19話 二人の連携
しかしてどうだろうか。俺が感じていた杞憂はどこへやら。
この二人もしかしてめちゃくちゃ相性が良かったのではないだろうかと言うほど。
カコが前に出て情報収集と囮役。フィリアが情報をもとに作戦指示と魔法によるサポート。そして最終的には再びカコが留めの一撃。
フィリアの凄さは知っていたけれどここまでとは思いもよらなかったし、カコもあれだけ自らの強さを息巻いていた理由がなんとなくわかった。
シンプルにふたりとも強い。
強い人間と強い人間が二人合わさっていて、それが単純な足し算ではない相乗効果まであるのだ。
俺たちの前にまたもや飛び出してくるモンスター。
巨大な猪が出現したとほぼ同時にカコが目の前へ飛びつき、モンスターの視界に意図的に入って見せた。
「フィリアそっちに3体抜けていくわよ!」
「見えてます! ボルテックス!!」
巨大な一体をカコが引きつけて、そこ陰から出てきたほかのモンスターをフィリアが魔法でもって倒していく。
『ヴヴ……?』
「音に反応するのかしら?」
巨大な猪もフィリアの魔法による爆風に気を取られたのか体の向きが変わる。しかしそれをカコは見逃さず、今度は逆にダッシュして背後へと回った。
「ほらこっちよ!!」
後ろ足の片方を斬りつけた。流石にダメージには反応するようで、再び猪の体の向きが変わろうとするが……。
「フィリア!」
「はい! クラドス!!」
俺が使っていた時とは比べ物にならない巨大な魔法で編まれた槍を放ち、顔面……それも目のところへとクリティカルヒットさせる。そこからカコがとどめの背面からの斬りあげ。
「これで終わりッ!!」
そうしてあっという間に4体のモンスターは沈黙し、ドロップアイテムへと変化する。
会敵してから1分そこらじゃなかろうか。
「は……早……」
「……意外と戦いやすいわね」
「私も同じ意見です。囮役いるだけで魔法の範囲狭くできるのでリソース消費少なくて済んでますね」
そしてあろうことか少しばかり意気投合しているようにも見える。カコの方がどう思っているかは不明だが、フィリアは明らかにカコに対して苦手意識を抱いていたはずなんだけど。
「……ていうか俺の出番皆無じゃん」
立つ瀬が無い。援護も何もあまりにも掃討するのが速すぎてこちらが行動する間もなく片付けられてしまったから。
「ミヤトさんはそこにいるだけで良いですから!」
「そうは言うけど何かあまりにも申し訳ないし……」
「そうは言っても魔法連携ってなるとすぐには無理だと思うわよ、アンタの技量だと。今のままならまぁいらないわね」
カコからははっきりと不要認定されてしまった。しかし言い返す言葉もない。
「そんなことないですよッ! ミヤトさんがいると私が強くなりますから!」
「アンタそれフォローになってないわよ……」
フィリアのフォローも少しズレていてカコの方が常識人的な反応をしていた。いや、フィリアというとこんな見目だがずうっと女装して生きているわけだし最初からズレてる存在と言えるのかも……。
いや、そういう話はいったん置いといて、今俺自身の中にあるのは、俺自身が必要ないんじゃないか、という不安感ただ一点。
中距離、遠距離から攻撃するという事であればフィリアが既に存在している。ならば俺を含めて二方向からの火力にカコの囮を……という考え方もあるが、そもそも火力ならばフィリア一人で事足りるため2枚の火力などと言えば聞こえは良いが実質1,2枚くらいだろうか。
何より動き回るカコを避けながら魔法を行使する必要がある。当てないようなコントロールが必要ということだ。
フィリアもそれを理解しているからこそああいったフォローの形になってしまったんだろう。
「ってことはずっと俺後ろから見てるだけ……?」
「ミヤトさんは後ろで応援してもらえれば……と」
「まぁある意味後方支援かしらね」
二人してそんなことを言ってくる。凄い虚しい役職じゃん。異世界にきて最終的にエキストラみたいな役目とは泣けてくる。
「かんっぜんにお荷物じゃん……」
これが最近よく見かけるようになった追放系というやつなのだろうか。差異があるとすれば、追放された俺自身にチートらしいチートは皆無というところか。
……などと考えていたところに、カコが言う。
「あんたそれんなら近接戦闘すれば?」
「へ?」
「だからアタシと同じ立ち回りすれば? ってこと」
剣を構えつつさも平然とした態度で言ってのける。
「簡単に言うけどそもそも俺剣なんて素人だし……」
彼女は軽く言って見せたけれど、そんな簡単に出来るのであれば人は苦労しないという物である。剣の心得は皆無だしそれこそ魔法職じゃないが扱うセンスがあるとも思えない。
「別に、剣の扱い方ぐらいアタシが教えるわよ」
「えっ……いいの?」
「まぁ使えるコマが増えるに越したことは無いでしょ。ていうか、アタシから直々に教われるなんてまたとない機会なんだからもう少し有難がって欲しいわね」
つんけんとした態度は相変わらずであるけれど、それでもカコなりの親切心みたいなものなのだろう。
画して、山の麓にて始まったシガミヤトの剣の修行。
師匠は何故だか昨日会ったばかりのカコという女性冒険者。




