甘いのね」
「ミヤトさんはそれくらい素敵な人ですから! 否定するんだったら容赦しませんよ!!!?」
「別に否定する気とかないわよ。めんどくさいわね……ほらアンタも、全回復してるんだから続けるわよ」
「ちなみにいつ頃まで……」
「アタシ的に満足いくとこまでね。フィリアも、回復魔法、お願いね」
「ミヤトさんの為ですから、任せてください!」
「スパルタだぁ……」
■
休む暇のない訓練の果て。山に入ってからどれ程たっただろうか。生憎時計なんてものは持っていないから正確な時間は不明だが、体感だともう8時間くらいたってる気がする。……尤も、太陽の位置的には多分2時間とかそこらだろうけれど。
そんなぶっ続けの訓練から一区切り。流石にもう昼食頃の時間という事で切り上げることになった。
昼食はフィリアが用意してくれることになった。……というかカコ自身はその辺が苦手らしくて基本的に街であらかじめ買ったものを食べているとか。俺と同じ属種で少しばかり親近感とか安心みたいなものを覚えてしまう。
「悔しいけど、フィリアがいて助かったわ」
昼食をとりながらカコは呟く。悔しがる理由はわからないけれどまぁ同意である。
「ご飯の後も続けるんだよね?」
「そのつもりだけど、不服なの?」
「そうじゃなくて、本当は山脈調査の依頼でしょ? わざわざ俺鍛えるのに時間使って良いの、って……」
足を引っ張っている存在だからこそ、鍛えてもらっている訳だが、それで逆に時間の面で足を引っ張ってしまっている状態だ。
「アンタが強くなればそれだけ攻略効率上がるからそこで調整とれるわよ、多分」
「多分……」
「気にするくらいなら早く強くなりなさい。それが結局のところ近道よ」




